第42話 暴走した王子の末路と、裏の事情
騎士団長である俺は、街なかで馬鹿をやっていた第二王子ディートリヒ殿下と、その側近であるオスカー、そして第一王子の側近であるローレンツを王城へ連行してきた。
現場が近かったため、出動要請が出されてから、ほどなく到着したのだが、姫様とギルバートが既に鎮圧させた後だったのだ。
仕方なく、俺は言い訳ばかりで馬車から降りないディートリヒ殿下を縛り、引きずり降ろした。
その光景を見ていた側近の二人は、慌てて自ら馬車を降りた。
「国王陛下が激怒……ゴホン。大変お怒りなっておられる。このまま謁見の間へ向かうからな」
「嫌だ! 怒られるに決まっている。離せ! 部屋に戻る!」
「……怒られるだけで済むとお思いで? まあ仕方ない。歩かないのであれば、失礼します」
俺はディートリヒ殿下を肩に担ぎ、廊下を堂々と進む。二人の側近は慌てて俺の後ろについていき、陛下の待つ謁見の間へ足を踏み入れた。
謁見の間で待っていたのは、国王夫妻と第一王子アルベルト。そして、この国の宰相と一部の文官だった。
「……アーバン、降ろしてやってくれるか」
「はっ!」
俺はわざとらしく、「ドサッ」と音を立てて王子を降ろした。
「痛っ! 俺は王子だぞ! 雑に扱うな!」
アルベルトが呆れた顔でディートリヒを眺めている。
目の前に国王夫妻がいらっしゃるのに挨拶も、謝罪もない。
誰一人として声を発する者はいなかった。
「父上、この男を叱ってください! 大体、さっきの騒ぎだって、俺は何一つ悪くありません!」
ディートリヒをジロリと睨んでいた陛下は、彼のセリフに大きなため息を吐いた。
「ディートリヒ、結果から言おう。お前は王位継承権を剥奪の上、北の塔へ生涯幽閉することになる。平民に落とそうかとも思ったが、お前は他所で何をするか分からないからな」
その宣告に、後ろに控えていた文官たちの表情が強張った。
だが、当の本人だけは言葉の重さを理解していないらしい。
「……は? ですから、俺は何一つ悪くない! 悪いのは、俺の地位を脅かす妹だろう!?」
「何を言っているんだ。アリアが何であろうとも、ディートリヒは第二王子であろう。それ以上でも以下でもない」
「兄上が王位を妹へ譲ると聞きました!」
「……ローレンツか。だからと言って、なぜアリアを攻撃した?」
「俺はアリアを殺そうとしたわけじゃない! 気に入らないギルバートを狙っただけだ!」
「魔物を放ったのは誰だ?」
「俺ですが、魔物が出てくるとは思わなかったのだから仕方ないでしょう」
「何が仕方がないだ! アリアとギルバートがあの場を乗り切らなければ、今ごろ大惨事だったんだぞ! 自分が何をしたか、分かってないのか!?」
「結果、何も起こらなかったから問題ないでしょう」
その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
怪我人が出ている。重体の者までいる。
それを「何も起こらなかった」で片付けるのか。
「報告では、逃げ遅れた子どもが怪我を負いました。そして、年老いた親を守った子が重体だそうです。確かに大きな騒動にはならず、怪我人も数人で抑えられたのは奇跡でしたが、それはアリア王女殿下とギルバート卿の功績です」
普段は穏やかな表情の宰相が、鋭い目つきをディートリヒに向けていた。
「はあ、何を言っても無駄なようだな。アーバン、聞き取りが終わるまでは地下牢に……。おい、アーバン、どうした」
俺は返事をしようとして、ふとディートリヒ殿下の足元へ視線を落とした。
先ほど回収した魔道具が、そこに置かれている。
黒い金属。複雑に刻まれた術式。
見覚えがあった。
……いや、まさか。
だが、岩山の麓で回収した物と、あまりにもよく似ている。
背中に嫌な汗が流れた。
「ディートリヒ殿下、これをどこで手に入れた!? 誰か、アレンを呼んで来い!」
「アーバン、まさか……」
部屋の空気が変わる。
「答えるんだ! これはどこで手に入れたんだ!」
「知らん。何年か前にもらった」
「この魔道具は、岩山の麓の街で使われた物と同じだ」
「岩山? どこのだ? 俺は知らんぞ」
「ディートリヒ、思い出せなければ、お前は処刑されることとなる。これは、国家反逆罪に——」
「はあ!? 今日、その魔道具を投げただけで国家反逆罪なんて、冗談じゃない!」
「だから、この魔道具を——」
「……何の騒ぎだ?」
呼ばれて訪れたアレンは、事態を収束させた二人を連れて首を傾げていたのだった。




