第2章-4 大礼祭(後編) ―ガンダーラ国スワート川―
Bhojja, ajja imāni bhājanāni dātuṃ na sakkā.
Kasmā?_ __
Āma, ajja saṃvaccharena ekaṃ mahāmaho hoti. Gāmato pi nagarato pi ime bhājanāni oloketvā āga|cchanti.
Evaṃ saceva. Atha kho tvaṃ ekekaṃ vikkiṇanakaṃ passa. Sabbaṃ ekato vikkiya khippaṃ ca mahantataraṃ labhissasi.
Evaṃ siya, bhojja. Atha kho ahaṃ ekamekassa khāyakassa imassa Gandhāranīlaṃ paticca āgacchantaṃ, paccā ekaikassa hāsamānassa gharato pi pacchato olokanaṃ_
Sādhu! Anumodāmi. Puna kadāci. Devānaṃ anuggaho hotu.
Āma. Devānaṃ anuggaho hotu.
アーロカは、この大礼祭のために普段焼いているガンダーラ・ニーラの完成品の中で、色の出方が足りなかったり、飛び出してしまったものを除けておいて一年間倉庫に貯めておく。
それを、通常の交易品で出荷するガンダーラ・ニーラの半分以下の値段で販売するのだ。
ただし、さっきの商人みたいにやってきて、まとめ買いして転売されないよう、アーロカ独自の販売条件がある。
それは、お一人様一点限り。
家族がいる場合には、一緒に来ている人だけに売る。
何度も来て、繰り返し買えることはない。
何故ならば、今日中に全部売り切れてしまうし、長い行列に並ばないと買えないからである。
たとえ長い行列に並んだとしても、後方の人は買うことができる保証はなく、毎年のように買えずに帰る人がいる。
しかし、アーロカはそのような不運な人々にも気を使う。
Khama, ayye, sabbaṃ vikkiyi. Atha kho saṃvacchare idaṃ haritvā ehi. Evaṃ sati anālikāya ṭhatvā Gandhāra-nīlaṃ vo dassāmi kira._ __
そう言って、スワート川の河原で採れる石灰質の純白の丸い石にガンダーラニーラの釉薬に使うAzureで模様を描いてある”握り石”を渡す。
それを受け取ると、不運なお客達は嬉しそうに帰ってゆくのだった。
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昼近くなって、商品もほぼ完売近い状態になり、ひるどきのせいかも知れないが客足が止まった。
アーロカはジャーピタからもらった”スノートラウトの一夜干し炭火焼き”の竹皮の包を開き、自分で焼いてきたロティを横においた。
竹筒の水筒に入れてきたミルクティを陳列棚の後ろに下げてあったのを思い出して、立ち上がって取りにゆくとき、思わず声を出した。
Aho!__
ふっとその陳列棚に残った大小のガンダーラニーラのレイアウトが、あの日、慧を寝室に招き入れた時、自分が寝室に入ってゆくまさにそのときに見た光景とそっくりだった。
あの日からアーロカは、慧を思わない朝はなかった。
朝、目覚めて、身体を起こすといつものように、胸に手を合わせ声を出して祈る。
“Maggasmiṃ Kei rakkhā hotu, sabba-dukkhā pamuccantu.
Sukhena gacchāma, sabbe devatā rakkhantu Kei.”
”この道中、慧に護りあれ
あらゆる災いが離れますように
無事に進めますように
すべての諸神よ、慧を守りたまえ”
物思いにふけりながら、昼食を済ませると、アーロカは隣で木椀などを売っている知り合いの職人夫婦に声をかけた。
Bhojja, muhuttaṃ imaṃ āpaṇaṃ rakkheyyāsi? Anujānāsi nu?
Āma, gaccha tāta._ _
そう言って、アーロカは祭典が行われているヴェーダ寺院の中へ入っていった。
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ヴェーダ寺院の中の境内は広く、人も大勢集まっている。
本堂の中では、大勢のバラモンによるマントラの詠唱が轟々と音を立てて響き渡っていた。
本堂の中へ入ってみた。
天井が高い堂内には、焦げたギーの匂いに香木の香りが混ざり合って、思わずたじろぐようなムッとした雰囲気に満ちていた。
大勢が整然と座って、中央の祭壇に祀られた護摩焚きの火を崇めるようにして手を合わせている。バラモンの司祭は、時折、供物を投げ入れる。すると、それに答えるかのように大きな青い炎が舞い上がる。
祭壇の最前列には、プシュカラヴァティのギルド長老ラッタディンナが座っていた。
ラッタディンナは、アーロカに気がついて、右手を軽く揚げた。アーロカは、それに答えて、胸の前で手を合わせた。
すると、ラッタディンナ長老は隣の席の男に耳打ちをしてから立ち上がり、アーロカのところに歩いてきた。
Ālokā, cirassaṃ diṭṭhāsi. Kalyāṇī nu?
Rattadinna-thera, āma, khamāmi.___
Evaṃ nu, taṃ suṭṭhu. Sādhu.
Āma āma, sammusaṃyeva, Ālokāya yācitaṃ taṃ Ājīvika-paribbājakassa kāraṇaṃ...___
Kiñci atthi!?_____
Na kho mahantaṃ, atha kho Kuru-raṭṭhe Hastināpure seṇiyato āgata-vacanena, so kira Kururaṭṭhā Pañcālāraṭṭhaṃ gato._ ___________
Pañcālāraṭṭhaṃ nāma?___
Uṃ, Pañcālaraṭṭhassa seṇiyā saddhiṃ sākā sambanho natthi. Paṭhamaṃ Kosalaraṭṭhaṃ nissāya yojetabbaṃ. Atha kho kāravāno Kosalaraṭṭhaṃ pavisissanti māsato uddhaṃ pacchā.__
Evaṃ nu, sace tathā, Pañcālaraṭṭhasmiṃ antare so sabbaṃ attano balena paribbajeyya?
Evaṃ hoti.
Kacci nu sotthi siyā?
Kiṃ nāma, sotthi yeva. Sopi hi idaṃ paṭhamaṃ paribbājaṃ na bhavissati nā.
Evaṃ etaṃ._
ラッタディンナの言葉に、アーロカは安堵した表情を見せたものの、心の奥では、やはり不安を消すことができなかった。
アーロカは祭壇の炎を見つめて合掌し、眼を閉じると祈りを捧げた。
“Maggasmiṃ Kei rakkhā hotu, sabba-dukkhā pamuccantu.
Sukhena gacchāma, sabbe devatā rakkhantu Kei.”
”この道中、慧に護りあれ
あらゆる災いが離れますように
無事に進めますように
すべての諸神よ、慧を守りたまえ”




