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薔薇の令嬢と星を見る人 ――社交界に戻った令嬢が、使用人の天文学者を好きになるまでの話  作者: 直助


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第22話 有無を言わさず、流れのままに

 トキアス王立大学。


 ノクスに呼び出され、ニールスは研究室を訪れていた。


「失礼します」


 扉を開ける。


 ノクスは、すでに机に向かっていた。


「来たか」


 顔を上げる。


「君に、折り入って頼みがある」


 唐突に言う。


 ニールスは、わずかに間を置く。


「……なんでしょうか」


 ノクスは、机の上の地図を広げる。


「トキアスの外れに、小さな農村がある」


 指先で、位置を示す。


「ここだ」


 一拍。


「そこへ、技術指導に行ってほしい」


 ニールスは、視線を地図に落とす。


「技術指導、ですか」


「ああ」


 ノクスは頷く。


「トキアスの人間は、どうにもそういうことが苦手でね」


「やろうとしないわけではないが……」


 言葉を選ぶ。


「進まない」


 短く言う。


 ニールスは、小さく息をつく。


「……わかりました」


 一拍。


「それでは、オサリアに許可を――」


「その必要はない」


 言葉を遮る。


「すでに確認は済んでいる」


 淡々と。


「問題ない」


 ニールスは、わずかに目を瞬かせる。


「……はあ」


(そういうところは、早い)


 内心で思う。


 ノクスは、地図の端を軽く叩く。


「ここから乗合馬車が出ている。もうすぐ出る」


 視線を上げる。


「急いだ方がいい」


 ニールスは、顔を上げる。


「……え、今からですか」


「ああ」


 当然のように言う。


「手配は済んでいる」


 それだけ。


 ニールスは、一瞬だけ言葉を失う。


(そういうことではなくて……)


 喉まで出かけて、


 飲み込む。


 小さく息を吐く。


「……わかりました」


 短く。


「向かいます」


 ノクスは、軽く頷く。


「頼む」


 一拍。


「助かる」





 そのまま、大学の外へ出る。


 石畳を抜けた先。


 乗合馬車が、ちょうど動き出そうとしていた。


 御者が、手綱を引く。


 馬が、わずかに前へ踏み出す。


「待ってください!」


 ニールスが声を上げる。


 足を速める。


 御者が振り返る。


「……おや」


 馬を止める。


「乗るのかい?」


 ニールスは、息を整えながら頷く。


「はい。自分も乗せてください」


 御者は、ニールスの姿を一度見て、


 少しだけ目を細める。


「珍しいね」


 一拍。


「農村に行く若いのは」


 ニールスは、苦笑する。


「技術指導で行くことになりまして」


「ほう」


 御者は、軽く頷く。


「大学の関係者かい」


「はい」


「なおさら珍しい」


 小さく笑う。


「そういうの、みんな嫌がるからね」


 ニールスは、言葉を返さない。


 ただ、曖昧に笑う。


 馬車の後ろには、荷が積まれていた。


 木箱。麻袋。


 人よりも、物の方が多い。


 御者が顎で示す。


「空いてるとこ、そこだ」


 ニールスは、軽く頭を下げる。


 荷の間に腰を下ろす。


 木の感触が、直に伝わる。


「じゃあ、行くぞ」


 手綱が引かれる。


 馬が歩き出す。


 車輪が、石を踏む。


 音が、ゆっくりと動き出す。


 屋根の帆布が、風にわずかに揺れる。


 横は開いている。


 外の空気が、そのまま流れ込んでくる。


 街の匂い。


 人の気配。


 それらが、少しずつ薄れていく。


 やがて、


 石畳が途切れる。


 土の道に変わる。


 揺れが、変わる。


 建物の背が、低くなる。


 人の数が、減る。


 音が、遠くなる。


 王都が、後ろへ下がっていく。


 景色が、ゆっくりと入れ替わる。


 ニールスは、何も言わない。


 ただ、揺れに身を任せる。


 風が、少しだけ強くなった。



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