第5話 実技開始?
ヘレーネ様が僕たちの住処から帰城なさった瞬間に、師匠がおかしなことを言い始めた。
「さて、姫さん。早速、実技を……剣を握ってみようか」
「実技、ですか?」
「ああ。まずは――」
アレンは洞窟の外を指差した。
「あの岩をぶっ壊してみな」
「師匠ぉぉぉ!?」
「ししょー、剣で岩は壊せますか?」
「……師匠、か。そうだねえ、まずは質問に答えると……壊せるぞ。技術がいらない方法なら、魔力を剣にまとわせればいい。技術があるなら、岩の『切れ目』を探して、『狙い撃ち』できれば壊せるが……。なあ、アリー。あたしやギルバートと家族になりたいかい?」
ん? 師匠が妙な質問をしている。僕にも関係ありそうだ。
「えっ? は、はい。私は家族ではなかったのですか?」
「んー、いや、普通の人は恐れ多いんだろうが、あたしは気にしないから家族だと思っていたよ。だが、さすがにあんたは王族だからねえ。本人にも一応、聞いとかなきゃいけないだろうかと思っただけさ」
ああ、師匠らしいな。一応、世間体と王族としての立場を考えたらしい。アリーは賢いから、師匠の言っている意味も理解しているだろう。
「私は、お二人と家族になりたいです。本当の両親は記憶にありません。私を育ててくれたのは、お二人とヘレーネです」
「そうかい。……ギルバート!」
「はい」
「今日からアリーはお前の妹だ。可愛がるんだよ」
僕の妹? 家族ごっこでも……ああ、アリーに『家族』というものを教えたいのだろうか? 師匠のことだから、大事な人というものを、形で表したかったのかもしれない。
「……ええ、言われずとも」
「アリー、ギルバートのことは兄様やお兄様とか……好きに呼びなさい」
「はい。お兄さま、と呼びます」
「うむ。それで良い」
「では、ししょーのことは、お母さまと呼んでも……いいですか?」
な、なんと……。僕も驚いたけれど、師匠の感情を思い切り揺さぶる発言をするなんて。無知とは怖いな……少しずつ、世渡りの仕方を教えていかなければ。師匠に任せていたら大変なことになりそうだ。
「……っ、ああ、好きにしな!」
照れたのだろう、顔をほんのり赤くした師匠は、手のひらに冷気をまとわせ、自分の頬を冷やしていた。器用な人だ……。
「お母さま、剣から作るのですか?」
「ん? ああ。あたしが昔、ギルバートに作って失敗したやつがあったはずだ。あれはどこにいった?」
五歳の僕には少し軽すぎた剣のことだろう。あの頃に使っていた武器はすべて小屋に突っ込んでおいたはずだ。
「お持ちします」
僕はボードに乗って、ふわりと浮くと、あっという間に小屋へたどり着き、剣を何本か持って戻った。
「お兄さま! 私もそれに乗ってみたいです!」
「えっ? あー、これに乗るには……」
「ぷぷぷー! アリー、あれに乗れるようになるには、血の滲むような努力が必要なんだぞ。ギルバートはムキになって、三日三晩眠らずに練習して、やっと乗れるようになったんだ」
「し、師匠っ! もう……あれは、師匠が幼い僕を煽ったからでしょう!」
「お兄さまとお母さまは、仲良しなのですね」
ふわっと微笑んだアリーに、僕と師匠は固まってしまった。
「アリーには仲良く見えたのか。やはり、育ててきたヘレーネの感性に近いのだろうか」
「そうですね……僕もそう思いました」
以前、ヘレーネからも僕と師匠の話を聞いて、「仲がよろしいのですね」「毎日が楽しそうで羨ましいですわ」なんて言われていたのだ。
僕からすれば、師匠の何をするのか分からない無駄な行動力や好奇心に、どれだけ大変な思いをしてきたか、こんこんと説明したくなったものだ。
「ふむ。どちらにしろ、アリーの初めての実技だ。アリーがやりたいことからやらせてみるか?」
「……そうですね。では、僕はアリー用のボードを作ってきます」
「色とかつけてやったらどうだ?」
「ああ、僕との違いが分かった方が良いですよね。アリー、何色が好きかな?」
「……色? えっと、お兄さまの瞳の色が好きです」
「確かに綺麗な青色だ。魔力が強いから、色が濃いんだよ」
「そうなんですね! お兄さま、いいですか?」
上目遣いで強請られるのが初めてで、ドギマギしてしまう。
くっ、僕の妹は可愛すぎないか?
「わ、分かったよ。すぐに作ってくるからね」
僕は、落ち着かない気持ちを師匠に見透かされる前に、慌ててボードを作りに、僕の作業場へ向かったのだった。




