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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第二章

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第十四話 【クエスト7 : 不登校の友達を助けろ ③】

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第十四話です。

柚希くんの覚悟。

どうぞお楽しみください。

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【視点:水瀬 柚希】


体育館の裏。


授業時間以外はほぼバスケ部が占領しているこの場所は、一年の時から何度も連れてこられた場所だった。


日の当たらないコンクリートの壁。錆びたフェンス。人目につかない死角。


颯太が僕の前に立っている。後ろには取り巻きが三人。逃げ道はない。


「で? どういう風の吹き回しだよ柚希」


颯太が腕を組んで壁にもたれかかった。


「よく来れたな。凪紗に泣きついたか? あいつにまた迷惑かけてんのか」


――心臓が跳ねた。


凪紗の名前を出された瞬間、あの日の光景がフラッシュバックした。


颯太の拳が振り上げられて僕が身を竦めて、そこに凪紗が飛び込んできて。


腕をぶつけて倒れた凪紗。颯太の一瞬だけ驚いた顔。そしてすぐに冷たい目に戻った、あの瞬間。


……怖い。


足が震えている。声が出ない。逃げ出したい。


――でも。


結城くんの顔が浮かんだ。


「臆病なんかじゃない」と言ってくれた声。「僕が間に入る」と言ってくれた目。


――できる。僕にもできることがある。


「……颯太」


声が出た。震えていたけれど出た。


「僕のこと忘れたの? 昔の幼馴染でしょ。僕が何の考えもなしにここに来たと思う?」


颯太の目が微かに細くなった。


「……何だよ」


「登校拒否してた僕がわざわざ月曜の朝に復帰したのはバスケ部の朝練がある日だから。体育館の前を通って颯太に見えるように登校したのもわざと。颯太が僕を見つけたら必ずここに連れてくるって分かってたから」


取り巻きの一人が「は?」と声を上げた。


「それと、今この場所で起きてることは全部撮影されてる。担任の先生にもう報告が行ってるよ」


颯太の表情が固まった。


クラスメイトにお願いしたのは本当に簡単なことだった。颯太が僕を連れ出したら一人は先生に報告、もう一人は距離を取って撮影。それだけ。


問題は彼らが本当に動いてくれるかどうかだった。


でも確信はあった。


誰かが苦しんでいるのを見て何もできなかった人間は、その罪悪感をずっと抱え続ける。時間が経てば経つほどそれは重くなる。「あの時、自分が動いていれば」という後悔は簡単には消えない。


僕自身がそうだった。凪紗が一人で颯太やりあとの関係を修復しようとしていた時、僕は登校すらできずに全てを凪紗に押し付けた。その後悔はずっと胸にあった。


だから分かる。一年の時に僕が颯太にやられているのを見ていたクラスメイトたちも、同じ後悔を抱えているはずだ。「次こそは」と思っているはずだ。


――僕が登校したこと自体が、今度こそ行動できるきっかけになる。


「それとさ颯太。いくら学校がバスケ部を特別扱いしてたとしても、いじめの映像が大会の運営委員会に渡ったらどうなるか分かるよね。出場停止どころじゃ済まない」


颯太が一瞬黙った。


それからふんと鼻を鳴らした。


「……お前、昔から小賢しいのだけは一人前だったよな」


薄い笑み。でもその目が揺れていた。


「俺がそんなもん気にすると思ってんのか。たかが部活の大会だろ」


――嘘だ。


颯太がバスケを気にしないわけがない。


小学校の頃、地域の大会で初めてシュートを決めた颯太を、みんなで応援席から叫んで祝った。あの時の颯太の顔。目を輝かせて拳を突き上げて、本当に嬉しそうだった。


あの顔が今の颯太にもまだ残っているはずだ。残っていてほしい。


――本来の作戦は映像を撮りつつ会話で時間を稼いで、先生が来るまで持ちこたえることだった。


でも颯太の変わり果てた姿を目の前にして計画通りに冷静でいることなんてできなかった。


胸の奥からこみ上げてくるものを抑えきれなかった。


「……颯太」


「あ?」


「もういい加減にしろよ!」


声が大きくなった。自分でも驚くくらい。


「分かってるよ颯太、お前が苦しんでるの! あの時のことで誰よりも自分を責めてるの! ずっと見てきたから分かるよ!」


颯太の目が見開かれた。取り巻きたちも固まっている。


「でもだからって周りを傷つけて自分も壊して、それで何が解決するの!? 凪紗を怪我させて、僕を学校に来れなくして、りあとも話さなくなって。全部壊して一人になって、それでお前は楽になったか!?」


「……黙れ」


「楽になんかなってないでしょ!! なってたらあんな顔しないよ! 凪紗を怪我させた時にあんな顔しないよ!!」


颯太の奥歯が鳴る音が聞こえた。


ほんの一瞬。本当にほんの一瞬だけ、そこに昔の颯太が見えた。


でもすぐに消えた。


颯太の表情が冷たく閉ざされて、それから本物の怒りに変わった。


「……言いたいことはそれだけか」


低い声。さっきまでのわざとらしさが消えている。


「高一の時もそうだった。お前はいっつもわかったような口を叩いて、勝手に人の気持ち決めつけて。何も知らないくせに」


颯太が壁から体を起こした。


「もう二度と家の外に出たくなくなるようにしてやるよ」


拳が上がった。


――来る。


その瞬間、視界の端に凪紗が見えた。校舎の角から飛び出してこちらに向かって走っている。


……凪紗。


でも距離がある。前みたいに間に入って怪我をすることはない。それだけは安心した。


――結局こうなるのか。


どれだけ本を読んで計画を立てても、最後の最後で感情に飲まれて自分で全部壊してしまった。


……やっぱり僕はみんながいないとだめだな。



目を閉じた。



衝撃に備えた。


一秒。


二秒。


――来ない。


風を切る音はした。拳が振り下ろされた気配も確かにあった。


なのに痛みがない。衝撃がない。


代わりに目の前の空気がふわりと動いた。誰かが割り込んできたような、大きな気配。


おそるおそる目を開けた。


目の前に背中があった。


見覚えのある黒髪。すらりとした背中。


結城雪里が片手で颯太の拳を受け止めていた。


……え。


いつの間に。どこから。音もなく。


さっき走ってくる凪紗が見えた。あの距離から一瞬で凪紗を追い抜いて僕と颯太の間に入ったのか。


颯太の拳を掴んだ結城くんの手はびくともしていない。あの颯太の全力の拳を片手で軽々と。


……どうやったのか理解が追いつかない。でも一つだけ分かった。


この人は、やっぱり物語の中の勇者みたいだ。






*****






【視点:結城 雪里】


あの少女と別れてから全力で走った。


元の世界で体に叩き込んだ走法。魔法の補助はなくてもこの体にはオリンピック級の身体能力が残っている。


学校に着いて校舎を駆け抜けた。教室にいない。廊下にもいない。中庭にもいない。


――体育館の裏。


かすかな声が聞こえた方に走った。


角を曲がった瞬間、見えた。


颯太が拳を振り上げている。柚希が目を閉じている。凪紗さんが駆けつけようとしているがまだ距離がある。


――体が勝手に動いた。


スキルはない。この世界にはステータス画面に表示される戦闘スキルは存在しない。


でも二十四年間の体に染みついた動き方は消えない。


突進型剣スキル"疾風"と同じ体重移動。地面を蹴って一直線に距離を詰める。剣がなくても体の使い方は同じだ。


走っている凪紗さんの横を一瞬で通り過ぎて柚希と颯太の間に滑り込み右手で颯太の拳を受け止めた。


――重い。スポーツで鍛えた拳だ。普通の高校生なら骨が折れるかもしれない。


でも僕には何のダメージもなかった。


それよりも気になったのは拳に込められた力の質だった。これは本気だ。冗談や脅しじゃない。本当に柚希を傷つけるつもりの拳だった。


「……てめえ」


颯太が目を見開いている。


僕は颯太の拳を掴んだまま振り返らずに言った。


「柚希くん、大丈夫?」


「ゆ、結城くん……いつの間に……」


「ごめん、遅くなった」


それから颯太の方を向いた。


「颯太くん」


「……」


「僕は君たちの間に何があったか詳しくは知らない」


颯太の目を真っ直ぐに見た。


「でも凪紗さんがどれだけ君たちの関係を取り戻そうとしてるか、柚希くんがどれだけの努力をしてここに戻ってきたか。それは知ってる」


「……知ったような口きくんじゃねえよ、転校生が」


「みんな苦しんでるんだ。みんな前に進もうとしてる。それなのに同じことを繰り返すのか。もういい加減、大人になれよ」


颯太の目にさらに深い敵意が宿った。


掴まれた拳をぐっと引き抜いて一歩下がった。


「……お前さ、初日から思ってたけど」


颯太が構えた。バスケで鍛えた体が低く沈む。


「マジで気に食わねえんだよ。運動神経もいいみたいだし、ちょうどいい。この際はっきりさせようぜ」


殺気。


訓練場で何度も感じたあの感覚。本気で向かってくる相手の気配。


……この世界に来て初めてだ。


(ナビさん)


『はい。分かっております』


マオウ討伐のために戦い続けた二十四年間。何百回何千回と頭の中に響いた声。あの言葉がもう一度聞こえた。



『戦闘開始』






*****






☆ 〜つづく ☆

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桐谷 颯太 と 取り巻きA 取り巻きB 取り巻きC が あらわれた!

 ▶ たたかう

  にげる

  じゅもん

  どうぐ

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