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不老不死にはわからない  作者: ある
悪しき彼女の景色

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見せ方

「……と、まぁ。こんな感じで、魔法は僕の呼びかけに答えてくれたんだ」


 男は照れくさそうに頭をかきながら言った。


「正直、僕自身もどう風が起こるかなんて分からなかった。もっと格好よく決まる予定だったんだけどね」


「いや最初めちゃくちゃ失敗してたじゃん!」


「煙だったー!」


「なんか黒かった!」


 子供たちが遠慮なく笑う。男もまた、困ったように笑った。けれど、先ほどの無様に叫んでいた男とは、どこか違って見えた。柔らかい、まるで、今の風そのものが人の形をしているみたいに。


「でもね。きっと、みんなも出会える」


 子供たちを見る。一人一人へ向けるように。


「違う形だったとしても。それは、魔法が“みんなとどう在りたいか”っていう願いでもあるから」


 子供たちは静かに聞いていた。完全には理解できていないだろう。それでも、何かは届いている。そう、信じて。


「あー……なんかわかるかも」


「私の火、怒ると大きくなるし」


「俺の土魔法、眠いと全然動かねぇ」


 ぽつぽつと、納得するような声が漏れ始める。


 存在は、その様子を静かに見つめていた。やがて、男の隣へ歩み寄る。


「……どうだったかな」


 男が小声で尋ねる。存在は、じっと彼を見る。


「見るに堪えないほど不格好だったわ」


「うっ」


「だけど――」


 ほんの僅かに、口元が緩む。


「上出来よ」


 男は目を丸くした。存在はそのまま、子供たちへ視線を向ける。


「……そんな君に倣って、私もやってみようかしら」


「え?」


「“世界の見せ方”ってやつを」


 子供たちがざわめく。


「見たい!」


「すごいの出そう!」


 存在は、あの眠たげな少女を見る。少女は泡を胸元へ抱えながら、不安と期待の混じった目をしていた。

 存在は静かに人差し指を立てる。すると、空気中の魔力が、すっと引き寄せられ始めた。男のときとは違う、呼びかけに応じた――そんな曖昧なものではない。魔力そのものが、自ら存在へ近寄ってくる。助けたいとでも言うように、寄り添うように。


 子供たちが息を呑む。


「……きれい」


 淡い光が、存在の指先へ収束する。


 ぽんっ。


 小さな泡が生まれた。ただ、それだけ。なのに、存在は、ほんの僅かに目を細める。泡もまた、応えるようにふるりと揺れた。まるで、二つが会話しているみたいに。


(……なんて馬鹿らしい)


 魔法へ感情を込める。そんな曖昧で、不確かな行為。普段の自分なら切り捨てている。


(これは、この場の流れのせい)


 男が、あんなにも無様に感情を曝け出した。愚かだった、滑稽だった。それなのに、先ほどの風は、温かかった。だからこれは、ただの実験。


 想像を超える? 世界が応える? そんな子供じみた期待など、自分にはない。


 ただ、男の行動を無下にはしたくなかった。寄り添うと決めた、妻として。


(……ほんとうに愚か)


 それなのに。どうして、私は、こんなにも温かいのだろう。


 存在は泡を見る。泡の表面には、小さく男の姿が映っていた。それを見て、自然と言葉が浮かぶ。感情のまま呼びかけるなら。きっと、こうだ。存在は、そっと口を開いた。


「――遊びなさい」


 その声は、柔らかかった。願いのように。子供とは、騒がしく動き回るもの。落ち着きがなく、うるさく、予測できない。だからこそ、自由に遊び回る存在。そんな感覚が、そのまま言葉になった。


 次の瞬間。泡が、ふわりと子供たちへ漂っていく。そして、ぱちん、と弾けた。――否。弾けた“はず”だった。


「……え?」


 子供たちの目が見開かれる。泡は消えなかった。飛び散った泡の粒が、形を変えていく。花になる、草になる、木になる。小鳥のような生き物が羽ばたく、角の生えた獣が草原を跳ねる。空想の生き物たちが、泡から次々と生まれていった。


「うわぁぁぁぁ!?」


「すっご!!」


「動いてる!!」


 子供たちは歓声をあげる。


 少女は、その場で立ち尽くしていた。大きく見開かれた瞳。静かだったその目の奥で、光が弾ける。


「……すごい」


 震える声。少女は恐る恐る、泡から生まれた小さな獣へ触れる。ふに、と柔らかい。


「消えない……」


 つつく、揺れる、だが壊れない。獣はまるで意思があるように、少女の指へ頬を擦り寄せた。


「ぁ……」


 少女の顔が、ぱっと花開く。


「すっごぉぉぉい!!」


 満面の笑みだった。


 泡の生き物たちを追いかける。周囲の子供たちも混ざり、草原は一瞬で遊び場へ変わっていく。笑い声、歓声、駆け回る足音。


 存在は、その光景を静かに見つめていた。胸の奥に、奇妙な感覚があった。満たされるような、温かいような、それが何なのか、まだ分からない。


 少し離れた場所では。学園長が、その様子を眺めていた。白い髭を撫でながら、小さく呟く。


「……なるほどのぉ」

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