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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第一章

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第二話 【クエスト1 : 登校せよ ②】

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どうも、縁側の猫です!

前編お読みいただきありがとうございます。

後編、ついにヒロイン登場回です! 教室に足を踏み入れたユーリくんを待っていたのは――。

どうぞお楽しみください!

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【視点:七海 凪紗(ななみなぎさ)


二年三組の教室は、朝からやけに騒がしかった。


原因は分かっている。


「いやぁ、四月に転校生って、なんか珍しくね?」


「普通、学期始まりと同時に転校してくるよな。なんで二週間経ってから?」


「つーか、なんか噂聞いた? めっちゃヤバいやつらしいぜ」


「またそれかよ」


朝のホームルーム開始まで、あと十五分。班机に分かれて座った男子たちが、にやにやしながら噂話に花を咲かせている。


わたし――七海凪紗は、窓際の自分の席から、それをぼんやり眺めていた。


「聞いた聞いた。前の学校で速攻ヤバい事件起こして、もう居られなくなって転校してきたとか」


「嘘だろ、お前それ誰情報?」


「うちの兄貴、となり町の高校なんだけど、なんかそういう話回ってきてるらしいぞ」


「えー怖ぁ。ヤンキーじゃん」


「見た目もめっちゃコワモテらしいぜ。もう目付きからしてヤバいって」


――全部、根拠なし。


そう思いながら、わたしは小さくため息をついた。よくある話だ。春の新しい顔ぶれに、なんでもいいから刺激を求めたい。そういう子供っぽい盛り上がり方。


「あたし、ちょっと違う話聞いたよ」


隣の席の女子が、身を乗り出して声を潜めた。


「どっかの御曹司で、海外育ちだったんだって。東京の高校の空気合わなくて、結局地元に戻ってきたとか」


「マジかよ、真逆じゃん」


「情報源どっちも怪しいって、それ」


まあそうだろう。どっちも、教室に入った瞬間に答え合わせが済んでしまう話だ。


それでも私は、黙って聞いていた。


――どんな子でも、同じクラスになった以上、仲良くしてあげればいい。


それがわたしの信条だった。


「ね、凪紗はどう思う?」


突然話を振られて、わたしは一瞬返事に詰まった。


クラスの女子の一人、まっすぐな前髪と大きな瞳の、名前は……ええと、三宅さんだったか。入学式からまだ二週間、全員の名前を覚えきれていないのが正直なところだ。


「どう、って?」


「転校生。ヤンキーと御曹司、どっち説が有力?」


「うーん」


わたしはくすりと笑った。


「どっちでも、クラスメイトはクラスメイトだから。仲良くすればいいんじゃないかな」


「はー、さすがうちの学級委員。お堅い」


「堅い?」


「えーっ冗談、冗談。凪紗そういうとこほんとにイイよ」


三宅さんは笑って手を振った。軽口の一つにも、本気で返しちゃうのが自分の悪い癖だ、と最近思う。


――ほんとは、別に、堅いわけじゃない。


ただ、クラスのみんなが笑って過ごせる場所でいてほしい。それだけは、どうしても譲れないだけ。


誰かが一人で寂しい思いをしていたら声をかけに行きたい。仲良くなれそうな人がいたら繋げてあげたい。



……ほんとうは、もっと、大事な理由があるんだけど。



わたしは、窓の外に視線を逃がした。桜の花びらが春の風に一枚、ふわりと舞っていく。


――考えるのはやめよう。今日は、そういう日じゃない。


今日は新しいクラスメイトを迎える日だ。


わたしは気持ちを切り替えるように、一度大きく息を吸った。


四月の朝の少し冷たい空気。窓の外には、桜並木と、春の海。水色のブレザーを着た生徒たちが、坂道をちらほらと上ってきている。


――どんな子が来るのかな。


ほんの少しだけ、期待してしまっている自分がいた。






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【視点:結城 雪里】


校舎の中は、思ったより明るかった。


廊下の窓から差し込む朝の光。床を踏みしめるたびに、きゅっと鳴る上履きの音。すれ違う生徒たちが、一瞬こちらを見て、なぜか少し驚いてから、それから何事もなかったように歩き去っていく。


その視線の一つ一つが、なんだか新鮮で、妙に緊張した。


(……ナビさん)


『はい、マスター』


(心臓、ちょっと変な動きしてる)


『おそらく、緊張というやつです』


(それは、さすがに僕でも知ってる)


『マオウと対峙なさった時よりは、穏やかな反応ですのでご安心を』


(……比較対象がおかしいんだよ、ナビさん)


僕の隣を歩いているのは、職員室で案内してくれた女性の先生だった。担任の望月先生というらしい。二十代……いや、もしかしたら三十代に入ったばかりくらいだろうか。柔らかい雰囲気の優しそうな人だった。


「結城くん、大丈夫?」


「あ、はい」


「緊張してる?」


「少し」


「ふふ、分かるよ。転校初日ってね、先生の頃も死ぬほど緊張したもの」


先生の声は、穏やかで、ほっとするような響きがあった。


「安心してね。うちのクラス、いい子ばっかりだから」


僕は小さく頷いた。


いい子ばっかり、という言葉が、胸のどこかに少しだけ沁みた。二十四年間僕が一緒にいた仲間もみんな、本当にいいやつらばっかりだった。


(……大丈夫)


僕は小さく息を吐いた。


新しい、場所。新しい、仲間たち。


――焦らなくていい。一歩ずつでいい。


教室の扉の前に立つ。


中から、賑やかな話し声が漏れてくる。


(……ナビさん)


『はい』


(一応、聞いておきたいんだけど)


『なんなりと』


(自己紹介って、どうすればいいの?)


短い沈黙のあと、ナビさんの声が返ってきた。


『現代日本・学園もの必読書100選に基づき、最も印象に残る自己紹介のテンプレートをご提案します』


(ほんとに100選に載ってるの、それ)


『まず――「世界を救った元勇者・ユーリです。特技は魔物討伐。趣味は仲間を守ることです。よろしくお願いします」』


(却下)


『即答でした』


(元の世界の話、ダメだって、ミリアさんとも言ってたでしょ)


『申し訳ございません。では次案――「結城雪里です。好きな食べ物はカレーライスです。将来の夢は、世界平和です」』


(……ナビさん)


『はい』


(後半、強すぎるよ。)


『第一印象の強化を重視した構成になっております』


(強化しすぎなんだよ。世界平和って、勇者ならともかく、現代で高校生が言ったら、ちょっと変な子じゃないかな)


『マスターは、勇者です』


(元、ね)


『失礼しました』


(普通でいいよ、普通で)


僕は、小さく息を吸った。


「結城くん、準備はいい?」


望月先生が優しく声をかけてくれる。


「はい」


先生ががらりと教室の扉を開けた。


賑やかだった声がすう、と潮が引くように静かになる。


一斉に三十人近い視線がこちらに向かってきた。


「はーい、皆さんおはよう。今日から一緒に頑張るお友達を紹介します。……結城くん、入って」


僕は、静かに教室に足を踏み入れた。


黒板の前に立つ。チョークの匂い。木の机の匂い。窓から差し込む、淡い春の光。


そして――たくさんの、好奇心と、値踏みと、少しの警戒の混じった視線。


ああ、と思った。


この視線は、かつて、初めて王都の謁見の間に立った時と、少しだけ似ている。


ただしあの時よりも、ずっと、ずっと、穏やかだ。


「結城雪里です」


僕は静かに頭を下げた。


「家の都合で、この時期に転入することになりました。この街のことも、学校のことも、分からないことばかりなので、いろいろ、教えてもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします」


短くそれだけ。


ほんの一瞬、教室が静まり返った。


それからざわ、と小さな波のように声が広がった。


「えっ、普通にめっちゃ感じいいじゃん」


「全然ヤンキーじゃないじゃん」


「っていうか、顔、やば」


「うわマジじゃん。なにこの人、どこから来た? 日本人?」


「え、ハーフとかじゃね? ちょっと彫り深くない?」


「いやでも名前、ガッツリ日本人じゃん」


「え、待って、普通に好み」


小声のはずなのに、なぜか全部しっかり聞こえる。僕は少しだけ困って、望月先生の方を見た。


先生は、苦笑いを浮かべていた。


「はい、静かに。結城くん、席はあそこね。七海さんの前」


教室の窓際、前から三番目の席。


その席の後ろで、一人の女子生徒がにこりと微笑んでこちらを見ていた。


柔らかい印象のきれいな子だった。肩にかからないくらいの、明るい栗色の髪。春の光を受けてふわりと柔らかい艶を放っている。大きなまっすぐな瞳。


そして――その笑顔に、僕は一瞬息をのんだ。



――ナーシャ。



そう思ったわけじゃない。似ている、と思ったわけでもない。


ただ。


その、「相手の緊張を、一瞬でほどいてあげよう」とするような優しい微笑み方が。


最後に戦場で僕にお願い、と微笑んでくれたあの人を、ふと思い出させた。


胸の奥がじんわりと温かくなって、同時に小さく痛んだ。


僕は静かに彼女の前の席に向かって歩いていく。


席に着くと、彼女が後ろから小さく声をかけてきた。


「ねー、ちょっと」


振り返る。


七海凪紗と先生が呼んでいた彼女は、悪戯っぽく目を細めて軽く僕の肩を可愛らしいペンでつついた。


「よろしくね、イケメンくん」


ぴ、と指を離して、くすっと笑う。


「困ったことあったら、なんでも聞いて。学級委員、やってるから」


「……よろしく、お願いします」


僕が慌ててそう返すと、彼女はうんうんと満足そうに頷いた。


「うん。敬語、まじめすぎ。でも、いいよ、そういうの」


そう言って、彼女はひらりと手を振るような仕草で僕を前に向き直らせた。


直後ぱたぱたと教科書を開く音が、背中の方から聞こえてくる。


振り返るのは、なんとなく憚られた。


(……ナビさん)


胸の奥で、そっと念話を送る。


『はい、マスター』


(この感じ、知ってる気がする)


『存じ上げております』


ナビさんの声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


『ご無理はなさらず』


(うん)


僕はそっと微笑んだ。


「ちょっと、結城くん」


背中から、また声がかかった。


振り返ると、凪紗さんが机の上に腕を組んで、こちらを覗き込んでいた。


「ライン、教えて!」


「……ライン?」


その言葉が何を指すのか、一瞬、分からなかった。


漁で使うあの長い糸のことだろうか。何かの魔法か。いや、さすがにそれは違う気がする。


……いや、そもそも、現代日本で「ライン」と言われたら、何かもっと別の――


『マスター、至急』


頭の中にナビさんの慌てたような念話が響いた。


『"ライン"とは、現代日本における最重要コミュニケーションアプリの通称です。スマートフォン上で文字や画像のやり取りを行うことが可能で、若年層のほぼ100%が使用。導入必須レベルです』


(え、聞いてないよ、そんなの)


『これからお伝えするところでした』


(遅いって、ナビさん!)


「えっ……結城くん、どうしたの? 急に難しい顔しちゃって」


凪紗さんが、きょとんとした顔で僕を見ている。


「あ、ええと……」


僕は慌てて、ポケットからスマートフォンを取り出した。これも、ミリアさんがあらかじめ用意しておいてくれたもののうちの一つだ。昨日の夜ナビさんから一応の使い方だけは教わったが、まだ画面を開くのにも、指がぎこちない。


それを凪紗さんに差し出すと、彼女は一瞬画面を覗き込んで、ぽかんと口を開けた。


「……えっ」


明るい栗色の髪が驚いたようにふわりと揺れる。


「ライン、入れてないの!?」


「……入れ方が、わからなくて」


「まじ?」



彼女は、大きな目をさらに大きくして、それからくすくすと笑い出した。


「ウケる。結城くん、今どきそんな高校生いる?」


……たぶん、いない。


いや、たぶん、いないという次元じゃない。元勇者でしか、この状況にはならない。


「ちょっと、貸して。入れてあげる」


「あ、はい」


手渡す。彼女は慣れた手つきで、僕のスマートフォンをすいすいと操作し始めた。


「はい、インストール中。……あ、これ登録しないと使えないね。名前、結城雪里でいい?」


「うん」


「プロフ画像は……あとでいいか。できたらまた自分で変えてね」


「……分かった」


凪紗さんの指は、細くて、白くて、動きがとても速かった。昔、ナーシャが祈りを捧げる時の指使いを、ふと思い出す。あれも、祈りの印を結ぶ手つきが、まるで舞のように綺麗だった。


「はい、できた! じゃあ、わたしの連絡先も入れとくね」


そう言って、彼女は自分のスマートフォンを取り出し、僕の画面と軽く重ねるようにした。ぴ、と小さな音がして、画面に見知らぬ名前が表示される。


「七海 凪紗」


僕の、現代日本で最初の連絡先。


凪紗さんが僕のスマートフォンを返してくれる時、彼女の指先がほんの一瞬、僕の指に触れた。


――どく、と。


胸の奥で、心臓が、一度だけ、変な鳴り方をした。


あの戦場で、ナーシャが、崩れ落ちる僕の頬に、最後にそっと手を添えてくれた時と。


――どうして、こんな場面で、そんなことを。


「……結城くん?」


凪紗さんが、心配そうに、僕の顔を覗き込んでくる。


「大丈夫? 顔、ちょっと固いけど」


「……ごめん、大丈夫」


僕は、慌てて首を横に振った。


「ありがとう、七海さん。助かったよ」


「ん! どういたしまして。あと、"七海さん"じゃなくて、凪紗でいいよ。みんな、そう呼ぶし」


「じゃあ……凪紗、さん」


「うん、いいね, わたしもユーリくんでいいよね!」


彼女はくすっと笑って、また、前を向くように僕を軽く押した。


直後、目の前に、ぽん、と小さなウィンドウが浮かんだ。



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スキル習得「スマホ」 Lv.1

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『おめでとうございます、マスター。初の現代スキル取得です』


ナビさんの声が、心なしか誇らしげに響いた。


(……ありがとう。でも、これ、僕、何にもしてないような……)


『"ラインを入れてもらう"という、スマートフォン運用における極めて重要な第一歩を、マスターは無事に乗り越えられました』


(そんな大げさな……)


『いいえ。このスキルはレベル10が最大で、到達すれば、あらゆるアプリを自在に操るのみならず、自らアプリ開発を行って莫大な収益を生み出し、さらには世界中のサーバーへのハッキングまで可能になるとされます』


(……そこまでは、別にいらないかな)


『現在地、1/10です』


(うん、10まで育てる必要は、ないかも)


思わず小さく吹き出してしまった。横の席の男子がちらりとこちらを見て、不思議そうな顔をする。僕は慌てて口元を押さえた。


窓の外。春の風が淡い水色の教室のカーテンをふわりと揺らした。


始業のチャイムが、遠くで鳴り始める。







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☆クエスト1 : 登校せよ CLEAR☆

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