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ゆうしゃぐらし ~世界を救った勇者、褒美に現代日本で高校生やってます~  作者: 縁側の猫
第二章

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第十三話 【クエスト7 : 不登校の友達を助けろ ②】

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月曜日の朝、物語が動き出します。

そして、ユーリくんの前に現れた銀色の髪の少女の正体は――。

どうぞお楽しみください。

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【視点:七海 凪紗】


――しまった。


目覚ましを見た瞬間に飛び起きた。七時四十五分。待ち合わせは八時。


昨日の夜、ゆずが学校に来ると思ったら嬉しすぎて全然眠れなかった。布団の中でゆずと一緒に登校する場面とか昼ごはん一緒に食べる場面とかを延々と妄想してたら気がついたら空が白くなってて、そこから記憶がない。


……たぶん明け方に力尽きたんだと思う。


それにしてもユーリくんはすごい。出会って二日でゆずを学校に行く気にさせちゃうなんて。わたしが何ヶ月もかけてできなかったことをあっさりとやってのけた。


ユーリくんが転入してきてまだ一週間しか経っていないのに、わたしの周りはずいぶん変わった。わたし自身も前よりずっと笑ってる気がする。


……なんて感慨に浸ってる場合じゃない。


グループトークに急いでメッセージを打った。ごめん、寝坊した、先に行ってて。


ゆずが何ヶ月ぶりに学校に来るっていうのにわたしが寝坊ってもう笑うしかない。でも落ち込んでる場合じゃない。


制服に着替えて顔だけ洗って家を飛び出した。






*****






全力で走って学校に着いた。ホームルーム開始の二分前。


教室に駆け込むとクラスメイトたちが驚いた顔で振り返った。


「七海が遅刻ギリギリ!? 何があった!?」


「明日は雪でも降るんじゃね!?」


「う、うるさい! ちょっと寝坊しただけ!」


息を整えながら自分の席に座る。汗がすごい。


――ユーリくんはゆずと一緒に来れたかな。


そう思った時だった。


廊下の方からざわめきが聞こえてきた。


何人かの生徒が窓の外を見ながら話している。


「……あの登校拒否だった子、今日来たらしいよ」


「マジ? 二年になって急に?」


「でもさっきバスケ部の連中がそいつのクラスに行って、そのまま連れてったって……」


――え。


心臓が凍りついた。


バスケ部がゆずを連れていった。ゆずが来てまだ朝なのに。もう目をつけられた。


あの時の光景が一気に蘇った。颯太の冷たい目。ゆずの怯えた顔。止めに入ったわたしの腕にぶつかった衝撃。


――だめだ。同じことが起きる。


体が震えた。怖い。でも行かなきゃ。


席を蹴って教室を飛び出した。






*****






【視点:水瀬 柚希】


――クラスメイトたちにお願いしたいことを全て伝え終えた直後だった。


教室の扉が開いた。


空気が変わった。


入り口に立っていたのは颯太だった。


バスケ部のジャージを羽織った大きな体。鋭い目。その後ろに取り巻きが三人。全員がバスケ部の同級生だ。


教室にいたクラスメイトたちが一斉に身を強張らせた。さっきまで「味方する」と言ってくれた子たちの顔が強張っている。


……分かってる。怖いよね。僕だって怖い。


でも。


「よお、柚希」


颯太が教室に一歩入ってきた。


口元だけの薄い笑み。目は笑っていない。


「久しぶりじゃん。何ヶ月ぶり? せっかく昔の幼馴染が来たのに挨拶もなしとか、ちょっと寂しいなぁ」


わざとらしい声。わざとらしい笑顔。昔の颯太からは想像もできない、人を試すような話し方。


「来いよ」


颯太が顎でしゃくった。有無を言わせない声だった。


取り巻きの一人が僕の腕を掴んだ。力が強い。


僕はクラスメイトたちをちらりと見た。何人かが唇を噛んでいる。


――大丈夫。お願いした通りにしてくれれば。


僕は抵抗せずに教室を出た。






*****






【視点:結城 雪里】


銀色の髪の少女に連れられて駅から少し離れた海沿いの遊歩道を歩いていた。


朝の通学時間帯でも人通りの少ない場所。潮風が穏やかに吹いている。


……柚希くんが心配だった。凪紗さんも遅れている。一刻も早く学校に行きたい。


でもこの少女を放っておくわけにはいかなかった。この世界で魔力を持つ存在。しかもうちの学校の制服を着ている。正体を確かめなければ。


「時間取らせてごめんね」


少女が遊歩道のベンチの前で立ち止まって振り返った。


「先週転入してきた子がいるって聞いて。それがちょっとだけ神力を持ってるように見えたから、気になって」


「……神力?」


「うん。……詳しく話しても君も困るだろうし、変な子だって思われちゃうかもしれないけど。わたしにはちょっとだけそういうのが分かるの」


(ナビさん)


『はい。"神力"は現代日本において魔力に近い概念として使用される場合がございます。ただし正確な情報は確認できておりません。引き続き警戒を維持してください』


「……君はその、神力を持ってるの?」


「ちょっとだけね。生まれつきみたいなもの」


少女はベンチに腰掛けた。朝日が銀色の髪を淡く光らせている。


「だから同じような力を持ってる人がいると分かるの。この街ではすごく珍しいから」


「……そうなんだ」


「うん。……ねえ、一つ聞いていい?」


「何?」


「ユーリくんはどうしてこの街に来たの?」


……どこまで話していいのか。


「……親の仕事の都合で引っ越してきた、ってことになってる」


「なってる?」


少女が小首を傾げた。穏やかな目がこちらをじっと見ている。


「……まあ、色々事情があって」


「そっか。無理に聞かないよ」


少女はあっさりと引いた。


「新しい生活はどう? 学校、楽しい?」


「……うん。まだ転入して一週間だけど、いい友達もできたし楽しいよ」


「そっか」


少女が微かに笑った。


「いい友達……そっか。よかった」


その笑顔はどう見ても純粋に喜んでいるように見えた。嘘や作り物には見えない。


……でもナビさんは警戒しろと言っている。この少女の正体はまだ分からない。


「この街ね、穏やかでいい街なんだよ。海も近いし、人も優しいし。でもたまにね、ちょっとだけ嫌なことも起きる」


「嫌なこと?」


「うん。……人と人の間がうまくいかなくなること。前は仲良かったのに急に離れちゃったり、優しかった人が変わっちゃったり」


少女は海を見つめながら呟いた。


その声にはほんの微かに痛みのようなものが混じっていた。


「でもさ、そういうのって外から来た人が変えてくれることもあるんだよね。新しい風が吹くと空気が動くみたいに」


「……」


「ユーリくんが来てからこの街の空気がちょっと変わった気がする。いい方に」


僕はその言葉の意味を考えた。転入して一週間で街の空気が変わる。そんなことがあるだろうか。


「……君のことも教えてほしいな。名前とか」


「……今はいいよ」


少女は首を横に振った。


「また会えるから。すぐに」


「……」


「それよりさ」


少女がこちらを見た。さっきまでの穏やかな表情が少しだけ変わった。何かを知っている目。


「早く行った方がいいんじゃない?」


「え?」


「ゆずも、凪紗も、颯太も。今頃大変なことになってるかもよ」


――ゆず。凪紗。颯太。


全員の名前を知っている。しかも呼び方が「ゆず」だ。幼馴染たちだけが使う呼び方。


背筋に冷たいものが走った。


「……君、なんでその名前を」


「早く行って」


少女は静かにそう言った。


「わたしのことは後でいいから。今は、あの子たちのところに」


その声には急かすような響きがあった。心配しているような、焦っているような。


……何者なんだ、この子は。


でも考えている時間はなかった。


ゆず。凪紗。颯太。大変なことになってる。


僕は踵を返して走り出した。


全力で。学校に向かって。


走りながら振り返ると遊歩道にはもう誰もいなかった。






*****






☆ 〜つづく ☆



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