第44話 侯爵の陰謀【回想】
私の名前はルドルフ・フォン・クロイツベルク。
侯爵位を賜っている。
そんな私が、ずっと裏で愛する人の気を引くために奔走しているなんて、誰が信じるだろうか。
すべては、あの日から始まった。
それは、私の一世一代の大勝負だった。
『アレン、私と生涯を共にしてくれないか』
『……あんた誰? あたしは魔術にしか興味ないから諦めな』
アレンは私を思いやってくれ、とても優しく断りを入れてくれたのだ。
きっと、あの頃の私は彼女に釣り合う男ではなかったのだろう。
あれから三十年。
私は結婚し、子どももできたが、あの恋を忘れることができなかった。
私はクロイツベルク侯爵として使える金やコネを駆使し、第二王子であるディートリヒ殿下に近づいた。
そして、第一王女をアレンが預かっているらしいという情報を手に入れたのだ。
これまで集まった情報は、くだらないものが多かった。
だが、ようやく彼女の居場所に辿り着けると思えば、これまでの苦労など気にならなかった。
地図を広げ、とある街を指さす男は、ディートリヒ殿下から聞いた場所に張り込み、確固たる証拠を見つけたという。
「その街の端から入れる森の、さらに先だと思われます」
「それは曖昧すぎないか?」
「騎士団長が半年に一度はこの街に泊まり、布や携帯食料を買い足すのです。間違いなく近場にいらっしゃるかと」
なるほど。
陛下の盾と言われるアーバン殿が出入りしているなら、王女がいる可能性は高いだろう。
しかし、彼女の張る結界に侵入できるとは思えない。
学生時代、魔術の授業で一緒になったことがあるが、一度も魔法を当てることができなかった。
あの頃から、彼女は誰よりも強く、魔術に対して真っ直ぐだった。
少し騒ぎを起こせば、アレンは必ず姿を現すはずだ。
そう信じて疑わない私は、彼女をおびき出すための手を必死に考えた。
だが、普通の人間である私に良い案が思いつくはずもなかった。
うーむ。
何か……彼女が騒ぐような魔法を使えれば良いのだが。
「おい、お前。アレンをおびき出すために使える魔道具なぞ知らぬか」
仕事のできる人間だと見込んだ私は、目の前の男に尋ねた。
「そうですね……魔物を大量に放つ魔道具なんていかがでしょう?」
彼女が出てくれば、魔物が何匹いようとも倒せるだろう。
優しきアレンは、弱い者を見殺しにできない性格だと理解している。
間違いなく隠れ家から出てきて、一瞬ですべての魔物を倒してしまうはずだ。
むふふ、良いな。
きっと『頼りになるな、ルー』とか、『ルー、お前しかいないよ』なんて言ってくれるのではないだろうか。
「……ゴホン。その魔道具は、いつ頃手に入る」
「隣国の特注品ですが……侯爵様でしたら、三週間でご用意いたします」
「失敗した時のために、二つ用意してくれ」
「かしこまりました。一つ、注意事項がございまして、こちらは表の人間には買えない品物となっております。ですので、税関にかかってしまう可能性もありますので、最後の仕上げ……魔力の補填は侯爵様にしていただくこととなります」
「ああ、魔力の籠もった魔道具は輸入禁止だったか」
「はい。その通りでございます」
「分かった。この件はお前に任せる」
「はっ」
きっと彼女は『お願い、助けて……ルー』と、艶っぽい眼差しと仕草で私に迫ってくることだろう。
むふふ。
――なんて思っていたのに。
ギルバートとかいう弟子が、魔物を全滅させたと報告を受けた。
仕方ない。
大賢者と謳われるアレンの弟子だ。
弱いはずがない。
そこは、私の考えが及ばなかったところだ。
もう、この手は意味をなさないだろう。
私は城ですれ違ったディートリヒ殿下に、余ったこの魔道具を差し上げた。
情報のお礼として。
捨てるには高価な品だったし、王族なら妙な使い方もしないだろう。
ちゃんと説明を聞いていないようだったが……大丈夫だろうか。
それから数年。
私は、王城に呼び出されたのだった。




