第17話 狩れども、狩れども
アーバンは、あれから数ヶ月に一度、様子を見に来ては、剣術と武術の訓練をしてくれていた。
そして、魔物討伐が日常となってから、すでに八年の月日が経っていた。
僕は二十五歳、アリーは十歳となった。
アリーの魔力や攻撃力はさらに成長し、今では軽く魔力を放つだけで魔物が逃げていく。弱い魔物は、その場で気を失うほどだった。
仕方ないので、岩山の上に誰にも見えない『幻惑魔法』をかけ、さらにはその内側に最上級レベルの防御魔法を張り巡らせた。
何のためって、アリーが全力で魔法を放つためだ。
魔力は体に溜まりすぎると暴走する。僕の幼少期は、人を傷つけないように気を張った毎日を過ごしていた。幼い体では、体の中の魔力を使い切る前に、体力が尽きるのだ。
しかし、アリーは違う。魔法を全力で放てるだけの体力もあるのに、放てる『場所』がなかったのだ。だから、僕が『兄として妹のために』その場を作ることにした。
「くくっ、お前も立派なシスコンだねえ、ギルバート」
「師匠、この前も聞きましたが、それって何ですか……。答えないなら、分からない言葉を使わないでくださいよ」
「ああ、説明してなかったねえ。シスコンってのは、妹が大好きな兄を指す言葉だよ」
「……そうですか。でしたら僕は『シスコン』なのでしょう」
「納得したのかい。くくく、面白い子だねえ」
師匠に揶揄われながら、いつものように基礎訓練も狩りも終わり、アリーと『上空の訓練場』に籠もって剣術や魔法で手合わせして遊んでいた。
いつもの日常を楽しみながら、僕はアリーの『全力の魔法』を受け止めていた。
「……どっちが凄いって、どっちもおかしいでしょう」
ポツリと誰かが呟く声が聞こえた。僕はアリーに『ストップ』をかけ、後ろを振り向く。すると、そこにいたのは王宮魔導師のバルタザールだった。アリーを連れてここに来た日以来の再会だろう。
「バルタザール様、お久しぶりです」
僕は丁寧に頭を下げる。返事がないことに気づかないまま、彼に気になっていたことを聞いた。
「さすがですね。僕の作った領域に入れるなんて。アーバン殿は、いまだに入れないのに」
「……まさかと思っていましたが、ここを作ったのはギルバート様でしたか」
「あ、はい。アリーの魔法を僕が受け止められなかった時の、周囲への被害を考えると、これが最善かと思いまして」
「……ええ、それは間違いありませんが。私がこの領域へ入れたのは、大賢者様のお力添えがあってこそです。王宮魔導師である私が入れない結界を、大賢者様ではなく、そのお弟子であるギルバート様が作られたなんて……」
「バルタザール。ギルバートはあたしの弟子なんだ。あたしが壊せない結界なわけがないだろう」
「……そこではないのですが。はあ、規格外から規格外が生まれるのは仕方のないことなのでしょう。ええ、そう思う方が健全ですね……」
何やらブツブツと呟いていたバルタザール様は、アリーに目を向けた。
「姫様、私にも姫様の魔法を受け止めさせていただけますか?」
「えっ?」
「アリー、何が心配なのか、バルタザールに教えてやりな」
躊躇うアリーに、師匠が声をかけた。
「えっと、魔力量が……お兄様の半分もないから心配です」
「え? 姫様は魔力量が見えるのですか?」
「えっ? だって、見えなければ、魔物なんて跡形もなく——」
「アリー、大丈夫だよ。僕が説明するからね」
僕は困った顔でバルタザール様を見上げた。
「ああ、ギルバート様も魔力量が見える、と……」
「はい。僕とアリーは、ずっと協力して魔物を倒してきました。お互いの魔力の色や質も分かっています。だから、どこまで出力を上げれば僕の防御魔法を破るのか、アリーにも分かるんです」
「……ですが、今のギルバート様の防御魔法なら、姫様の魔法を止められるでしょう」
「はい、今は。数年前はアリーの魔力量の方が上でしたから、僕が防御魔法を改良しました。今では全部受け止められます」
「……」
呆気に取られているバルタザール様は、急に頭を抱えてうずくまってしまった。
「なぜ、そこまで強くなれるのですか……」
「え? 僕がですか?」
「そうです。私には、こんなに強い結界は張れませんし、魔力量が貴方の半分しかないなんて」
「それは仕方のないことですよ。アリーが森を破壊しないようにと、彼女を基準に訓練しているのですから、アリーが強くなればなるほど、僕の防御魔法は強固になっていったのです」
「……なるほど、確かに。お互いが少しずつ強くなっていくからこそ、なのですね」
「分からんでもないが、この子たちの場合はちょっと違うな。ギルバートは魔法のセンスが抜きん出ているんだ。限界の出力まで使わずに、少ない魔力でどこまで強固な結界を作れるかの研究をしていた」
「……はい? 出力を抑えて結界を作るのですか?」
師匠が僕の方を向いた。あとは説明しろ、と言っているのだろう。
「あ、はい。攻撃魔法をほとんど使ってこなかった僕の魔力量は、そこまで増えていません。なので、どんどん増えていくアリーに比べれば、魔力量では劣るのです。ですので、アリーの魔法を受け止めるためには、少量の魔力で強固な結界をですね——」
「わ、分かった。君が天才であることは理解した。そして、姫様も天才なのだろう。君の防御魔法を信じて魔法を放つだけの信頼もあるようだし、やはり君しかいないだろうな」
「……? 何がでしょうか?」
「ああ、それは——」




