第2章-5 ウーツの剣(前編) ―ヴァッツァ国 ナヘルのニームの森―
ヴァッツァ国ヴェランジャ村から三ヨジャナのあたりにあるナヘルのニームの森。
北にパンチャーラ国、北東にコーサラ国があり、南にはチェティー国が控えていた。
パンチャーラは盗賊集団の巣窟として、旅を行く者には恐れられ、クル国からパンチャーラ国を迂回してまでコーサラ国へとたどる大街道は、盗賊集団からの襲撃を回避するためでもあった。
ジャティラ隊長率いるガンダーラ商業ギルドによって編成されたキャラバンは、旅程の中の最大の難所、すなわち、この辺りからカンニャクブジャにあるガンガーの渡渉場までのおよそ二十二ヨジャナが、今回の旅程において最大の難所となる。
この数日の間に、ジャティラ隊長の面持ちが次第に厳しくなっていった。
Sādhu, imasmiṃ nimbarukkha-vane senāsanaṃ kappema. Aggissa payogo na kātabbo, dhūmapānaṃ pi nivāretha. Rakkhā-byūhena paṭikkhipatha, sabbakicce niṭṭhite sabbe senāpatiyo sannipatantu.
キャラバンは危険な森や草原・荒野での野営をする際、焚き火はしない。
理由は、篝火を見てあるいは臭いで野盗集団の標的になるからである。
したがって、夕食は乾燥麦粥やデーツなどの干した果物、炒り豆や塩豆で空腹をしのいだ。
天幕の設営と、牛やラクダと荷車の整理が終わり、各部の指揮官たちがジャティラ隊長の天幕に参集してきた。
Sabbe samāgatā nu? Tena mayaṃ ārabhamā. Moggalāna-upasenāpatī ca Kaldatta-upasenāpatī ca, paṭhamaṃ bhūmicittena maggaṃ vaṇṇetha.
二人の副隊長は同時に返事をした。
Āma.
モッガラーナ副隊長は、簡易机の上に地図を広げた。
所々に記しが入っており、Gangha の文字が大きく書き込まれ、コーサラ国の関所とも言えるKanyakubjaが朱色の丸で囲んであった。
カルダッタ副隊長が口火を切った。
Ettha idani ṭhānaṃ, Verañjagāmato tiyojanamattaṃ Naharassa nimbavanaṃ. Sve Verañjagāmassa samīpe senāsaṇaṃ, pare sve tato tayojanāni gantvā Soreyya-nagaraṃ pavisissāma. Pakkamanaṃ| aruṇuggamanā pure.
Tasmā ajja rattiyā ca sve rattiyā paṭhamena rakkhāvidhinā vasissāma. Sabbe attano cetasaṃ daḷhaṃ karothā.
Senato apakkamanaṃ na vaṭṭati. Ettakaṃ. Rakkhāsenāpati avasissatu, ārakkhāya mantanaṃ karissāma.
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ちょうどその頃、ナガは森の奥の方へ行き、ワジラとの短い逢瀬を堪能していた。
ワジラの居る旅芸人一座は、この森の向う側にあるヤムナ川の近くに野営していたので、二人が合うには好都合な位置関係だった。
ニームの森の中の奥に入ると、大きな原っぱがあって、その真中に二人で寝転んでいた。
ワジラはナガの厚い大胸筋の盛り上がった胸板に顔を埋め、ナガの右手はワジラの何本か結んだ髪のキラキラ光る髪飾りを弄んでいる。
なにも言わず、何も聞かずに、ただ今にも降ってきそうな満天の星空を見上げながら。
ワジラがふいに言った。
Naga, iyaṃ sāravāha-yātrā niṭṭhite tvaṃ kiṃ karissasi
Attano gehaṃ yeva gamissāmi.
Evaṃ nu, etaṃ yeva.
Kasmā?_
Na hi, bhadde. Ahaṃ idheva gehaṃ maññāmi.
Ehissasi?
Aho!?___
その時、ナガが急に起き上がった。
Kiṃ jātaṃ?__
Tuṇhī! Tuṇhī bhava.
ナガは西の方角の草むらの方を見ている。
草むらの高さは腰ぐらいある。だから、立ち上がらないと遠くまで見通せない。
だが、草をかき分けてこちらに向かってくる「何か」がいることは間違いないようだった。
【脚注】
◯ウーツ鋼
以下のエピソード参照。
(第1章-16 大キャラバン発つ (後編)-ガンダーラ国首都タクシラ-)




