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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第一章

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第五話 【クエスト4 : 友達を作ろう ①】

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どうも、縁側の猫です。


お昼休み、凪紗さんの学校案内が始まります。


海風の吹き抜ける校舎、その先に広がる景色に、ユーリくんはある記憶を思い出して――。


どうぞお楽しみください。

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目の前にぽんとウィンドウが浮かんだのは、昇降口の階段を立ち上がった時だった。


━━━━━━━━━━━

クエスト4:友達を作ろう

難易度:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆ +★(半)

報酬:???

━━━━━━━━━━━



(……ナビさん)


『はい、マスター』


(星一つ、半?)


『はい。正確には1.5です。表記上は半分の星を付与しております』


(登校の時は星一つだったよね。それより難しいの?)


『こちらの世界ではレベルの低いマスターにとっては些か高めに設定されております。ただし……』


(ただし?)


『人によっては"友達を作る"というクエストは星10に到達し得るほどの難題です。それに比べればマスターは非常に恵まれた環境にあると言えます。1.5は妥当かと』


(そんなに差があるの?)


『個人差の大きいクエストです。しかしマスターの場合は問題ないかと』


(なんで?)


『……一度鏡をご覧になればおおよそのことはご理解いただけるかと』


(?)


よく分からなかったがナビさんはそれ以上説明してくれなかった。


それに報酬が「???」になっている。今までのクエストには「新たなる出会い」とか「昼食」とかちゃんと書いてあったのに。


(報酬、分からないの?)


『友達ができた時に初めて判明する、という仕様です』


(また仕様)


『はい』


……まあいいか。


「ユーリくーん、行くよー!」


凪紗さんが数歩先で手を振っていた。


「はい、今行く」






-----






「――でね、この学校、海のすぐそばにあるから一日中ずーっと潮風が通るようになってるの。校舎もわざと風が抜けるように建てられててさ、中歩いてるだけで気持ちいいんだよ~」


凪紗さんは手でふわっと風を掬うような仕草をしてくるっと振り返った。


「でもね、女子には意外と不評で。髪ぼさぼさになるし化粧もアッという間にヨレるし。わたしはもう諦めてるけどね!」


あはは、と笑いながら歩く凪紗さんの後ろ姿は本当に楽しそうだった。


校舎の中を歩きながら凪紗さんは次々と説明してくれる。


ここが美術室、あっちが音楽室、この階段を上がると屋上に出られるけど普段は鍵がかかってる、あの先生の授業は面白いけどテストが鬼、などなど。



一つ一つの説明に凪紗さんの「好き」が詰まっているのが分かる。この学校が好きで、ここで過ごす日々が好きなんだろう。


――いいな、と思った。


好きなものを好きだと言える場所があること。それを誰かに見せたいと思えること。


僕が欲しかったのはたぶんこういう何気ない時間だったんだ。


「ここが体育館ね。バスケ部が強いんだよ、うち。県大会とか出てるし」


凪紗さんはそう言いながら体育館の前を通り過ぎた。その時ほんの一瞬だけ彼女の声のトーンが下がった気がしたが、すぐにいつもの調子に戻る。


「あ、そうだ! ユーリくん、次がねわたしのいちばんのおすすめ!」


凪紗さんが小走りに駆けていく。僕もその後を追った。






-----






校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下。


屋根はあるが壁はなく左右が完全に開け放たれている。


その上に立った瞬間、風が一気に吹き抜けた。


「――わ」


思わず声が漏れた。


右手には校舎の白い壁と桜並木。左手には――


緩やかに下る斜面の先に広い草原が広がっていた。学校のすぐ隣の空き地らしいが手入れされていないぶん野草が自由に伸びて、まるで絨毯のように地面を覆っている。


そしてその草原の所々に小さな白い花が咲いていた。


風が吹くたびに白い花が揺れて、その向こうに瀬戸内の青い海が春の光を受けて輝いていた。


「どう?」


凪紗さんが得意げに笑った。


「ここがね、凪西でいちばんの景色。わたしのお気に入りの場所」


「……きれいだ」


素直にそう思った。素直にそう言えた。


凪紗さんは嬉しそうに頷いた。


「でしょ! この花ね、春になると毎年ここに咲くの。名前は知らないんだけどさ、白くて小さくてなんか好きなんだよね」


白い花。緑の草原。遠くに光る海。


僕はその景色を見つめていた。


見つめていたのだが――


――あ。


胸の奥で何かが静かに揺れた。


この景色を知っている。


白い花が咲く広い草原。風が抜けて遠くまで見渡せる場所。


あれは――二十年以上前のあの訓練場。


僕がリーナに初めて会った場所。






-----






――あの日の空もこんな風に青かった。


王国軍、新兵訓練所。通常は剣兵と魔法兵は別々に訓練を行うがその日は合同訓練だった。


「おい、ユーリ」


訓練場に向かう道すがら隣を歩くアレンが声をかけてきた。


「今日の合同訓練、相手は魔法兵科の連中だろ。お前、聞いたか? なんかやべぇのが一人いるらしいぜ」


「やべぇの?」


「ああ。リーナっつー女の子。赤い髪のちっちゃいやつ。でも俺たちより年上らしい」


「へえ」


「名門の魔法一族の出でその中でも飛び抜けた天才だとさ。十歳で上級魔法を使いこなすとか何とか。教官たちも扱いに困ってるって話」


「天才かぁ」


「でもな……」


アレンは少しだけ声を落とした。


「その一族、二年前に全滅してるんだと」


「……え」


「リーナが外に出てた間にマオウの幹部に襲われたらしい。カイロスって名前の幹部で、長い髪の女だそうだ。計略で一族を丸ごと嵌めたって……。家族、全員」


僕は足を止めた。


二年前。リーナが今十二歳だとしたら十歳の時。


もし自分の家族や村の人たちが一度に全部いなくなったらと思うと。


……考えただけで息が詰まる。


「ユーリ?」


「……ううん。なんでもない」


歩き出す。けれど胸の奥にずしりと重いものが落ちた気がした。


「アレン」


「ん?」


「その子にさ……もし会ったらちょっと優しくしてあげたいな」


アレンは一瞬きょとんとして、それから呆れたように笑った。


「……お前さ、ほんとそういうとこだよな」







-----






訓練場は広い草原だった。


風が吹き抜けて足元には白い小さな花が所々に咲いている。空は抜けるように青く雲は一つもなかった。


――きれいな場所だな。


そう思った矢先に。


「あんたが、ユーリ?」


声がした。


振り返るとそこに小さな少女が立っていた。


鮮やかな赤い髪を腰まで伸ばして大きな赤い瞳でこちらを睨みつけている。訓練兵の制服の上に不釣り合いなほど大きな黒い三角帽子を被っていて、帽子の先端がふにゃりと風に揺れていた。


小柄で幼い顔立ちで、アレンが言った通り僕たちよりも年下に見えた。


――でも年上なんだよな。


「百年に一度の天才剣士だか何だか知らないけど」


リーナは腕を組んでふんと鼻を鳴らした。


「本当の天才はねわたしなの。覚えておきなさい」


「……えっと」


「返事! "はい、リーナ様"!」


「は、はい……リーナ、さん」


「"様"って言った!!」


――なんというか。


天才というより怒りっぽい子猫みたいだなと思った。口にしたら怒られそうなので黙っておいた。


「今日の訓練、手加減なんかしたら許さないから。全力で来なさい」


「うん。分かった」


「……あんた、緊張感ないわね」


「そうかな」


「そうよ!」


リーナはぷりぷりと怒りながら訓練場の反対側へ歩いていった。赤い髪が風になびいて白い花を少し散らしていく。


アレンが横からぼそりと囁いた。


「……お前、"優しくしてあげたい"って言ってたよな」


「うん」


「あれ、優しくされたくないタイプだぞ、絶対」


「……そうかもしれない」






-----






合同訓練が始まった。


ルールは単純。魔法兵は距離を取って魔法で剣兵を制圧する。剣兵は魔法を掻い潜って接近し制圧する。


「――行くわよ!」


リーナの詠唱は速かった。


指先から放たれた魔法の矢が三本同時に飛んでくる。訓練用の威力に抑えられているはずだがその速度と精度は訓練兵のレベルではなかった。


僕は横に跳んで二本を避け、三本目を剣の腹で弾いた。


「……っ!」


リーナの目が見開かれる。避けられるとは思っていなかったのだろう。


「次!」


今度は魔法の矢が五本。さっきよりも速い。


僕はそれも避けた。弾いた。一本だけわざとかすめるようにした。


――訓練だから。相手の魔法の癖を見たい。どんなタイミングでどんな角度から来るのか感覚を掴みたい。


それに。


この草原を壊したくなかった。


白い花が咲いている。風がきれいに通る場所。こんなに穏やかな場所で全力でぶつかり合って全部壊してしまうのは。


――もったいないなと思ってしまった。


「なんで当たらないの!」


リーナの声が上がった。


「あんた、手加減してるでしょ!」


「してないよ」


「嘘! わたしの魔法を本気で受ける気がないくせに!」


……半分は当たっていた。


「もういい!」


リーナが叫んだ。


空気が変わった。


彼女の足元から魔力の波紋が広がっていく。赤い光が地面を這い、周囲の草がじりじりと枯れ始めた。


――広域魔法。しかもこの魔力量は訓練の域を完全に超えている。


訓練場の白い花が枯れ始めていた。


――ああ。


僕は走った。


リーナが詠唱を完成させるよりも早く一瞬で距離を詰めた。剣は抜かない。ただリーナの両手首をそっと、しかし確実に掴んだ。


魔力の流れが途切れる。赤い光が散って風に消えた。


「……っ!?」


リーナが目を見開いた。


僕と彼女の距離はほんの数十センチ。赤い瞳が真正面から僕を見上げている。


怒りと驚きと悔しさと。それから――ほんの少しだけ、怯え。


「……なんで」


リーナの声が震えていた。


「なんで止めたの。なんで手加減したの。わたしは全力でやったのに」


「うん。分かってる」


「じゃあなんで!」


僕はリーナの手首からそっと手を離した。


そして彼女の後ろを指差した。


「あの花、きれいだろ」


「……は?」


「あの白い花。あと少しで全部壊れるところだった」


リーナが振り返る。


草原の半分は枯れてしまっていたがもう半分にはまだ白い花が残っていた。風に揺れて小さく静かに咲いている。


「君もさ、一緒に見たら気持ちよかったと思うんだ。こんなにきれいな場所なのに全部壊しちゃうのはもったいないなって。だから止めた」


「……」


「手加減したのはごめん。でも訓練だからさ、お互いの動きを見るのが目的だろ? 君の魔法の癖とかタイミングとか知りたかったからわざとゆっくり受けてた。そっちは手加減じゃなくて合わせてたんだ」


リーナは黙っていた。


赤い目が僕をじっと見つめていた。


それから。


「……っ、ぷ」


小さく吹き出した。


「あはははっ!」


そして声を上げて笑い出した。


「なにそれ! 花がもったいないって! あんた馬鹿じゃないの!?」


「え、馬鹿?」


「馬鹿よ! 戦いの最中に花の心配する剣士なんて聞いたことない!」


リーナはお腹を抱えて笑っていた。帽子がずれて赤い髪がばさりと顔にかかっても気にしていない。


ひとしきり笑ってそれからふうっと息をついてリーナは僕を見た。


さっきまでの怒りが嘘のような少しだけ穏やかな顔をしていた。


「……あんたさ」


「うん」


「いくら強くてもそんな甘い性格じゃマオウなんて倒せないわよ」


「かもしれない」


「かもしれない、じゃないわよ。絶対無理」


「……そうかな」


「そうよ」


リーナは腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。けれどさっきとは少しそのふんっの温度が違う気がした。


「じゃあその時は」


僕は少し考えて言った。


「リーナが一緒にいてくれたら心強いなって」


「……は?」


「……あんた、初対面で何言ってんの」


リーナはしばらく黙っていた。


風が吹いて残った白い花が揺れる。


リーナの赤い髪も同じ風に揺れて白い花びらが一枚その髪に乗った。


「……当たり前でしょ」


ぼそりと呟いた。


「わたしが手を貸してあげるって言ってるんじゃないの。わたしの方が天才なんだからあんたがわたしを手伝うのよ。立場、逆。分かった?」


「……うん。分かった」


「よろしい」


リーナはそっぽを向いた。耳の先が赤い髪と同じくらい赤くなっていた。


――アレンの言う通り、優しくされたくないタイプだった。


でも。


あの怒りの奥に一人きりの寂しさが見えた気がして。


この子を一人にしちゃいけないとそう思った。






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――あの日と同じ風が吹いている。


白い花が揺れる草原。青い海。春の風。


「ユーリくん?」


凪紗さんの声で意識が戻った。


「どうしたの? ぼーっとしちゃって」


「……ごめん。ちょっと昔のこと思い出してた」


「昔?」


「うん。……昔、大事な友達に初めて会った場所がここに少しだけ似てたから」


凪紗さんは不思議そうに首を傾げて、それからふわっと笑った。


「へえ。じゃあここ、ユーリくんにとっても特別な場所になるかもね」


「……うん。そうかもしれない」


風が渡り廊下を吹き抜けていく。


白い花が揺れる。春の光が海面を照らしている。


リーナ。


君がいてくれたから僕はあの旅を続けられた。


ありがとう。






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☆ 〜前編・了 ☆

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