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【完結】強固な国にしたいと国王に頼まれた元・大賢者、最強の女王を育ててしまう  作者: 月城 蓮桜音


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第16話 規格外の兄妹

「団長は、時速何キロで移動しますか?」


「……は? 時速?」


 討伐へ向かうことが決まり、準備を整えた僕が尋ねると、アーバンは怪訝そうな顔をした。


「そうだな、猛ダッシュで時速二十キロぐらいじゃないか?」


「遅いねえ」


 師匠が即答した。


 アーバンの頬が引きつる。


「いや、待て。人間なら十分速いだろうが」


「ギルバート、担ぐかい?」


「……仕方ありませんね。団長、失礼します」


「え? 何を――うおっ!?」


 僕はアーバンを肩に担ぎ、そのままボードに乗った。


 アリーも慣れた様子で自分のボードへ乗る。


 師匠だけは、いつものように魔法でふわりと浮かび上がった。


「しっかり掴まっていてくださいね」


「待て。何にだ?」


「僕にです」


「嫌な予感しかしないんだが!?」


 僕はアリーと師匠に目配せをして、一気に飛び出した。


「う、うお、ま、待ってくれえ――!?」


 背後から、アーバンの叫び声が森中に響き渡った。


 僕たちの移動速度は、時速百キロを超えている。


 とはいえ、木々の間を縫って走るわけではない。


 森(・)の(・)上(・)を飛んで行くのだから、障害物など存在しない。


 眼下では、緑の絨毯のように木々が流れていく。


 僕たちにとっては、見慣れた光景だ。


 けれど、アーバンにとっては違うらしい。


「た、高い! 速い! せめてどっちかにしろ!」


「落ちませんから大丈夫ですよ」


「そういう問題じゃねえ!」


 何をそんなに怖がっているのだろう。


 僕が掴んでいる以上、落ちるはずがないのに。


 アリーは楽しそうに僕たちの横を飛んでいるし、師匠に至っては欠伸(あくび)までしている。


 やはり、アーバンは少し心配性なのかもしれない。


 あっという間に、家から百キロほど北の、少し開けた場所へ降り立った。


 そこは、僕が覚えている森の景色とは少し違っていた。


 太い木が根元から折れ、幹には獣の爪痕が残っている。


 地面もあちこち抉(えぐ)られ、何か大きな魔物が暴れた痕跡があった。


 集落まではまだ距離があるはずだ。


 それでもここまで被害が広がっているのなら、確かに放置はできないだろう。


「団長、お疲れ様でした。それでは、ここにお座りいただいて、見学していてくださいね」


「……」


 返事がない。


 顔の青くなったアーバンを岩に座らせる。


「大丈夫ですか?」


「……誰のせいだと思ってる」


「?」


 意味が分からず首を傾げると、アーバンは何故か額を押さえた。


 まあ、喋れるなら問題ないだろう。


 僕はアリーに視線を向ける。


 既に準備はできているらしい。


 少し離れた場所で両手を前に出し、僕からの合図を待っていた。


 さっきまで笑っていた顔が、すっかり真剣なものに変わっている。


「では……アリー、あちらの方向へ。『百メートル以内に絞って』放つんだよ」


「はい、お兄さま! いきます!」


 返事と同時に、アリーの周囲で魔力が膨れ上がった。


 僕は意識を研ぎ澄ませ、その流れに集中する。


 アリーの魔法そのものを見る必要はない。


 どこへ魔力を送り、どの範囲で膨らませるのか。


 それさえ分かればいい。


 五十メートル。


 七十メートル。


 百メートル。


 地面の下を這うように、アリーの魔力が一気に広がっていく。


 僕も同時に魔力を放った。


 アリーの魔力より、さらに僅かに下。


 地表ぎりぎりを薄く覆うように、僕の魔力を這わせていく。


 木の根。


 土。


 岩。


 魔法が届く範囲にあるものを、一つずつ包み込む。


 そして、アリーの魔力が膨れ上がる寸前――防御魔法を展開した。


 次の瞬間——。


「ギュエ――ッ!」


「ギャンッ!」


 魔物の悲鳴が、森のあちこちから響いた。


 地を這っていたアリーの魔力が一斉に氷へと変わり、無数の槍となって下から空へ突き上がる。


 陽光を浴びた氷が、一瞬だけ森の中できらきらと輝いた。


 その光景だけなら、美しいとすら思える。


 けれど、その槍の一本一本には魔物が貫かれていた。


「な、なんて威力だ……。これじゃあ森が……ん?」


 アーバンが目を見開く。


 氷の槍は無数に立っている。


 それなのに、周囲の木々は一本も折れていない。


 枝一本すら傷ついていなかった。


「安心しな、アーバン。ギルバートはアリーより数秒前に防御魔法を木々にかけているよ。なんなら、地面にもかけているから、穴一つ空いていないはずさ」


「は……?」


 師匠が説明してくれた通りだ。


 僕はアリーの広げた魔力のさらに下へ自分の魔力を這わせ、アリーの魔力が膨れる寸前に、防御魔法を膜のように広げた。


 地面を覆い。


 木の幹を包み。


 根を守り。


 氷の槍が生まれる場所だけ、あえて防御を外した。


 その結果。


 森にはほとんど傷一つつかず、魔物だけがアリーの氷の槍に串刺しにされて息絶えていた。


「……お兄さま、今のすごいです! いつもより展開が早かったですよね!」


 魔法を終えたアリーが駆け寄ってくる。


 満面の笑顔だ。


「そうだね。最近、少し魔力の展開を早くできるようになったんだ」


「すごいです!」


「いや、アリーがもう少し加減してくれれば、この微調整も必要ないんだけどね……」


 遠い目で呟く。


 僕が防御を上達させる速度と同じくらい、アリーの攻撃魔法も上達している。


 つまり僕は、いつまで経っても楽にならない。


 むしろ、以前より細かい調整を要求されるようになっていた。


「おいアレン」


 アーバンが、師匠へ向かって低い声をかける。


「なんだい?」


「ギルバートにとって、これ、本当に防御訓練になってるのか?」


「実戦が一番早いだろ?」


 師匠は当然のように答える。


 アーバンの顔が引きつった。


「少しでも失敗したら、弟子が死ぬぞ!」


「何を言ってるんだい。防御魔法なんて、死なないように防ぐ訓練だからねえ」


「そういう意味じゃねえ!」


 アーバンの怒鳴り声が森へ響いた。


 鳥たちが驚いて、一斉に飛び立っていく。


「おい、ギルバート!」


「はい?」


「逃げたくなったら俺のところに来いよ!」


 心配そうに僕を見下ろすアーバンは、何故か憐(あわ)れむような瞳をしていた。


 僕は、この生活を気に入っているんだけどなあ。


 アリーは可愛いし。


 師匠から学べることも多い。


 魔法も剣も、まだまだ伸ばせると思っている。


 それに、僕自身が嫌なら、とっくにここを出ている。


 五歳から十二年も師匠と一緒に暮らしているのだ。


「あ、お構いなく」


 間髪入れず、さらっと答えた。


「……」


 アーバンは目を丸くする。


 僕を見る。


 師匠を見る。


 楽しそうに次の魔物を探しているアリーを見る。


 それから、もう一度僕を見た。


「……お前も、もう手遅れなのか」


「何の話です?」


 僕が首を傾げると、アーバンは深々と溜息をついた。


 どうやら、今日も僕にはよく分からないところで、何かを心配されているらしい。

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