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薔薇の令嬢と星を見る人 ――社交界に戻った令嬢が、使用人の天文学者を好きになるまでの話  作者: 直助


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第33話 小さなはじめての重なり

 イレーネの研究室。


 アリアの机の横に、イレーネが来る。


「アリア、悪いんだけど」


 書類を差し出す。


「これを、オサリア王立大学まで持っていってほしいの」


 机の上に置く。


 指で、数か所を示す。


「ここに記入をもらってきて」


 簡潔に言う。


 アリアは、手を止めて顔を上げる。


「わかりました」


 短く頷く。


 イレーネは、小さく息をつくように笑う。


「助かるわ」


「馬車は出ているから、それに乗っていきなさい」


 それだけ付け加える。


 アリアは、書類をまとめる。


 紐で留める。


 立ち上がる。


 椅子を戻す。


 そのまま、部屋を出る。



 乗り合い馬車の乗り場へ向かう。


 足取りは、変わらない。



 乗り場に着く。


 ちょうど馬車が出るところだった。


 御者に行き先を告げ、そのまま乗り込む。


 揺れが、ゆっくりと始まる。



 街を抜ける。


 石畳が途切れ、土の道に変わる。


 車輪の音も、少し柔らぐ。


 窓の外、景色が流れていく。



(……そういえば)


 ふと、思う。


(ひとりでオサリアに行くのは、初めてね)


 それだけ考える。


 それ以上は続かない。


 視線を外へ戻す。



 畑が続く。


 ところどころに、木立。


 遠くに、小さな家が点在している。


 人の姿も、まばらになる。


 風が、窓から入り込む。


 布が、わずかに揺れる。



 時間が、静かに過ぎていく。


 同じ景色が、少しずつ変わる。


 やがて――


 遠くに建物が見え始める。


 石造りの壁。


 整えられた道。


 人の気配が、戻ってくる。



 馬車が、速度を落とす。


 やがて、止まる。


「着いたぞ」


 御者の声。


 アリアは、立ち上がる。


 外に出る。


 目の前に、


 オサリア王立大学があった。



 正門をくぐる。


 見覚えのない建物が並ぶ。


(……確か、このあたりだったはず)


 記憶を頼りに、歩を進める。



 そのとき、

 視界の先に、人影が見える。


 ニールスだった。



 向こうも気づく。


 一瞬、目が合う。


 すぐに、こちらへ向かってくる。


「こんにちは」


 穏やかな声。


「アリアさんがこちらにいらっしゃるなんて、珍しいですね」


 アリアは、軽く頷く。


「こんにちは」


「ええ、まあ」


 手元の書類を取り出す。


「こちらの書類をお願いしたいのだけれど」


 ニールスは、すぐに視線を落とす。


「拝見します」


 一度目を通す。


「……担当は、あちらですね」


 顔を上げる。


「ご案内します」


 歩き出す。



 建物の中へ入る。


 窓口で手続きを済ませる。


 必要な箇所に、記入が入る。


 書類が返される。



 外へ出る。


 アリアは、書類を整える。


「助かりました」


 短く言う。


 ニールスは、軽く首を振る。


「いえ」


 少しだけ、間が空く。


「……もうすぐ昼ですし」


 自然に続ける。


「よろしければ、ご一緒にいかがですか」


 言ってから、


 ほんのわずかに視線が揺れる。



 アリアは、少し考える。


「そうね」


「そうさせていただこうかしら」


 ニールスは、小さく頷く。


「では」


 それだけ言う。



 歩き出す。


 並んで。


 言葉は、まだ少ない。



 ニールスは、前を見たまま歩く。


(……)


 ほんの少しだけ、間を置く。


(……しまった)


 自分の言葉を思い返す。


 わずかに、呼吸が浅くなる。


 だが、顔には出さない。


 歩き続ける。


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