第2章-9 牢獄(前編)―パンチャーラ国アヒッチャトラ―
パンチャーラ国アヒッチャトラ。
大きな街の中心の大通りで、慧は托鉢していた。
Taṃ kiṃ nāma jātaṃ nu?___
Taṃ kiṃ?
Taṃ nīlaṃ sāṭakaṃ vadāmi.____
Āma, theyyena gahitaṃ bhavissati.
Ehi ehi, mā no tena sadisaṃ karohi. Tapassī eso.__
慧の進む方向の十ダヌスほど先で、今日の仕事にあぶれた男が立ち話をしている。
男の一人は太っていて、左の二の腕にコブラの入れ墨をしていた。もう一人は痩せて、首から黒い巾着袋を下げていた。
その横を慧が通り過ぎた。
Ādiso puriso ativiya bhāyitabbo.
Evaṃ nu?
.......Sundaraṃ upāyaṃ sarāmi.
Kiṃ nāma?
Hehe, mayhaṃ etaṃ nissajja passāhi.
慧は、その男たちの横を通り過ぎてから、十五軒の家々の前で托鉢をしたが、布施食に預かったのは、わずかに二軒。
施食は小麦の薄焼き二枚、それに赤豆の塩煮が少しだった。
(今日は、布施食の量がいつもよりも少ないです。)
(量の多少を見ず、知足)
(....そうなんですけど)
―パカパッ パカパッ パパパ パパッ―
―ザザッズゥ―
盛大に砂埃が舞い、たちまちその砂埃の匂いがぷーんと立つ。
慧の前に、馬が立ちはだかった。
と同時に、後ろから押さえつけられて、そのまま地面に倒された。
押さえつけた力の強い男は兵士のような服を着た二人だった。
慧は、あっという間に両手を後ろ手に縛られた。
馬から伸びた縄に引き摺られるようにして、城壁のある場所に連れて行かれ、その城壁の切れた先にある古びた暗い建屋の中に連れて行かれた。
Api nu kho mayā kiñci aparaddhaṃ kataṃ?_____
衛兵らしき男に尋ねたが、何も答えてはくれなかった。
慧は、何も聞かされず。
無言のまま、牢屋に入れられてしまった。
ツンとするカビ臭さと、人間の垢が溜まったような饐えた匂いのする牢の中は暗かった。
高い壁の上の方に、十アングラくらいの格子窓が開いているだけで、牢の入口からも、光は入ってこなかった。
ようやく目が暗さに慣れてきて、牢の中をよく見ると、高窓の開いた壁の下に、男が座っていた。
その男は、慧と同じように腰布を巻き、上半身は何も着ていなかった。
(行者?)
男は、慧にはまったく関心を向けず、生気のない男の眼はまっすぐに一点を見つめながら黙って座っていた。
高窓から漏れる光が、男の顴骨だけを浮き上がらせているのが異様だった。
慧は、その男の左側の壁にもたれて座った。
(あの方には、何があったのでしょう?)
(わからぬ)
ひんやりとした暗い壁にもたれかかると、慧は深いため息を一つした。




