第47話 王位を継ぐ者
元侯爵のルドルフと、元第二王子のディートリヒの処分が決まったところで、巷では次の王位は誰のものかという噂で持ちきりとなっていた。
本人たちは全く気にしていなかったが、第一王子支持派と、第一王女支持派の間で、小さな争いが起こるようになっていたのだ。
そこで、第一王子であるアルベルト本人から正式に、「僕は王位継承権を放棄し、アリア女王の臣下に下る」と宣言した。
その直後、国王陛下が「戴冠式を開催する時期を発表する」と公の場でおっしゃったのだ。
可能性はあると理解していたが、アリアは突然の王位継承に戸惑い、僕のもとに駆け込んできたのだった。
「アリー、陛下のもとへ話を聞きに行こうか。君の婚約者である僕も、無関係ではないからね」
「ありがとう、ギル。覚悟はしていたつもりなんだけど、まさかこんなに早く話が回ってくるとは思わなくて」
「そうだね、僕も驚いたよ。陛下のお考えを確認しよう」
こうして僕とアリーは、陛下の執務室へ向かったのだった。
★★★
「よく来たな。座りなさい」
執務室に通されてすぐ、僕たちは挨拶をする間もなくソファへ誘導された。
まだ少し陛下と距離のあるアリーだが、陛下の顔をしっかりと見つめ、話し出した。
「国王陛下、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「……アリア、公務以外では『お父様』と呼んでもらえないだろうか。ワシ、とても寂しい……」
「「……」」
お茶目な対応をしてきた陛下に僕たちは固まり、何と返事をすべきか迷っているアリーをフォローしてくれたのは宰相閣下だった。
「陛下、それは今ではありません。今は、アリア殿下に今後の話を伝えなければ」
「そうなのだが……。ワシらは引退しても働けるうちは働く予定ではあるが、ずっと『陛下』や『国王陛下』と家族に呼ばれるのは寂しいではないか」
「……まさか、早くに王位継承する理由って——」
「さすがはギルバート殿ですな。そうなのです。陛下はアリア殿下と一緒に働きたい、陛下でなくなれば『お父様』と呼ばざるを得ないだろうからと、戴冠式を急がれているのです」
「えっ!?」
「いや、もちろん理由は他にもある。決定打は剣術大会の帰り道での、あの魔道具の事件だな。民を誘導して避難させ、兵士たちが到着する前には解決し、的確な指示を出していた。王族として、素晴らしい行いだったからな」
「当然のことをしたまでです」
「そう、その考えこそが王族には必要なのだ。ディートリヒは私欲に走った。アルベルトは己が策略家だと自負しているから、アリアを陰で支えたいと言っている」
「私より、アルベルトお兄様の方が向いていると思います」
「ワシから見れば、アルベルトもアリアも、王の資質はある。どちらが王となっても、よい治世を行ってくれるであろう」
「……」
「アルベルトが放棄した理由も一理あると思ったのでな」
「私が王位を継承する理由、ですか?」
「ああ。強き王は倒されない。物理的にも、な。そしてアリアの王配は、唯一、アリアの魔法を受け止められるギルバートだろう?」
「……はい」
「アリアより魔法に長けている者が、この世界にどれほどいるだろうな?」
「お母様ぐらいでしょうか……」
「くくっ、その通りだろうな」
黙り込んでしまったアリーに、陛下も宰相も考える時間を与えてくれていた。
そこに、噂をすればアルベルト殿下がいらした。
「陛下、遅くなりました。アリア、ギルバート、久しぶりだね」
「ごきげんよう、アルベルトお兄様」
「お久しぶりでございます」
「うんうん。アリアがお兄様と呼んでくれて嬉しいよ」
陛下がムッとした顔をアルベルトに向けると、彼はニヤリと笑い、陛下をからかった。
「父上は、まだ『陛下』と呼ばれているのですか? 恥ずかしがらずに、ちゃんとアピールしないからですよ」
「わ、分かっておる! 先ほどお願いしたところだっ!」
アルベルトと宰相はクスクスと笑っている。とても良い関係を築いているのだろうということが分かる。
それにしても、普通は王位を欲しがるものだろう。アルベルト殿下は、アリーの方が向いているとおっしゃっているようだが、本音が聞きたいところだ。
「アリア、王になることを躊躇っているのかい?」
アルベルトが優しい声で話しかけた。
「……私は、王族の一員としてその義務は果たすべきだと理解していますし、民のために生きる所存です」
「大賢者アレン殿からの教えかい?」
「はい。強さとは、己が勝つことではなく、守るべきものを残すこと。辛くても、苦しくても、笑顔でいられる王族でありたいと思っています」
「フェアリアの教えだな」
「噂の、大賢者殿の師匠ですね」
「お母様の師匠、ですか?」
「そうだ。恐らくアレンは、フェアリアから『アリア』という名前をそなたにと選んだのだろうな」
「フェアリア様から……」
「王妃とアレンは共に、フェアリアから学んだんだぞ。この後、王妃と茶でもしたらどうだろうか。きっとフェアリアのことも、若かりし頃のアレンのことも教えてくれるだろう」
「本当ですか?」
アリーの瞳がキラキラと期待に煌めいている。
陛下もアルベルトも、慈しむように彼女を見つめていた。
「先日、あの場で誰より王族らしかったのはお前たちだった。ワシは、フェアリアの教えが息づいていると分かって嬉しかったぞ」
「そうですね。……アリア、王としての仕事を私にはできないという意味じゃない。ただ、君の行動を見て思ったんだ。アリアの方が、この国を良くできるだろうと」
「ありがとうございます、アルベルトお兄様」
「やってくれるか、アリア」
小さく頷き、僕に視線を向けるアリーに首を傾げる。
「……ギル、これからもずっと、そばにいてくれる?」
王になる覚悟を決めた彼女が、それでも僕にだけは不安を見せてくれる。そのことが、なぜだか嬉しかった。
「もちろんだよ。僕にもアリーを支えさせてほしい」
「ありがとう、ギル。陛下……お父様、アルベルトお兄様、私は全力で王の役目を全うすると誓います」
「ありがとう、アリア!」
「私も全力で可愛い妹を支えると誓おう」
「次代の安泰ですなぁ」
こうして、アリーは次期女王になることが決まったのだった。




