第27話 他人事
「二人とも、前へ」
国王陛下に呼ばれてしまっては行くしかない。
僕は心の中でため息を吐きつつも、アリーをしっかりとエスコートしながら陛下の前に進む。
進む途中では、先ほど魔法を放ったと思われる者が拘束されていた。なにやら、僕に物凄く怯えているようだ。……失礼なやつだな。
「ギルバート殿はこちらへ」
陛下の御前に到着すると、第一王子のアルベルトがアリーの手を取り、壇上へ上がっていった。
僕の隣にいる時には、いつものアリーなのに。壇上に立った途端、彼女は皆が知るべき「第一王女アリア」になってしまった。
不安そうな瞳に笑顔を貼り付けた彼女が、どこか遠くに行ってしまうような気がして少し寂しくなったが、言われるがまま師匠の元へ戻った。
「彼女の名は、先ほどアナウンスにあった通り、第一王女アリアである。この国唯一の姫であり、彼女にも上位の継承権がある」
辺りがざわつき始めると、小声で話し始める者たちまでいた。
僕は気になって耳を澄ませる。
「隣国の姫様かと思っていたら、自国の姫様ですって」
「今日発表っておかしくない? 姫様は十五歳にしては……その、少し小柄でいらっしゃるわ」
「それより、あちらの殿方が気になるわ。ギルバート様、でしたわよね? 侯爵家の方だそうよ」
おっと、僕の話は必要ない。どうせ侯爵家の人間だとか、大賢者の弟子だとか、その程度の話だろう。今はアリーの話を聞きたい。
今度こそアリーについて話している者はいないかと耳を澄ませようとした瞬間、陛下がお言葉を発した。
「静粛に。第一王女のアリアは、本日、目出度くデビュタントを迎えることとなった。これまでどこにいたか気になる者たちもいるだろう。本人に説明してもらおうか」
「面倒なことを振ってきたねえ……」
「あはは。いってらっしゃい、師匠」
「馬鹿を言うんじゃないよ、ギルバート。お前も来な」
「ええ……」
有無を言わさず、風魔法を使い、皆には見えないように僕を引き摺る師匠。僕は諦めて、小声で「自分で歩きますから」とため息とともに言うと、ニヤリと笑って拘束を解いてくれた。
「アレン、上まで来てくれ。ギルバートも連れてきたければそれで良いから」
小声で、とにかく壇上へ上がれと陛下が急かす。
師匠は嫌な顔を王族にだけ見せながら、壇上に上がって振り向いた。
師匠が壇上へ上がった瞬間、それまで好き勝手に話していた貴族たちの視線が、一斉に彼女へ集まった。
先ほどから「あの女は誰だ」と気にしていた者も多かったのだろう。
師匠はそんな視線など慣れっこなのだろうか。まるで気にした様子もなく会場を見渡した。
「ご紹介すらされてないが、私はアレン・フォン・ベルンシュタイン。そなたたちがつけた二つ名は『恐ろしい大賢者』だったか?」
「やはり! 彼女は大賢者だったのか!」
「見た目が変わってないぞ? 偽物じゃないのか?」
会場が一斉にざわつく。それもそうだろうと思っていると、陛下が苦笑いしながら紹介をした。
「ははっ、彼女は大賢者アレンで間違いない。引退してからは、隣に立つギルバート・フォン・ベルンシュタイン——彼女の甥を弟子とし、とある場所で隠居生活を楽しんでいたのだ」
国王が認めたことで、より騒がしくなる会場に、先ほどの魔法を放った男が気づかれないよう、ひっそりと連れ出された。
誰もが大賢者の名に気を取られている今なら、連れ出すにはちょうど良いのだろう。
第二王子の仕業と分かっているからなのか、実害がなかったから公表しないのか。まあ、どちらでも良いが。
「大賢者とその弟子は、膨大な魔力を持ちながら生まれた第一王女を預かり、鍛えてくれた。魔力過多により、成長が難しい子どもたちがいることを、皆も理解しているだろう」
そもそも僕自身が、魔力過多を理由に実家から追い出された身だ。幼い体では抑えきれない魔力が暴走し、周囲を破壊したり、人を傷つけてしまうことがある。
「アリアは、王子たちよりも膨大な魔力を有していた。大賢者が言うには、成人するころには制御できるようになるだろうとのことだった」
ここらへんは口裏を合わせたのだろう。師匠が何も言わないことからも、「前に出てきてくれたらあとはこちらで進める」とでも言われていたからに違いない。
面倒事が嫌いな師匠が、自ら進んで説明するとは思えない。
「そして、アリアは立派な王族として帰還した。王都の北側で起こった魔物の大量発生時には多くの魔物を討伐し、国境から密入国した者たちを捕らえ、国の治安維持に努めてくれていたのだ」
会場には、大きな歓声が上がった。
確かに僕たちのやってきた功績ではあるのだが、美談にしすぎではないだろうか。
僕たちからすれば、魔物を狩ったのも侵入者を捕らえたのも、生活圏を守るためにやっただけだ。国のために身を挺した、などという立派な志があった覚えはない。
「アリア殿下は、本当にお強いのですか! 確かに剣舞はお美しくあられましたが、実技ともなれば男には敵いますまい!」
先ほど第二王子の近くにいた男が声を上げた。
アリーが女王になる可能性を潰したいのだろう。
「ふんっ。お前たちが姫さんに敵うわけがないだろう」
師匠の言葉に、実力を知っている僕たちは納得できるのだが、彼らは知らないのだから仕方ないか。
「で、では! アリア殿下の実力を知るための催しをしていただきたい!」
陛下だけではなく、アーバンたちまでニヤリと笑ったのが見えた。嫌な予感しかしない。あの顔は、僕たちを巻き込む時の顔だ。
おいおい、面倒なことをするんじゃないだろうな?
「良いだろう。魔法は使えない者もいるだろうから、剣術大会を王家主催で開催する。日程は……そうだな、二ヶ月後の建国記念日に行うとしよう」
陛下の言葉に、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
……皆、暇人なのか?
こんな馬鹿馬鹿しい催しを開催できるということは、この国は平和なのだろうと結論づけた僕は、遠くを見つめながら他人事のように興味を示さなかったのだが。
それに、二ヶ月後なら、僕たちはもう山へ戻っているだろう。王家主催だろうが建国記念日だろうが、僕には関係ない。
アリーが出るのなら応援くらいはするが、出場者たちがどれほど強いのかには特に興味もなかった。
「お前も出るんだよ。何を無関係です、みたいな顔をしてるんだい」
師匠の一言に、僕は目を丸くして固まるのだった。




