番外編「第三王女の付き人」
「クロカゲ様! 大変です! ミソラ様がまた城から抜け出されました!」
「ハア……またか」
衛兵からの報告に、俺は読んでいた本から顔を上げる。
前は精々週に1度ほどだったというのに、この所は毎日だ。
『悪い人がいないかパトロールです!』とか『市井を知るのも王族の務めです!』などと言っているが、ただ単に自由を謳歌したいだけだろう。
「すぐに捜索部隊を……!」
「いや、俺が行く。すぐ捕まえて戻ってくるからジーナ様達にバレないようごまかしてくれ」
「は、ハッ!」
まあどうせバレてジーナ様に一言言われるだろうがこれも付き人の役割の内だ。ああいう人が1人いないと困る。当のミソラは、ジーナ様の事を毛嫌いしているが……
「やれやれ、だ」
俺は影に潜り込み、ミソラにつけている魔法の目印を辿った。
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「捕まえたぞミソラ様。今夜はお仕置きだから覚悟しろ」
「お仕置きは勘弁して下さいクロカゲさん! いいじゃないですか! 私だってたまには自由を謳歌したいんです!」
「毎日抜け出してるのに何を言っているんですか」
チュロス屋の前でチュロスをかじっているミソラ様の首根っこを押さえ、俺はため息を吐く。
今日は財布を持ってきていたか。お仕置きは軽めどまりだな。
「しかし月3000マニーしかやってないのになぜ小遣いが足りてるんだ」
「リオン兄様とエリア姉様から頂いてるからです! 特にエリア姉様はよく下さります!」
「あの御方はホントに……」
腹違いの王女ゆえ、他の王子王女とギクシャクしていたのを気にかけていてくれたのはありがたいが、ただ単にミソラに甘いだけのような気がする。
リオン様はまだ節度を持ってくれていそうだが、エリア様は際限なくミソラを甘やかしそうなので勘弁して欲しい。
まあ甘やかしたい気持ちも分かる。この子はカワイイから。
「ハア……」
つい最近16歳になったこの子と結婚できるまであと2年。
前世での熱く甘やかな記憶が蘇りため息が出てしまう。
早く大人になってくれないだろうか。
成人するまで手を出さないと国王陛下と王妃様に約束させられただけに、守らなければならないがキスすらできないというのは生殺しだ。抱きしめるのは許されているが。
『生まれ変わっても、またいっしょになりましょうね』
その約束を守り、こちらの世界で女性達から多く好意を寄せられたが恋人は作らなかった。
再会するまでずっと、彼女と会える日を心待ちにしていた。
再会した時、前世の事をキレイサッパリ忘れていたミソラに拍子抜けしてしまったが、まあ仕方ないかと思い直して告白し、付き人になり婚約者になった。
そして、今に至る。
「しかし、魔王が退治された事で王都が益々賑やかになったな」
「ハイ! もうガーゴイルの襲撃にも怯える必要ないですしね!」
その代わり人が増えた事でトラブルが増えたのだが、その辺は第一王女や次期国王になる第二王子に任せよう。
前世でミソラは女王だったが、今世のミソラは王になる気がないので立てる必要もない。俺としてもそういう権力争いに巻き込まれるのは御免だ。
俺はただ、ミソラといっしょにいられればそれでいい。
前よりも人が集まり賑わう王都。その中に見覚えのあるくすんだ茶髪の男を見つけた。
ミソラも気づいたようで、俺の服の袖を引く。
「おや? クロカゲさん、あれってユイトさんじゃないですか?」
「本当だな。見た事ない男……いや、女か。背の高い女といるな。セイラ殿ではないようだ」
「声をかけてみましょう! ホラホラクロカゲさん! 行きますよ!」
「……仕方ないな」
俺とミソラ様は、遠くに見えるくすんだ茶髪の男に近づいていく。
あの頃のように、手をつなぎながら。




