第31話 当然、参加、辞退!
先ほどから兄弟たちは、ギルバートの腰に佩かれた剣へ何度も視線を向けている。
魔導師として王女殿下に仕えていることは聞いていたのだろうが、どうやら護衛としての実力までは知らないらしい。
「ありゃ駄目だ。根性から叩き直してやるべきか」
「兄貴、手合わせでもするのか? ギルバートは魔導師だろう」
「馬鹿を言え。あいつは王女殿下の護衛だぞ? それなりに剣も扱えなくてどうする」
「まあ、そうだけど。兄貴より一回り……二回りは小さいし」
「なんだ、ギルバートを心配しているのか?」
「……兄貴がやり過ぎないかが気がかりなんだけど?」
「あはは。じゃあ、お前からやるか? お前が無様に負けたら、俺が相手してやろう」
どうやら二人とも、久しぶりに会った弟の実力を測りたいらしい。
ギルバートは昔から細身だったし、今も体格だけならヘンリーたちの方がずっと大きい。魔導師として働いていると聞けば、剣まで鍛えているとは思わないのも無理はない。
「……はあ、まあいいけど。ギルバート兄さん! せっかくだし久しぶりに手合わせでもしようよ」
「私もやりたい!」
「え? 王女殿下も?」
「姫様、駄目です。お体の調子が良くなられてからです」
「むう……今日は、お母様と見ているわ」
「それじゃあ、始めよう。剣はこれを使え」
投げられた剣を受け取ったギルバートは、一瞬だけ目を瞬かせた。顔にははっきりと『軽い』と書いてある。岩山で使っていた訓練用の剣は、これよりずっと重い。恐らく、いつもの癖でその剣も重いのだろうと思ったのだろう。
「いつでも始められます」
「いくよ!」
弟のスティーブは、ギルバートに向かって剣を振り下ろした。
数度剣を交えたところで、ギルバートの動きが変わった。スティーブの癖も間合いも、それだけで見切ったらしい。
そこからはあっという間で、スティーブの剣は弾き飛ばされた。
剣が地面を転がる。
スティーブは呆然とそれを見送り、ヘンリーも僅かに眉を上げた。二人とも、ここまで一方的に終わるとは思っていなかったのだろう。
「一分も持たなかったじゃないか。スティーブ、訓練をサボっているんじゃないだろうな」
「……兄貴もやってみれば分かりますよ」
「ふん。ギルバート、次は俺だ。全力でかかってこい!」
ヘンリーが剣を構える。
先ほどまでとは空気が違った。少なくとも、スティーブより腕が立つことくらいは、構えを見ただけで分かる。
対するギルバートは、小さく息を吐くだけだった。
「では、参ります」
——カンッ!
ギルバートは彼らが瞬きをする間に剣を弾き飛ばしていた。
地面を滑った剣を、ヘンリーが無言で見つめている。
ギルバート自身は、特別なことをしたつもりもなさそうだった。
岩山ではあたしやアリーを相手にしていたのだから、ギルバートにとっては普段の訓練の方が余程厳しかったのだろう。
「……お前、昔より強くなってないか?」
「師匠と姫様しか訓練相手がいなかったからかと」
「待て、剣も叔母様が?」
「初めはそうでした。途中からは騎士団長のアーバン殿が教えてくださいました」
「「はあ?」」
「でなければ、姫様の護衛など任せられるわけがないと思いますが」
「まあ、そうなのだが……」
「王女殿下も、剣術をなさるのですよね?」
スティーブはアリーをちらりと見てから、先ほどまでとは打って変わって低姿勢でギルバートに尋ねた。
「ええ。姫様は、僕よりも強い」
「「はあ?」」
兄弟の視線が、一斉にアリーへ向いた。
当の本人は、何をそんなに驚いているのか分からないという顔で首を傾げている。
「姫様が十歳の時、完全に一本取られました」
「お前より強い……」
「ああ、師匠の方が強いですよ。しかし、もう少しで姫様が勝てるかと」
「叔母様より強くなると? ああ、叔母様には、確か……騎士団長を負かしたって逸話があったよな?」
「僕はまだ、師匠や姫様には及びませんから」
「……その基準がおかしいんだよ」
さっきまで手合わせに乗り気だった二人が、今では真剣な顔で何やら相談している。
「言っておくが……俺は騎士団の奴らと訓練したこともある。絶対に弱くはないはずだ」
「俺も、騎士団に誘われる程度には自信があったのに」
「そういえば、剣術大会には、兄上たちも出るのですか」
「……俺は不参加で」
「俺もやめとく」
「そうですか」
どうやら二人とも、絶対に剣を向けてはいけない相手だと理解したらしい。




