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不老不死にはわからない  作者: ある
第二章 誰かになる、そのまえに 「魔法訓練」

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せんせい

 弟は呆然としていた。


 ただ立ち尽くし、兄と存在を交互に見つめる。

 草原を包んでいた熱はすでに消え、ただ静かな風が吹いている。焦げた草の香りも、もうない。


「……すげぇ、な……」


 ぼそりと漏れた弟の声に、男が振り返る。


「ええっと、僕……今、魔法使ったか?」


 どこか間抜けな声で言って、自分の手のひらを見つめている。


「使ってた。ちゃんと、綺麗な風だったわ」


 存在が肩をすくめながら、くすっと笑った。


「風があるって、言ったでしょ?」


 男は照れたように頬をかきながら、弟をちらりと見た。

 すると、弟がぐっと前に出て、兄貴の胸を指で突きながら叫ぶ。


「兄貴、かっけーじゃんか! てか、ずりぃよ、あんなときに風、出すとか……! ずるいだろ、ほんと……!」


 その目は悔しさ混じりながらも、確かに光っていた。

 そして視線を存在に移す。


「それに……姉ちゃん、やっぱヤバいって。あんなの、俺でもどうにもなんねぇのに……さらっと、いなして……」


 震える手をじっと見ながら、唇を噛んだ。


「なのに……俺の暴発、止めてくれて、町も、家族も……ありがとう」


 その素直な礼に、存在は優しく微笑んだ。


「ううん、大丈夫。あなたの魔力……とてもすごかった。あれほどの複合魔法を、この年齢で暴発させられるなんて、普通はないことだと思う」


「……でも、制御はできなかった」


 弟は下を向いた。

 存在は、草のひとひらを拾いながら、続ける。


「魔力って、感情だけで動かすと、壊れてしまうの。大切なのは――調和よ」


 彼女は指先で草を撫でる。その動きすら、風のように柔らかい。


「自然と同じ。ただ強くなるんじゃなくて、流れを感じて、寄り添って、自分の力として迎え入れるの。

そうして、初めて“意志を持った力”になるのよ。それは、自分勝手な力じゃなくて。世界に届く力になるわ」


 弟はその言葉に、息を呑んだ。

 そして――


「……っしゃあ!」


 突然、叫んだかと思うと、地面に片膝をつき、存在に手を突き出して言い放った。


「せんせいっ! 俺、今日から弟子になるから! よろしくなっ!」


 男が目を剥いた。


「はやっ!」


 存在は唖然とし、それから堪えきれずに吹き出す。


「ふふ……いいの? 勝手に決めちゃって」


「だって、教えてもらわなきゃ、また暴走するかもしんねぇし? それに、強いし、優しいし、綺麗だし……」


「最後の余計!」


 男がすかさずツッコミを入れる。

 存在はくすくす笑いながら、男の方へ目を向けた。


「でも……この子、素直でいいわね。良いところ、君が吸われたんじゃない?」


「は?」


 と返した男の表情に、再び笑いが起こる。


 草原に、風が吹く。

 先ほどまでの熱はもうない。

 ただ、温かい空気が、彼らの間に、ふわりと流れていた。

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