【G・W企画 笑って泣いて7日連続投稿】 第1章 ギルド会議と別の会議(前編) ーマドラ国シャーカラー
マドラ国、最重要都市シャーカラ。
城門の混雑で街中へ進む流れが滞り、隊員たちは苛立ちを隠せなかった。
アスニー川の渡し場で、6日間の足止めを余儀なくされ、ようやく満月の次の日にこのシャーカラに到着したのである。
アスニー川上流、ヒマラヤ山脈の麓に近い
Uttarāpatha地方では、雪解けを促す温かい雨が降った。
その一帯は、騎馬の民カンボージャ族の勢力圏でもある。
川が増水し、渡渉できる高さを超えたため、水が引くまで足止めを余儀なくされた。
多くの隊員は渡渉場に隣接した宿駅で過ごし、牛飼いと使役の人夫、それに傭兵部隊は河原近くの草地に天幕を張って野営した。
―パチッ!パチッ―
焚き火の火がはじけ、火にかけている鍋の湯気が上がっている。
朝飯の雑穀雑炊が、鍋の中からいい香りを放っていた。
Ehi, iṇaṃ pubbe labhituṃ sakkhi nu?
Na sakkā, bho; tena ākārena na hi.
宿泊組と野営組に分散して出費を抑えたとは言え、それなりに支出はかさむ。
当然ながら、経理官はピリピリしていた。
隊員たちが、「おはようございます」と挨拶をしても、プリプリしながら「おはよ」と吐き捨てるように答える。そんなふうだから、いつもなら隊員たちが報酬の前借りを頼みに来るのだが、ここ数日のあいだ彼の周囲にはだれも寄り付こうとはしなかった。
シャーカラの街に入ったジャティラ隊商は、荷物を警護付き貸し倉庫に保管し、使役家畜の牛やラクダ、馬を牧草地へ入れて休ませた。
ジャティラ隊長と副隊長、経理、外交官などの主要メンバーは、大きな宿に泊まり、他の隊員たちは中規模から小さな民家へ分宿となった。
ジャティラ隊長は、モッガラーナ副隊長、カルダッタ副隊長、護衛隊長、そして苛立ちを隠さぬ経理官を伴って、このシャーカラの中心部にあるスーラセナ国商業ギルドの支部会館を訪れた。
爽やかなジャスミンの花の香りが広がる前庭に入る門をくぐると、建物の方から事務官が迎えに出てきた。
Seṭṭhi Vāsudeva
一行はその案内で支部長の部屋へ進んだ。
部屋には大きな楕円の座卓があり、床にはカンボージャ産の分厚い絨毯が敷いてあった。
ジャティラは副隊長二人、護衛隊長、経理官とともに楕円卓の右側に着き、スーラセナ国商業ギルドのヴァースデーヴァ支部長は左側に腰を下ろした。
ジャティラ隊長;
Kamboje hi mano passīdati,,,
ヴァースデーヴァ支部長;
Tumhākaṃ ruciṃ labhitvā amhe tuṭṭhā
Kacci pana yātrā sukhena pavattati?
ジャティラ隊長;
Devānaṃ anuggahena, yātrā yebhuyyena sukhena pavattati
ヴァースデーヴァ支部長;
Sādhu, taṃ sundaraṃ
高窓から差し込む朝の光が、楕円のの縁と支部長の指輪だけを鈍く照らしていた。
Tena hi, ārabhāma
経理官;
Tena hi, mayā paṭhamaṃ
経理官は、羊皮のカバンから帳簿を取り出した。
Idaṃ imissā āṇattiyā vatthūnaṃ pariggaṇhanaṃ
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ひとしきり商談とフンディー決済を終え、経理官が納品場所の最終確認を行った。
Tena hi sve pāto sūriyuggamanato paṭṭhāya paṭipādanakammaṃ ārabhissāma.
経理官は、ジャティラの方を向いて軽く頷いた。
それを受けてジャティラ隊長が質問した。
Campālāya gatiṃ jānituṃ icchāmi
ヴァースデーヴァ支部長;
Āma, cintanīyaṭṭhānaṃ etaṃ. Campālāya Rājaputto Khattiyo Vīraseno nāma puriso calanaṃ dasseti
ジャティラ隊長;
Bho, katthāyaṃ disaṃ hoti?
ヴァースデーヴァ支部長;
Sūlaseṇaraṭṭhassa Mathurāto Vatsa-raṭṭhassa Verañjā-gāmaṃ, Vansa-Kosala-raṭṭhānaṃ sīmāya Gaṅgā-nadītīre ativiya appamādo kātabbo
サルディーニャ護衛隊長;
Sahāyasenāya upakāraṃ labhituṃ sakkā nu kho?
ヴァースデーヴァ支部長;
Sūlaseṇa-raṭṭhe ṭhatvā sakkā; Vansaṃ pana pavisitvā attanāva nikkhamitabbaṃ hoti
サルディーニャ護衛隊長;
Tena hi Vatsaraṭṭhassa passe eva bhayaṃ; sīmaṃ atikkamitvā pana tato paṭṭhāya padhānaṃ bhavissati, iti?
ジャティラ隊長;
Tena hi, Mathurā-upacārato Vansa-sīmāya yāva taṃ kātuṃ sakkissatha nu kho?
ヴァースデーヴァ支部長;
Sādhu, evaṃ karissāma. Kittaka-pamāṇā senā icchitabbā bhavissati?
サルディーニャ護衛隊長;
Paccatthikānaṃ kittakā janā honti?
ヴァースデーヴァ支部長;
Saṅkhepato tīṇi catāni janā
ジャティラの目が、鋭く光った。
【脚注】
◯マドラ国、最重要都市シャーカラ
現在のパキスタン国シアルコート・Sialkot
◯hundi
為替
◯アスニー川の渡し場
現在のチェナーブ川、Gujrat付近
◯マドラ国とスーラセナ国は同じか?
マドラ国(Madra)とスーラセナ国(Sūrasena)は同一ではない。
両者は別個の国・民族・地理圏であるが、交易ネットワーク
Madra ↔ Sūrasena が商業的に密接な関係、つまり「文化的連続性」によって同一国のように見られる傾向にある。




