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薔薇の令嬢と星を見る人 ――社交界に戻った令嬢が、使用人の天文学者を好きになるまでの話  作者: 直助


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第35話 星を見る夜に

 イレーネの研究室。


 アリアは、書類を差し出す。


 イレーネはそれを受け取り、軽く目を通す。


「ご苦労様、ありがとう」


 紙をめくりながら、続ける。


「場所は、迷わなかった?」


 アリアは、わずかに首を振る。


「ええ」


「案内してもらいましたから」



 イレーネは、小さく笑う。


「彼って」


 視線を上げる。


「どこにでも現れるのよね」



 アリアは、何も言わない。



 イレーネは書類を揃えながら言う。


「お昼は……ご馳走になった?」


 アリアは、軽く頷く。


「ええ」


「向こうの食堂で」



 イレーネは、少し楽しそうに。


「美味しかったでしょう?」


「私もあまり行ったことはないけれど……」


「トキアスも、もう少し美味しくしたらいいのにね」



 アリアは、小さく頷く。


「そうですね」


「美味しくて……少し驚きました」



 イレーネは、視線を落としたまま口を開く。


「……あの子は」


 紙の端を揃える。


「どうするのかしらね」



 アリアは、わずかに視線を外す。


「さあ」


 それだけ言って、書類に手を伸ばす。





 オサリア王国。


 アリアを見送ったあと、


 ニールスは、そのまま持ち場へ戻る。



 大学。


 講義室。


 ソルの天文学の講義。


 ニールスは、助手としてその場に立つ。



 板書が進む。


 学生たちの視線が動く。


 言葉が、淡々と積み重なる。



 ニールスは、それを追いながら――


 別のことを考えている。



(……逃げている)



 アリアの言葉が、残っている。



(……違う)



 すぐに打ち消す。



(……違う、はずだ)



 だが、


 その先が、続かない。



(……何も、考えていなかっただけじゃないのか)



 ふと、そこで止まる。



 講義は進んでいく。


 手は動いている。


 声も出ている。



 だが、


 考えだけが、同じところを巡る。




 講義が終わる。


 人が、散っていく。



 ニールスは、そのまま城へ向かう。



 ユリウスの執務室。



 書類を広げる。


 日程を確認する。


「明日の午前は、来客が二件です」


「午後は、大学の式典がありますので」


「ご出席をお願いします」



 淡々と告げる。



 ユリウスは、書類に目を落としたまま聞いている。



 ニールスの声が、わずかに途切れる。



 視線が、少しだけ落ちる。



 ユリウスが、顔を上げる。


「おい、ニールス」


「どうした」



 ニールスは、はっとする。


「いえ……」



 ユリウスは、少しだけ口元を緩める。


「アリア、だったか」


「好きな娘のことでも考えてたか?」



 軽く言う。



 ニールスは、すぐに首を振る。


「違いますよ」



 ユリウスは、肩をすくめる。


「冗談だよ」


「続けろ、ぼーっとすんな」



「失礼しました」



 ニールスは、視線を戻す。


 書類に目を落とす。



 言葉を続ける。



 ユリウスは、それを聞きながら――


 小さく、息を吐く。



「……俺がどうこうする話でもねえか」



 ほとんど、独り言のように。



 ニールスは、顔を上げる。


「なにか?」



 ユリウスは、軽く手を振る。


「いや、なんでもねーよ」



 ニールスは、わずかに首を傾ける。


 だが、それ以上は聞かない。





 夜。


 オサリアの空は、静かだった。



 ニールスは、一人で外に立っている。


 簡易の観測台。


 器具に手を添える。



 星が、広がっている。



 久しぶりだった。


 こうして、


 何も考えずに星を見るのは。



 視線を上げる。


 夜空を、追う。



(……こんなふうに見るのは)


 一度、考える。


(いつ以来だろうな)



 思い出そうとして、


 ふと、別の記憶が浮かぶ。




 晩餐会の夜。



 あのときも、


 二人で、外に出た。



 並んで、


 同じ空を見上げた。



 あの夜も――


 星は、綺麗だった。




 ニールスは、何も言わない。



 ただ、


 もう一度、空を見上げる。


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