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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第二章

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第九話 【クエスト6 : 友達を増やそう ①】

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転入から五日目。ユーリくん、少しずつ日本に馴染んできましたが、新たなクエストに苦戦中です。

そして勇者時代のある記憶が蘇って――。

どうぞお楽しみください。

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「――でね、商店街の奥にたこ焼き屋さんもあるんだよ。まだ連れてってなかったよね? 今度行こうよ!」


凪紗さんが楽しそうに話している。


放課後の帰り道。海沿いの坂道を二人で並んで歩く。もうすっかり見慣れた水色の制服と潮風の匂い。


――転入して五日目。


あの激動の初日から四日が過ぎた。


初日には無謀にも五つのクエストをクリアしたが、二日目の朝に発生した六つ目のクエストを僕はまだ終えられずにいた。



クエスト6 : 友達を増やそう

難易度 : ★★★☆☆☆☆☆☆☆

報酬 : さらなる出会い



この五日間で少しずつ日本の生活には慣れてきた。朝の電車ももう迷わない。授業もナビさんの助けを借りつつ毎晩復習して少しずつ追いつこうとしている。宿題もなんとか提出できるようになった。テレビのニュースを見ながらこの世界の常識を吸収する日課もできた。


放課後は凪紗さんが街のあちこちを案内してくれる。二日に一度は夜にコンビニに寄って新しいお菓子を試すのも楽しみになった。


――特にあの超極濃厚エクレアを食べた時は衝撃だった。元の世界のパンは基本的に固くて素朴な味しかしなかった。それがこの世界ではふわふわで甘くて中からクリームが溢れ出してくる。一口食べた瞬間、一瞬だけ「これは人を惑わすモンスターの類では?」と本気で疑ったほどだ。


……まあそれはさておき。


問題はクエストだ。


女子たちは相変わらず積極的に話しかけてくれるがナビさんの分析通りあれは「友達」とは少し違う。


男子たちはもっと厳しかった。目が合うだけで敵意のこもった視線を返してくる。こちらから明るく挨拶しても、まるで仇でも見るような目つきで睨まれる。転入初日から女子に囲まれていたらそりゃ面白くないだろう。僕だって同じ立場なら複雑な気持ちになると思う。


しかも凪紗さんと二人でいる時が特にひどい。廊下ですれ違う男子たちの視線が明らかに刺々しくなる。


……凪紗さんに余計な心配をかけたくないので黙っているけれど。


それから颯太のことも気になっていた。


凪紗さんの幼馴染の一人。凪紗さんがあんな顔をして心配しているのを見て放っておけなくて、この四日間で何度か自分から声をかけてみた。


でも返ってくるのは他の男子たちよりもさらに悪意に満ちた目だけだった。初日よりもむしろ鋭さを増している気がする。声をかけるたびに壁が厚くなっていく。


……初日には勢いだけで五つもクエストをクリアしたのにこのクエスト一つに四日もかかっている。


僕がため息をついたのを見て前を歩いていた凪紗さんがくるっと振り返った。


「ユーリくん、もしかして男子たちのこと気にしてる?」


「……ちょっとだけ」


「気にしなくていいよ。ユーリくんが目立つから嫉妬してるだけ。何日かすれば落ち着くって」


凪紗さんはからっと笑った。


……ありがたい。でも凪紗さんと一緒にいるとき特に酷いんだよなとは言えなかった。


まあ正直なところこの程度の嫉妬は微笑ましいもんだ。



――あの時に比べたら。






*****






――王国軍の新兵訓練がまもなく終わろうとしていた頃。マオウ討伐のための遠征出発が近づいていた。


その日、訓練場にいつもとは違う空気が流れた。


空が光った。


訓練場の中央に眩い光の柱が降り注ぎその中からゆっくりと一人の少女が姿を現した。


金色の髪を高く結んで白い神衣の裾を短く着こなし耳には大ぶりのピアスが揺れている。背中には光の翼が広がり足元から星屑のような粒子が零れ落ちていた。


訓練場の数百人が一斉に息を呑んだ。


――女神。


この世界の創造神。何百年もの間、姿を見せなかった存在が今ここにいる。


王も将軍も慌てて駆けつけてきた。跪こうとする者、祈りを捧げる者、ただ呆然と立ち尽くす者。


その混乱の中で女神ミリアはふわりと地面に降り立つとあっさりとこう言った。


「やっほー、みんな元気~? あーしが女神ミリアね、よろしく!」


……訓練場が静まり返った。


数百年ぶりの女神降臨。歴史に残る瞬間。その第一声が「やっほー」だった。


王が固まっている。将軍が目を見開いている。隣のアレンが「えっ」と小さく呟いた。リーナは帽子の下で「はぁ?」という顔をしていた。


「えーとね、あーし別に大げさな用事で来たんじゃないんだけどさ」


ミリアは全員の反応を気にする様子もなくぺらぺらと話し続けた。


「もうすぐマオウ討伐に出発するんでしょ? だからちょっと、みんなにお守りっていうか、サポート的なやつ、つけてあげようと思って」


ぱちん、と指を鳴らした。


その瞬間、訓練場にいる全員の目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


青白い光で文字が綴られている。見たこともない現象だった。


『初めまして。ナビゲーションシステムです。以後お見知り置きを』


……同じ声が数百人の頭の中に同時に響いた。


「これ、"ナビ"っていうの。あーしが作った補助システム。マオウ討伐に行く子たち全員に一個ずつつけてあげる。道案内とか戦闘支援とかいろいろ便利だから、まあ仲良くしてあげてね」


ミリアはそのまま訓練場をぐるりと見回した。金色の瞳が一人一人の顔を舐めるように見ていく。


そして。


ミリアの目が僕で止まった。


「……ん」


小首を傾げる。それからにっと笑った。


「あんた、いいね」


「……え?」


「うん、いい。なんつーの? 才能もヤバいし、それ以上に人としてまっすぐっていうか。うん、あーしの目に狂いはないわ」


目の前に立ったミリアは思ったよりずっと小柄で僕が少し見下ろすくらいの背丈だった。


「あんた、名前は?」


「……ユーリ、です」


「ユーリくんね。よし」


ミリアはくるっと振り返って訓練場の全員に向かってぱんと手を叩いた。


「はい、決定~! この子が勇者!」


……え。


「え?」


僕の声と訓練場の数百人の声が同時に響いた。


「あーしが決めた! ユーリくんが勇者! マオウ討伐の主力ね! よろしくぅ!」


――訓練場が爆発したような騒ぎになった。






*****






それからのことは怒涛だった。


世界が危機に瀕した時、女神が現れて勇者を任命する。この王国にはそんな古い言い伝えがあった。その伝説が今まさに目の前で現実になったのだ。


国中が沸いた。


王宮に招かれ盛大な式典が行われた。王の前で聖剣を授けられ正式に勇者として任命される儀式。大広間には貴族や将軍が居並び祝辞が述べられた。その後の晩餐は見たこともない豪華な料理が次々と運ばれてきて用意された席は王の隣だった。


マオウ討伐に成功した暁には一生涯の富と地位を約束するとも言われた。


――ありがたいことだとは分かっていた。僕のために国中がこれだけのことをしてくれている。でもその全てが突然すぎて頭がうまく追いつかなくて、ただただ混乱していた。


僕はただ訓練を頑張っていただけだ。仲間と一緒に強くなってみんなでマオウを倒してそれで平和になったらいいなと思っていただけだ。


勇者なんて大層な肩書きも王宮の宴も僕にはあまりにも急で現実感がなかった。


そして。


全ての宴が終わって訓練所の宿舎に戻った時。


廊下を歩く僕を同期の訓練兵たちが見ていた。


……あの目。


同じ釜の飯を食い、同じ訓練場で汗を流し、同じ志でここに来たはずの仲間たち。その目が昨日までとは明らかに違っていた。


嫉妬。敵意。疎外。


――俺たちも同じように頑張ったのに。

――なんであいつだけ。

――勇者? ただの訓練兵だったくせに。


声には出さない。でも目が全部語っていた。


挨拶をしても返ってこない。話しかけても目を逸らされる。


僕はその気持ちが痛いほど分かった。


同じ訓練をして同じ時間を過ごして同じ覚悟で命をかけようとしていたのに、ある日突然一人だけが選ばれて残りは全員その引き立て役になる。


そんなの理不尽だ。僕だって同じ立場なら同じ顔をしたかもしれない。


だから彼らを責める気にはなれなかった。


ただ。


――少しだけ、寂しかった。






*****






――風が頬を撫でて意識が戻った。


夕暮れの坂道。隣には凪紗さんが歩いている。


春の風が潮の匂いを運んでくる。


……あの頃に比べたら今の男子たちの嫉妬なんて本当に微笑ましい。


あの時は肩書き一つで人生が変わった。仲間の目が一夜にして敵の目に変わった。


でも今はただ友達になるのが少し難しいだけだ。


大丈夫。時間が経てばきっとなんとかなる。


「ユーリくん」


凪紗さんが立ち止まって振り返った。


夕日を背にして栗色の髪が橙色に光っている。


「明日、土曜日でしょ? せっかくだからさ、ちょっと遠出しない? 繁華街の方、まだ行ってないよね。お店もたくさんあるし映画館もあるし。いろいろ見せてあげたいなーって。どう?」


凪紗さんは両手を後ろで組んで期待するような目で僕を見ている。


「……うん、行こう」


「やった! じゃあ明日の朝、駅で待ち合わせね! 十時でいい?」


「うん、十時」


「よし、決まり!」


凪紗さんはぱっと笑顔になってもう一度前を向いて歩き出した。


弾むような足取りで坂道を下りていく。


その後ろ姿を見ながら僕は小さく微笑んだ。


――明日が楽しみだな。


素直にそう思えたことが嬉しかった。





*****






☆ 〜つづく ☆


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