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薔薇の令嬢と星を見る人 ――社交界に戻った令嬢が、使用人の天文学者を好きになるまでの話  作者: 直助


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第21話 届かぬままに、すれ違う

 教授室。


 扉が閉まる。

 中には、前回と同じ顔ぶれが揃っていた。


 ノクスは席に着く。

 視線が集まる。


 短い沈黙。


「――先日の件ですが」


 一人が口を開く。


「オサリアの使用人について」


 確認の形。

 だが、空気は前とは違っていた。


「運用についてですが」


 別の教授が続ける。


「一定の範囲であれば、従来通りでも問題ないかと」


 穏やかに言う。

 否定ではない、条件付きの許容。


「ただし」


 わずかに間。


「副学長の管理のもとで、という形になりますが」


 視線が、ノクスに向く。


「過度な関与は、控えていただく方向で」


 やはり柔らかい。

 だが、線は引かれている。


 ノクスは、すぐには答えない。


 一拍。


「承知しました」


 短く、それだけ。それ以上は何も言わない。


 話はそれで終わった。


 椅子が引かれる音。

 立ち上がる気配。


 扉が開き、閉まる。



 廊下。


 足音が、一定に続く。


 ノクスは歩く。

 速度は変わらない。


(……急だな)


 思う。


(判断が、早すぎる)


 理由は提示されていない。だが――


(何か、動いたか)


 それ以上は追わない。

 考えは、そこで止める。


 角を曲がる。


 前方に、二人の姿が見える。


 足が、わずかに緩む。


 アリアと、テオドールだった。


 距離は近い。

 声ははっきりとは聞こえない。


 それでも――


 アリアが、軽く頭を下げる。

 言葉が添えられる。

 柔らかい。

 普段よりも。


 テオドールはそれを受ける。

 特別な様子はない。

 いつも通りに、短く何かを返す。


 それで終わる。

 二人は自然に離れる。流れは止まらない。


 ノクスは、そのまま通り過ぎる。


 視線は向けない。だが――


(……そういうことか)


 思う。


 それ以上は何も言わない。


 足音だけが、また一定に戻る。




 イレーネの研究室。


 扉の前で、足が止まる。


 軽く、ノック。


「失礼します」


 扉を開ける。


 中は、いつも通りだった。


 机と書類。

 窓からの光。


 イレーネが顔を上げる。


「あら」


 一瞬だけ視線が動く。


「アリアは外出中よ」


 ニールスは、わずかに間を置く。


「いえ、書類を届けにきました」


 手に持った封を示す。


「あら、そう」


 短く返す。


 それ以上は続かない。


 ニールスは、机に書類を置く。


 それで、用は済む。


 だが、


 足が、すぐには動かない。


 ほんのわずかな間。


 イレーネが、ペンを置く。


 視線が、ニールスに向く。


「……あなたって」


 一拍。


「大事にされているのね」


 静かに言う。


 強くはない。


 ただ、置くように。


 ニールスは、反応が遅れる。


「……?」


 意味がつかめない。


 問い返すほどでもない。


 言葉が、出ない。


 その時、


 扉が開く。


 足音。


 アリアが戻ってくる。


 視線が、ニールスを捉える。


 わずかに、止まる。


「――」


 声になりかける。


 ほんの一瞬。


 ニールスが、先に動く。


「それでは」


 短く。


 イレーネと、アリアに軽く会釈をする。


 それ以上は言わない。


 そのまま、扉へ向かう。


 足を止めない。


 振り返らない。


 扉が閉まる。


 部屋に、静けさが残る。



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