第46話 判決は、鬼の如く
僕たちは魔道具を確認するために呼ばれたのだろうが、師匠への恋心を拗らせた侯爵閣下の断罪にまで付き合わされることになったようだ。
「隣国から魔道具を入手した男は、確保次第、隣国との関係を確認し、処刑されることになります」
「……」
「禁制魔道具、そして王族を利用した罪は重い」
判決文を読んでいた宰相が、ふと顔を上げた。
王妃様が腕を横に出し、制止したようだ。
「ルドルフ。奥様には、すでにお伝えしてあります」
——ビクッ!
ん? どんな判決が下されるかより、侯爵夫人に知られることの方が怖いのだろうか。
「早馬を出しましたから、もうすぐこちらに到着予定です。判決は、それからにしましょう」
——ビクビクッ! ガタガタブルブル。
あからさまに様子のおかしい侯爵に、王妃様が扇子で口元を隠した。あれは笑っているだろう。
「クロイツベルク侯爵夫人のご到着です」
ルドルフの顔色があまりにも悪い。今にも泡を吹いて倒れそうに見えた。
「夫人もいらっしゃったことですし、宰相、続きを」
「かしこまりました。この度のクロイツベルク侯爵の罪は確かに重いものでした。ですが、アリア王女殿下を狙った犯行ではなかったこと、滞在していた街では人を雇って仕事を与えたりと貢献していたため、恩情を賜りました」
そういえば、森の先にあった街で川が氾濫したと聞いていた。
計画を邪魔されたくなかった侯爵が大量に人を雇い、氾濫した川の工事を行ったらしい。
それが人々を救ったということで、それも恩情を賜る理由になったのだろう。
「よって、クロイツベルク侯爵の爵位を息子へ譲り、平民落ち。しかし、これまでの人脈があるので危険とみなし、侯爵夫人リリアンヌの監視のもと、軟禁。衣食住はすべて、侯爵夫人の采配で行われるものとする」
ガクリと膝から崩れ落ちたルドルフは、縋るような瞳で師匠に視線を送るが、師匠はまったく気にしていない。
「あ……あっ……」
何も発することのできないルドルフを、夫人は冷たい視線でジロリと睨んだ。
「……あなた、私という妻がいながら、二十年以上も何をしていたのです?」
「いや、その……アレンへの想いと夫婦関係は別だろう?」
黒い笑顔というのが一番適切な表現に思える笑顔を貼り付けた夫人は、ルドルフの首根っこを掴み、無言でズルズルと引きずりながら扉へ向かうと、王妃様へ振り返った。
「王妃殿下、そして国王陛下。寛大なご処置、痛み入ります。爵位の引き継ぎなどはすぐに行い、これ以上、お手を煩わせることのないようにいたします。それでは御前失礼いたします」
怯えるルドルフを引きずりながら去っていく夫人を見送った僕は、つい、アリーに声をかけた。
「……僕たちがこの場にいて良かったのかな」
「どうでしょう。確かに、びっくりしましたけれど」
「くくっ、気にすることはない」
「あとは夫人に任せておけば大丈夫よ。彼女は私のお茶飲み友達なの。ちゃんと躾けてくれると思うわぁ」
なるほど、きっとルドルフは恐妻家というやつなのだろう。
このあと、陛下たちに魔物を食い止めた礼にと晩餐へ招かれた。
隣に座ったアリーは、今日の騒動で疲れたのか、いつも以上に僕のそばを離れようとしない。
「ギル、今日は大変でしたね」
「本当にね」
そんなアリーを可愛いなと愛でながら、僕はやっと終わった今日という日に、大きなため息をつくのだった。




