番外編「恋?」
「ユイトー、あたしがアンタの背中を流しに来たわよー」
レベッカがお風呂場の扉を開け、入浴中の俺に声をかける。
脱衣所の時点で気づいていたから、裸にバスタオルを巻いた姿のレベッカを見ても動じないように装う事ができる。内心は動揺してる。
「なんだ、また来たのかレベッカ」
「いいじゃない。あたし達付き合ってるんだし」
俺より先にお風呂に入って身体は洗っただろうけど、レベッカがかけ湯して湯船に入る。
そして、俺の身体に背中を預けてもたれかかった。
「背中流すんじゃなかったのか? なんで湯船に入るんだよ」
「いいじゃない。あたし達付き合ってるんだし」
「答えになってないぞ」
そう言いながら、俺はレベッカの身体に触れる。
「んっ……。もう手を出してくるの?」
「いいじゃないか。俺達付き合ってるんだし。あんな事もしたんだから」
「そりゃそうだけど……、そうがっつかないでよ。どれだけあたしの事が好きなの?」
「これくらい、かな」
俺は、レベッカの首筋にキスをした。
レベッカは俺の愛撫を受け入れるかのように、手を重ねてくる。
愛と欲望に満ちた手が、お互いの身体を求め合う。
熱の籠もった愛し合う時間。
浴室の中が、湯気と熱気で曇る中、
俺はお湯の中で幸せに包まれていた。
「ねえ、ユイト」
レベッカが、俺に振り返ってキスをする。
「今夜は、あたしをバインドして好きにして♡」
………
……
…
「……あー、またかー……」
熱っぽさと下半身の窮屈さと喉の渇きを覚えながら、俺は身体を起こす。
ここ最近こんな夢ばかりだ。
気持ちを鎮め、足音を立てないように階段を降り、台所で水を飲む。まあレベッカは一度寝たら朝までグッスリだから起きないだろうが。
ていうか、今レベッカの顔を見たらどんな顔をしていいか分からない。
「抱かせてくれ」とか口走ってしまうかもしれない。
水を飲み干して、ひと息吐く。
どうやら認めざるをえないようだ。
俺はレベッカに惹かれてるらしいという事に。
****************************
――俺はコイツの事を好きになるのかもしれない。
それに気づいてしまったのはいつだっただろう。
初めてああいう夢を見た時だろうか、二度目にああいう夢を見た時だろうか。
それとも、あの雨の日に告白された時だったのだろうか。
「ん? あたしの顔見てどうしたの?」
「……いや、夕飯は何がいいかと思ってな」
「そうねえ……何かあっさりしたものがいいわ」
「あっさりしたものだな。分かった」
朝飯を済ませて茶を啜りながら新聞を読むレベッカの横顔をチラッと見る。
ズボラでガサツだが、コイツって美人なんだよな……
美人は3日で飽きるとか何とか言うが、コイツはいつまでも飽きない気がする。
スタイルもいいし、バインドをかけた時うっかり手を出してしまいそうになる自分を抑えるのに毎回必死だ。
小さく息を吐いて、食器を洗いに向かう。
見た目だけじゃない。
レベッカといるとなんとなく楽しいし、多分相性いい気がする。
色々振り回されたり尻に敷かれたりするだろうが、しょうがねえなあと思いながらも一緒に人生を歩いて行ける気がする。
歯を磨き、食休みを少し取った後身支度を調え何事もないかのように家を出ようとする。
けれども居間に陣取って歯を磨いていたレベッカにめざとく気づかれた。
「あら? どっか出かけるの?」
「ああ、ちょっとギルドにな」
「あたしも行くわ」
「……」
立ち上がって洗面所で口をゆすいだ後、隣についてきたレベッカに、閉口する。
ちょっと落ち着きたいから距離取りたいのに……
しっぽを振っているゴンの顎を撫でてから、玄関に鍵をかけ冒険者ギルドに向けて歩き出す。
「最近冒険者ギルド行ってなかったのに珍しいわね? クエストでも受けるの?」
「いや、ちょっと顔を出しに行くだけだ」
「フーン。ま、いいけど」
何が楽しいのか、鼻歌を歌いながらレベッカが俺の隣を歩く。
紅い髪の三つ編みの整った横顔を見ながら、ため息を吐く。
美人のコイツと冴えない俺じゃ釣り合ってない。
それくらい、自分でも分かっている。
なのにレベッカが俺の腕に腕を絡みつけてくる。
「せっかくだからあたしとクエスト受けましょうよ。キメラ退治なんてどう?」
「それ絶対俺がキメラに追いかけ回される羽目になるだろ。絶対イヤだ」
「いいじゃないのよー。最近あたしとクエスト受けてないんだし、いっしょに受けましょうよー」
「絶対イヤだ」
多分この後コイツにごり押しされて面倒なクエスト受ける羽目になるんだろうな。
そんでもってまた振り回されて……
自分の未来が見えてしまいゲンナリした気持ちになる。
それもいいかもしれないと思うのは……コイツの事が好きだからだろうか。
み、認めたくねえ!
まだコイツの事を好きになった訳じゃないんだからな!
「あたしで童貞捨てたくせに」
「……」
レベッカに耳元でささやかれ、気まずい気分になる。
いやアレは捨てたというか捨てさせられたというか、
2人ともレベッカママにハメられたから「ノーカウントで」って言い出したのはお前だったじゃねえか……。
腕に当たる感触が居心地悪い。
その、俺としてはあの時責任を取るのもやぶさかではなかったというか、
割と本気で結婚も考えたというか……
ええい! なんであの時「ノーカウントで」とか言い出したんだよ!!!
俺はレベッカの腕を振りほどき、走り始めた。
「あっ! コラッ! 待ちなさい!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!」
「待ちなさいったら待ちなさい! 待~て~!!!」
追いかけてくるレベッカから走って逃げる。
胸がドキドキしてるのは気のせいだ。もしくは走っているからだ。
コイツの事を好きになりかけてるからじゃ、ないんだからな!!!




