第34話 迷いの奥に、棘は触れる
オサリア王立大学の食堂。
昼時。
適度に人が入っている。
声と食器の音が、混じる。
ニールスが、周囲を見回す。
「少し混んでいますね」
「並びましょうか」
「お時間は大丈夫ですか」
アリアは、軽く頷く。
「ええ」
列に並ぶ。
順番が来る。
定食を二つ頼み、受け取る。
ニールスが視線を動かす。
「あちらが空いていますね」
端の席を示す。
人の流れから少し外れた、
二人掛けの向かいの席。
「そちらでよろしいですか」
アリアは、頷く。
席に着く。
向かい合う。
トレーを置く。
箸を取る。
アリアが、一口食べる。
わずかに表情が変わる。
「……美味しい」
少しだけ、驚いたように言う。
ニールスが、わずかに笑う。
「そうでしょう」
「食堂ですが、味はそれなりに評判なんです」
落ち着いた口調。
アリアは、もう一口。
「トキアスの食堂は……」
一拍。
「味は、あまり重視されていないので」
それだけ言う。
また、箸を進める。
しばらく、食べる音だけが続く。
食事が、終わりに近づく。
器に残るものも、少ない。
アリアが、ふと口を開く。
「大学の方に誘われていると聞きました」
「どうされるんですか」
ニールスは、わずかに視線を落とす。
「……いえ」
歯切れが悪い。
「まだ、なんとも」
アリアは、わずかに首を傾ける。
「そうですか」
「断るつもりなんですね」
ニールスは、すぐに顔を上げる。
「いえ」
「まだ結論が出ていないだけです」
アリアは、視線を外さない。
「そうやって」
「逃げるんですか」
静かな声。
「ソル教授も、ノクス副学長も」
「あなたを評価しているのに」
「それでも、です」
ニールスは、わずかに息を吸う。
「逃げているわけではありません」
「ただ……」
言葉が続かない。
アリアは、そのまま続ける。
「逃げています」
はっきりと言う。
「責任のある立場から」
「今のままの方が、都合がいいから」
ニールスの表情が、わずかに揺れる。
アリアは、さらに言葉を重ねる。
「誰かの下で動くままでいれば」
「自分で決める必要もありませんし」
そこまで言いかけて――
「……っ」
ニールスが、声を上げる。
「逃げてなんかいません!」
一瞬、周囲の音が遠のく。
ニールスは、すぐに気づく。
自分の声に。
わずかに目を伏せる。
「……申し訳ありません」
「大きな声を出してしまって」
アリアは、表情を変えない。
「いえ、気にしていません」
それだけ言う。
空気が、少しだけ重くなる。
ニールスは、視線を落とす。
手元の器に目を向けたまま、
何も言わない。
(……)
思考が、また巡り始める。
大学の話。
自分の立場。
選択。
答えは、まだ出ていない。




