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不老不死にはわからない  作者: ある
第二章 誰かになる、そのまえに 「魔法訓練」

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殴るわよ

 夜が更けていた。

 窓の外には虫の声が微かに響き、部屋の中には、今日一日の熱がまだほのかに残っている。

 男は椅子に座り、存在はベッドの縁に腰掛けて、二人で静かに今日の出来事を振り返っていた。


「面白いわね。人間の魔力って」


 存在がふと呟く。


「兄弟、どちらも“風”の資質があった。それなのに、表れ方が全然違う。弟さんは怒りで魔力が膨れ上がった。でも君は、違った」


「僕は……君の声があったから」


 男はそう言って、ゆっくりと天井を見上げる。


「信じられたんだ。自分にも風があるって。それは……形じゃなくて、関係で生まれた魔法だったと思う」


 存在は微笑んだ。


「かもね。人間って、そういう理解ができないことをしでかすのが、いいところね。予測不能で、不安定で、でも……面白い」


 しばらくの沈黙のあと、男が毛布を取り出し、床に寝ようと立ち上がったところで、存在が肩越しに声をかけた。


「ちょっと。何やってるの?」


 男は一瞬固まる。


「……床、僕の定位置だろ?」


「何言ってるの。もう夫婦なんだから、一緒に寝るものでしょ?」


 当然のように言うその言葉に、男はしばらく目をぱちぱちさせたあと、こくりと頷いた。


「……いいの?」


「ええ」


 男は恐る恐るベッドに横になり、存在の隣に身を沈める。彼女は背を向けたまま、静かに呼吸していた。

 数秒の沈黙が流れたのち、存在がぽつりと呟いた。


「……式のときの、花冠。あれ、心地よかったわ」


「……うん」


「今は、頭が空いてるわね」


 その言葉に、不器用なりにねだるような言い回しに、男は察した。微笑し手を伸ばす。そして、彼女の柔らかな髪を、指先でやさしく撫でた。


「……わるくないわね」


 しばらく撫でていると、存在が少しだけ肩を揺らした。


「……寝てるときに、変なことしたら……殴るわよ」


 いつもの調子で言ったその言葉に、男はふっと笑った。


 以前なら、「殺すわ」だったはずだ。そんな物騒な彼女が、今は「殴るわ」と言っている。

 それだけで、十分だった。関係は、静かに、でも確かに、進んでいた。


「……おやすみ」


 男はそう呟いて、目を閉じる。

 窓の外から流れ込む風は穏やかで、今夜は少しだけ、あたたかかった。

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