第10話 幼い妹の想い
今日の訓練を終え、僕はアリーが捕まえた鹿を捌いて夕食を作ると、アーバンは大喜びした。
今回アーバンは、三日ほどこちらに留まるらしい。その間はしっかり稽古をつけてくれる代わりに、食事を用意してほしいと頼まれた。
携帯食は持参しているようだが、味気ないから嫌いだという。
「ああ、そうだった! 姫様、これはヘレーネからだ。ちゃんと毒味はしてあるぞ」
紙袋を開けると、クッキーが入っていた。ヘレーネがよくおやつに作ってくれていたクッキーだ。
「やった——!」
大喜びでぴょんぴょんと跳ねるアリーに、僕は待ったをかけた。
「アリー、三枚までだよ! 残りはまた明日以降にね。楽しみは取っておいた方が、幸せを何度も味わえるだろう?」
「うん、そうだね。今日は三枚だけ、残りは明日も三枚ずつね!」
「そうそう。いい子だね、アリー」
アリーは二枚目のクッキーを口に運び、いつものように嬉しそうに頬を緩めた。
けれど、三枚目にはなかなか手を伸ばさない。
紙袋の中をじっと見つめたまま、小さな指で袋の端を撫でている。
「……アリー?」
声をかけると、ようやく顔を上げた。
「どうかした? お腹が痛いのかい?」
「ううん。大丈夫だよ、お兄さま」
いつもより少しだけ引きつった笑顔を見せたアリーに、僕はこれ以上踏み込んで良いものか悩み、彼女から言い出してくれるのを待つことにした。
★★★
食事を済ませ、ここ数年で必要だと思って作った風呂を沸かして皆を入れた。僕はいつも最後に入るので、今日も風呂掃除をしてから部屋に戻った。
外は真っ暗で、遠くに狼の遠吠えが聞こえる。
——コンコン
部屋の扉をノックする音が聞こえる。この魔力はアリーだ。すぐに扉を開き、膝をついて目線を合わせた。
「アリー、どうしたんだい? 眠れないの?」
「うん、眠れないの。お母さまは寝ちゃったから……お兄さま、今日は一緒に寝ても良いですか?」
いつもの元気な声ではなかった。
胸元で寝間着を握りしめながら、僕の返事を待っている。
上目遣いで眉をハの字にしたアリーは、瞳をうるうるさせながら僕を見つめる。
おそらく、ヘレーネからのクッキーを食べて、寂しくなったのだろう。
「いいよ、おいで。今日は僕が昔聞いたお話を聞かせてあげるね」
「本当ですか? 嬉しい!」
ぴょこぴょこと嬉しそうに部屋に入るアリーを見て、僕はようやくホッとした。
「さあ、ベッドに入ろう。お話が終わったら、すぐに寝るんだよ」
「はい、お兄さま!」
こうして、キャッキャと楽しそうに僕の話を聞いたアリーは、終わった瞬間にパタンと眠りに落ちたのだった。
ヘレーネの代わりにはなれない。
それでも、寂しい夜くらいは僕が隣にいてあげたい。
「……おやすみ、可愛いお姫様」




