第12話 師の教えと弟子たちの成長
遠い目をしているアーバンに、アリーが質問を投げかけた。
「あの、大きなお兄さま。お母さまは剣術をしていなかったの?」
「ああ、そうだよ、姫様。俺は陛下の少し後ろで護衛……陛下を守る仕事なんだ。だから、大変なことが起こったり、犯人を混乱させたい時は、アレンの姿に擬態して護衛することも多かったんだよ。だが、アレンは剣をやらない。それでは、帯剣していたら俺だと分かってしまうだろう?」
「なるほどー! だから、今度はお母さまが真似をしたんですね」
「そう、アレンは俺の真似をしただけなんだよ……。そしたら、俺とまったく同じ動きをしやがる! 習得するのに何十年かかったと思っているんだ!」
吹き出しそうになるのを我慢してアーバンをチラリと見やると、とても悔しそうに顔を真っ赤にしていた。素直な人なのだろう。
「そりゃ、あたしは魔術の達人だからねえ? 剣の重さも軽くできるし、自分の動きや筋力だって、魔法で補えるのだから、真似ぐらいならできるさ」
いや、多分、普通では無理だろう。師匠は目がよく、細かなところまで見えているのだろう。筋肉の動かし方や足の運び、力の入れ具合まで、一度で覚えられる者は少ない……まずいないだろう。
アーバンは悔しそうに奥歯を噛みしめ、しばらく師匠を睨んでいた。
「……くっ! だからお前は嫌いなんだ! 昔から俺よりモテやがって!」
ああ、師匠が男女問わずモテるのは納得がいく。それに、それって結局……。
「それは、団長に魅力が足りてないからでは……?」
「うぐっ! お前まで俺をいじるのか!? 俺はお前の師匠だろう、ギルバート!」
「僕は誰の味方でもありませんが、言いたいことは言います。あ、唯一、アリーは守りますが」
隣を見ると、アリーが嬉しそうに僕を見上げている。そんな顔をされたら、守らないという選択肢なんて最初からない。
「お前は姫様だけを守るのか? 家族というならば、アレンも守るべきだろう?」
「師匠を守ることが必要になったなら、この世界は滅びるのではないでしょうか。フォロー程度なら分かりますが。それより、まだ経験の足りないアリーを、師匠と一緒に守る方が優先されるかと」
「……なんで、ちゃんとまとまるんだろうな。言ってることは論理的で難しいが、結局、姫様を守ることになっている」
「賢いからだろう。自分で考えて、最良を選んで行動できるのだから」
僕はもう十七歳になったけれど、やっぱり師匠に褒めてもらえるのは嬉しいな。アリーも褒めて伸ばしたい。
アーバンは僕を見たあと、隣のアリーにも視線を移した。
「さすがは大賢者の……弟子、だな」
「ああ、そうだ。あたしの可愛い弟子たちさ」
アーバンは、僕とアリーにニカッと笑ってみせた。そして、アリーの前で膝をついた。
「姫様、剣術は楽しいか?」
「はい! 大きなお兄さま。私は剣を振るうことも、魔法を覚えることも、狩りをすることも、お兄さまと一緒だから、とっても楽しいです! もう少し大きくなったら、お兄さまのように、猪を捌けるようになりたいです!」
アーバンは一瞬だけ目を丸くした。王女から「猪を捌けるようになりたい」なんて言葉を聞くとは思っていなかったのだろう。
「がっははは! 楽しんでやれているなら良かったな! 成人までまだ時間がある。どこへ向かっているのか分からんが、元気に楽しく生活していると、両陛下にはお伝えしておくぞ」
「はい、大きなお兄さま。私はここで生活できて幸せです!」
「アリー! 嬉しいよ。明日からも、一緒に稽古しようね!」
「はい、お兄さま!」
明日の朝には、アーバンも王都へ帰ってしまう。ならば今晩くらいは、好きなだけ食べてもらおう。
僕は夕食に使えそうな肉を頭の中で数えながら、この数日間の賑やかさが終わってしまうことを、ほんの少しだけ寂しく思った。




