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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
番外編

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204/210

番外編「道具屋のひとりごと」

「ムジカ、ナイフの手入れ、お願い」


 この街では古参に入る冒険者、アサシンのバロンが大振りのナイフを手渡してくる。

大柄なバロンじゃないと使いこなせない、大きめのナイフだ。

しかしそのナイフを見てみると……


「最近、使ってねえな」

「最近、新人の教育、してる。バロンの出番、あまりない」


 前の前の領主様の元では行われていた、ベテラン冒険者に金を払って新人冒険者に教育させる制度が、セイラの嬢ちゃんの手により復活したのはつい最近の事だ。


「この街が、魔王を倒した冒険者が出たって事で有名になっちまったからな」

「冒険者、増えた。でも、みんな新人。バロン達、教育、大変」


 大変と言いながらも、バロンが表情ひとつ変えず答える。

意外と面倒見がいい方だし、何人も受け持っているんだろう。


「この街も前みたいになるといいな、バロン」

「バロンも、そう思う」


 前の前の領主様の元では、冒険者達が厚遇され活気があった。

それをあのピッチリ横分けメガネ小僧が色々税金を上げたりして、冒険者も減り街の活気もなくなった。

けれども街を守る冒険者の重要性と、色々分かってるセイラの嬢ちゃんのおかげで大きく変わり始めてる。


「おかげでこっちも仕事だらけだぜ。まったく」

「何言ってんですか親方ー、こっちに押しつけてるだけじゃないですか」


 弟子の1人が不満の声を上げるが、無視だ。

新人冒険者の武器や防具や道具の依頼でこっちは毎日忙しい。

もちろん使い方が乱雑な奴や手入れがなってない奴は叱る。

そうやって冒険者を育ててきたからだ。


「それじゃナイフ預からせてもらうぜ。3日後くらいになるがいいか?」

「バロン、了解」


 それだけ言い残して、バロンが去って行く。


「相変わらず、変わった奴だな……」


 俺は誰に聞かせるでもないひとりごとを、ひとりごちた。




****************************




「こんにちはー、おじさま。あたしが来たわよー」

「レベッカちゃんじゃないか。胸が大きくなってキツくなったから防具を直しに来たのかい? どれ、おじさんが採寸してしんぜよう」

「言っとくけどそれセクハラよ、おじさま」


 オレのお気に入りの娘の1人、レベッカちゃんが顔を顰めながら店にやって来た。

鼻がいい嬢ちゃんには、俺の酒の匂いはキツイらしい。

それでも俺の腕を信頼しているらしく、防具を作らせてくれた。その時も顔を顰めてたが。


「今日は道具を見繕いに来たの。……おじさま、アレ、ある?」

「アレか……。まあ、あるけどよ」


 道具屋ムジカは冒険者の道具を扱う店。

しかし裏の道具も取り扱っている。

大人の夜のたしなみの道具だ。ちゃんと営業許可は取っているが、堂々と出せるもんじゃないので引き出しにしまっている。

店に来た奴は「アレ」と言えば出すようにしている。大人の魔道具をしょっちゅう買いに来るセイラの嬢ちゃんから教えてもらったんだろうが、まさかレベッカちゃんに彼氏ができたなんて事は……


「ユイトに一服盛って色仕掛けで落としたいの。媚薬とかないかしら」

「んなモンねえよ」


 なんて物騒な事考えてる嬢ちゃんなんだ。

嬢ちゃんは「じゃ、いいわ」と言ってさっさと帰っていった。

媚薬なんか使わなくても、あの嬢ちゃんに夜這いをかけられたらほとんどの男は落ちちまうだろうに。


「ユイトの奴め、うらやましい……」


 俺は誰に聞かせるでもないひとりごとを、ひとりごちた。




****************************




「よーうムジカ。やってるか?」

「あ? 店ならもう閉めるところ……」

「ならちょうどよかった。いい酒とつまみが手に入ったんだ。一緒に飲もうぜ」


 冒険者のカイルとマシューが、酒瓶と何やらつまみを手にやってきた。


「いいモン持って来たじゃねえか。オイ! 店は閉めるぞ! のれん下げてこい!」

「へーい」


 弟子の1人が、やれやれまたかという感じで店じまいに向かい出す。

その間にカイルとマシューが、小上がりに卓袱台と座布団を出し皿とグラスを並べた。

そして小さな杯に、酒を注いだ。


「「ジンジャーに」」

「……ジンジャーに」


 この店でよく飲みに来てたジンジャーに向けて、献杯する。

冒険者ジンジャーは知る人ぞ知るあまり知られていない存在だったが、不肖の一番弟子のおかげで今じゃ有名人だ。きっとこれから、伝説の存在として語り継がれるだろう。

 カイルとマシューと3人で、さっそく1杯飲み干す。


「いい酒じゃねえか。どこのだ?」

「北の酒だよ。王都に行った時に買ってきたんだ」

「また王都に行ったのか、随分羽振りがいいな」

「へへ、まあな」


 魔王退治に貢献したこの街の冒険者達には、特別報奨金が出された。

おかげで随分羽振りのいい連中が増えたらしい。まあ、バカスカ使ってるバカは、このカイルとマシューくらいなもんだが。


「そういや知ってるか? ノッシュの旦那が、冒険者やめるって」

「ああ聞いたぜ。これからは冒険者の訓練係と、警備の仕事をやるってな」

「旦那の所は2人子供がいるからな。まあ仕方ねえな」


 実力と実績があるノッシュとはいえ、命の危険がある冒険者を続けるのは不安だったのだろう。この前これまでの礼を言いに来た。律儀な奴だ。


「まあ、そうやって引退できるのもこの街の冒険者が育ってきたからだろうがな」

「そうは言ってもノッシュの旦那が抜けるのは痛いぜ。頼りになる戦士なんだからよ」

「ゲイルの奴がいるじゃねえか」

「アイツはダメだ。彼女ができて腑抜けてやがるしな」


 先を越されたのが悔しいのか、カイルの奴がゲイルを貶す。

そんな事言いながらも、頼りにしてる癖に素直じゃねえ奴。


「まあ、冒険者が入れ替わっていくのは世の常だ。これからはお前達が引っ張っていくこったな」

「うへえ、面倒はゴメンだぜ」

「それでもちゃんとやれ。そうやって冒険者の魂は、受け継がれるんだからよ」

「ジンジャーみてえな事言うな、ムジカ」

「そういやジンジャーも、ここでよく飲んでたっけな」

「そうだな、それで酔ったらよく言ってた口癖が……」


 カイル・マシューと、口を揃えてジンジャーの口癖を言う。


「「「『一度きりの人生なんだから、思い切り楽しめ、冒険者の心得だぜ?』」」」


 ジンジャーの飲み仲間でもあったカイルとマシューと、ジンジャーみたいな笑い声を上げる。

それから新しい冒険者で可愛いのは誰か、ユイトの奴が誰とくっつくと思うかなどの話を肴に酒を飲んだ。


「つまみが足んなくなったな。ムジカ、何かねえか?」

「台所になんかあんだろ。好きに使ってくれや」

「よーし、それじゃ何か作るか」

「俺も、水……」

「何だカイル、もう酔ったのかだらしねえな」


 ピンピンしてるマシューと、ちょっと飲み過ぎたらしいカイルが台所へ消えていく。

その後ろ姿を見ながら、俺はコップに残った酒を飲み干した。


「なあ、ジンジャー」


 俺はジンジャーにあげた小さな杯に乾杯する。


「お前が残したモンは、しっかり受け継がれてるみたいだぞ」


 俺は誰に聞かせるでもないひとりごとを、ひとりごちた。

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