第13話 別れの時
別れの朝、僕はいつもより早く起きてしまった。軽く剣を振るい、アーバンのために朝食に用意したパンと干し肉を布で包む。
「おう、早いな」
「おはようございます、団長」
「最後まで『団長』呼びだったな……残念だ」
「次回、団長がいらした時に、何か一つでも尊敬できたら呼んであげなくもないです」
「本当か!?」
「そんなことより、これをどうぞ」
パンと干し肉を入れた包みを渡す。
「おお、悪いな! 助かるよ。やっぱり肉を食わねえと力が入らないよな!」
にかっと笑って、嬉しそうに包みを受け取ってくれた。食べ物に意識が向いてくれたようで助かった。
「ああ、そうだ。ここに来るまでに、いくつかの街に寄ったが、旅をするには不自然な者たちが何かを探しているようだと耳にした。姫様のことかもしれんから、十分に警戒しておいてくれ」
擬態の得意なアーバンのことだ。旅人らしい姿でここまで来たのだろう。なるほど、陛下が彼に頼んだ理由も分かった。
「……はい、ありがとうございます」
丁寧に礼をした僕の肩を、アーバンはバシバシと叩く。
「姫様を頼んだぞ。お前になら任せられる」
「必ず、守り切ります」
「ああ。再会できる日を楽しみにしている。世話になったな」
ひらりと手を振ったアーバンは、あっという間に森の中へ走っていってしまった。
三日間だけだったというのに、急に静かになった森を少しだけ寂しく感じる。
アリーや師匠にすら顔を見せずに行くなんて……と思っていたら、岩山の上から師匠がアリーを抱いて舞い降りてきた。
「やっと帰ったか。うるさいやつだろう? 腐れ縁ってやつなんだが、いつも絡んでくるから面倒なんだ。見送り、ご苦労だったね」
「いいえ。おはようございます、師匠、アリー」
「ああ、おはよう」
「ふわあ、おはようございますう、お兄さま」
寝ぼけたアリーを座らせ、いつものように朝食を準備する。
また、いつもの朝がやってきた。そんな今を、僕はとても幸せだと思った。
★★★
朝食を終え、皿を洗い、アリーを着替えさせてから一息つく。
期待に満ちた真ん丸な瞳が、僕をじっと見つめていた。
「アリー、剣の練習をしようか」
「はい、お兄さま!」
どうやら正解だったようだ。僕が動く前に、ボードに乗って模擬刀を持ってきてくれた。
「ありがとう、アリー。さあ、かかっておいで」
「はいっ、お兄さま!」
彼女は軸足をすっと横に滑らせ、ピタッと止める。それに気を取られた僕は、一呼吸遅れて動く羽目になり、ギリギリでアリーの攻撃をいなした。
彼女は、昨日僕が覚えたばかりのフェイントを、早速入れてみせたのだ。
「えっ!? アリー、凄いね! もう覚えたの?」
「はい、お兄さま! 私はずっと見ていたので!」
固まってしまった僕に、師匠がさらりと言う。
「ああ、アリーも見て覚えるのが得意だからねえ」
「……得意、で済ませて良いんでしょうか」
「苦手よりは良いだろう?」
「それはそうですけれど……」
そうだった。アリーも、「そっち側」の天才だったことを、今更思い出したのだった。
それからも、アリーは僕たちを驚かせながら、すくすくと成長していった。
そんな賑やかで楽しい毎日は、驚くほど早く過ぎていった。




