第6話 普通の天才と超天才
ものの三十分程度でボードを作り上げた僕は、誕生日プレゼントにもらった塗料の箱を開けた。
毎年、僕の誕生日に、師匠がわざわざベルンシュタイン侯爵家に行き、僕へのプレゼントとご馳走を運んできてくれるのだが、一昨年の誕生日プレゼントが、この塗料のセットだった。
『この色はお前の瞳の色だからと、追加で買ったものらしいぞ』
珍しく説明しながら手渡してくれた深い青色は、確かに僕の瞳の色だった。
今こそ、この色をアリーのために使うべきだろう。僕は丁寧に色を塗り、風魔法で乾かしていく。
もらった時は、今更何をと思っていたが、アリーに求められて、考えが少し変わった。実家でも、そしてアリーからも、この色を『怖い色』だとは一度も言われたことがなかったと気づいたのだ。
「ふう、できた。喜んでくれるかな」
僕は小屋から出て、ボードに乗り、アリーの元へ戻った。
「はい、アリー。これでどうかな?」
「わあ! ありがとう、お兄さま! ちゃんと『アリア』って名前まで書いてある! 嬉しい! 大事にしますね!」
満面の笑みで僕からボードを受け取るアリーに、つい「お菓子をくれるからといって、ついて行ってはいけないよ!」と言いたくなったが、まだ二歳のアリーには早すぎるだろうと口をつぐむ。
「さて、乗ってみるかいアリー。コツは、さっき教えた通りだよ」
「はい、お母さま」
アリーはボードをそっと地面に置き、その上に乗ると、集中しているようで体の周りを風が渦巻き始めた。
「えっ!? アリー、大丈夫!? ちょ、師匠!」
「まあ、問題ないだろう」
「問題、あるでしょう!?」
そう言った瞬間、アリーが大きなつむじ風に巻き込まれて投げ出されてしまった。
「危ない!」
僕は岩に叩きつけられそうになったアリーをボードで追いかけ、受け止めた。
「ふう、大丈夫かい、アリー。もう少し、魔力のコントロールを……うん? どうしたんだい?」
「お兄さま! このまま、お母さまのところへ行けますか?」
「ああ、アリーぐらいなら抱えられるけど……」
「お願いします!」
アリーのボードを右脇に抱え、左腕でアリーを支えた僕は、自分のボードで師匠の元へ戻った。
「アリー、分かったかい?」
「はい、お母さま! やってみます!」
「えっ? アリー、大丈夫かい?」
「はい、お兄さま! ありがとうございました!」
ん? ありがとうございました?
次の瞬間、アリーを乗せたボードがふわりと浮いた。
……おかしい。
一度目はあれほど暴走したのに、今度は風がまるで乱れていない。
じっくり観察していると、僕が普段やっている魔力操作そのものだと分かった。
……いや、見ただけでそこまで再現できるだろうか?
さらに、ボードがゆっくりと前へ進み始めた。
そう、前に進んだのだ。
僕だって、王宮の魔導師から実技の才能を褒められてきた。それでも、浮くだけで二日。そこから前に進むまで、さらに一日かかった。
それをアリーは、一度僕に抱えられただけで――。
そして、安定したことを確かめた次の瞬間、物凄いスピードで岩山の上まで行って帰って来た。
「ま、マジか……」
「ギルバートに抱えられて乗ったことで、感覚を掴んだんだろうさ。あたしは最初から風魔法で飛べたからね。どうやって乗っているのかも、よく分からなかったからねえ」
「え? さっき、アリーに『コツ』って……」
「ああ、コツはギルバートを真似ることだと言ったのさ。魔法なんて、昔は教わるものではなく、見て覚えるものだったからね」
「……それはコツではないのでは?」
「乗れたんだから問題ないだろう? アリー、楽しかったかい?」
「はい、お母さま! これからは、お兄さまと一緒に移動できますよね! 嬉しいです!」
ぐっ。乗れたことより、僕と一緒にって……。この日、僕はアリーを守ると心に決めたのだった。




