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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
番外編

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206/210

番外編「男の休日」

「ん、んんー……」


 いつも通りの朝。

顔を洗い、服を着替え軽く外を走ってから帰ってくる。

今日はセイラもレベッカもいないから静かなもんだ。1人分の飯を作り、食べ、新聞を読む。


「さて、今日はどうするか」


 特に何かする事はない。

冒険者ギルドに顔を出そうっていう気分でもない。最近はあまり行ってないし。

クリスが「たまには来てよ!」と言ってくるけど、もう半分引退してるようなもんだし。


「まあ、街でもブラつくか」


 そう思い玄関に鍵をかけて街へと向かいかけ……


「たまには、普段行かない所に行ってみるか」


俺は、踵を返して普段と反対方向に行く事にした。




****************************




「迷った」


 気の向くまま歩いていたら、どうやら隣町に来てしまったらしいが道に迷ったらしい。

さっきから風景が変わらない。

レイフォード領は5つの街と村があるが、隣町に来たのは初めてだ。もうこっちで10年以上暮らしているのに。


「参ったな……。誰かに道を聞くか?」


 そう思いながら歩いていると、街の中心部らしき所に来た。

ポツリポツリと店が建ち並んでいる。

せっかくだからあちこち軒先を覗く事にした。


「おっ、このコーヒーミル、リリーが欲しがりそうな奴だな」

「このリボン、アスミちゃんに似合いそうだな」

「このシュシュ、レベッカに似合いそうだな。アイツ最近はずっと三つ編みだし」

「この靴、クリスがいたら買って買って光線出されそうだな……」

「この肉の塊、煮込んだらうまそうだな。セイラがいたら1人で食い尽くされそうだが」


 品物を見ながら、ついアイツらの顔が浮かぶ。

この1年で俺の人生も随分変わっちまったもんだ。

リボンとシュシュを手に取って、お買い上げする。


 アスミちゃんのリボンは大分古いものだし、レベッカはまあ、アスミちゃんの物だけ買うのもアレだからついでに買った。

そして2人にだけ買うのもアレだから、コーヒーミルと肉の塊と靴も買った。


「……ハア」


 自分が誰が好きか。

魔王の奴との戦いでアイツらの事をどう思ってるか問われ改めて考えてみると、アスミちゃんは一緒にいてドキドキする相手だし、セイラはよくよく考えると異性として見てしまう存在だし、レベッカの奴は告白もされたし気になる相手だ。

魔法の城に行ってからずっと意識しているリリーの奴が最近グイグイ来るし、エリア様は憧れの存在としてずっと心の中にいる。まあ、高嶺の花の存在すぎて縁はないだろうが。


「……ハア」


 正直、考えれば考えるほど戸惑っている。

そもそも俺なんかが恋をしていいのだろうか。

人を好きになっていいのだろうか。

好きの次は付き合う、付き合うの次は結婚という事になるだろうが、自分が誰かと付き合ったり、結婚したりなんてできるのか。

正直まったく自信がない。

その堂々巡りで悩んでいる最中だ。


「……まあ、考えても仕方ねえか」


気持ちを切り替えて自分の買い物をしようと考えてると……見覚えのある銀髪が見えた。


「エレナ、何食べる?」

「そうね……。パスタか何かにしようかしら」


 職場の同僚だろうか、同じ制服を着た女といっしょに彼女が歩いていた。

長かった髪は短くなっていたけれど、その横顔は変わっていない。

あの頃の、彼女のままだ。

それに遠くからでも、あの香りがした。


「……」


 気づかれないように、そっと物陰に身を隠す。

そしてそのまま、反対方向へと歩き出した。


「……元気そうでなによりだ」


 思ったよりも落ち着いている自分に驚く。

彼女の事はすっかり忘れていたし、あの日以来考えた事もなかった。

前はあんなに恋い焦がれていたというのに、

本気で結婚したいと思っていた相手なのにウソみたいだ。

自分の恋がとっくの昔に終わっていた事を、今更ながらに自覚する。


「……帰るか」


 俺と彼女の人生は、もう交わらない。

それでいい。幸せになってくれればいいと思うだけだ。

セイラやレベッカからは甘いと叱られそうだが、彼女の存在に俺の人生は救われてきた時期があったのだから。


「……帰るか」


 俺は自分の街へと足を進めた。




****************************




「あっ! 帰って来たわよ!」

「もう、遅いですよユイトさん」

「まったくだ、いったいどこをほっつき歩いていたのだ」

「ちょっと街まで……って、なんだこりゃ?」


 夕方家に戻ると、レベッカとアスミちゃんとセイラの3人が待っていた。

居間の卓袱台にはご馳走やらケーキやらが用意されている。


「何って、アンタの誕生祝いよ」

「誕生祝い? 俺の誕生日は2月だぞ?」

「私が攫われたり魔王退治やなんやでドタバタして貴様の誕生日に何もできていなかったからな。今日やってしまおうという訳だ」

「んな乱暴な……」

「まあいいじゃないですか。わたしも腕によりをかけたんですよ」


 アスミちゃんが華奢な腕で力こぶをつくる。

そんなアスミちゃんの姿に苦笑した後、買ってきたリボンを手渡す。


「アスミちゃん、これ買ってきたんだ。よかったらつけてよ」

「え? リボンですか! いいんですか!」

「アスミちゃんには色々世話になってるしさ。そのリボンも大分古くなってるだろ?」

「ありがとうございます! 早速つけますね!」


 アスミちゃんが洗面所に向かい、いそいそとリボンをつけ始める。

レベッカが、俺の横腹を肘で小突いた。


「ちょっと、あたしにはないの?」

「お前にもあるぞ。ほら、シュシュ」

「あら? まさかあるとはね。ありがと。前にやった髪型のあたしが、見たいのかしら? あたしがどんな髪型でも似合う美人だから?」

「……まあ、そんな所だ」

「じゃ、変えてくるわね♪」


 紅の髪の三つ編みを解きながら、レベッカがウキウキと洗面所に向かう。

俺は何か言いたげな顔でこちらを見ているセイラに肉の塊を差し出した。


「セイラにはこれだ。ほれ、肉の塊」

「なぜ私だけ肉の塊なのだ」

「ウマそうだったし喜ぶかなって。今日の夜から煮込んでおくから明日の晩にでも食べに来いよ」

「食べに来る。食べに来るが……なんか複雑だ。貴様にとって私は食欲の女なのか?」


 そうだよと答えたいが、ブン殴られそうなので黙って肉の塊を冷蔵魔道具に入れに行く。


「ホラホラ、髪型変えてきたわよ。どうかしら?」

「あ! ズルいですレベッカさん! わたしのリボンの感想の方が先ですよ!」

「……やはり複雑だ。なんか複雑だ。複雑だが……肉の塊はウマそうだな」


 アスミちゃんとレベッカに感想を求められ、何か言いたげなセイラに服を引っ張られながら俺は思う。

俺の人生も、存外悪くねえのかもなって。

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