番外編「禁断症状⑥」
「ダメだわ、ガマンできないわ」
セイラの家の小さな居間であたしは禁断症状に震えていた。
あたしの目の前にはレイフォード領でも評判の店のケーキがある。
けれどもあのケーキの味とは違う。
「やっぱりあのケーキじゃないとダメなんだわ……」
他のケーキを食べても満足できない。
あの自然な甘さと、ドライフルーツのアクセントが絶妙なあのケーキじゃないと……
「ママのケーキが、ママのケーキが食べたいわ……!」
あたし、レベッカ・スカーレットは、ママのケーキが食べたくて仕方ない禁断症状にかかっていた。
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「う~ん……また失敗しちゃったわね」
あたしは焼き上がったケーキを1口食べながら、小首を傾げた。
「なんでレシピ通りに作ってるのにあの味にならないのかしら……」
魔法使いの里のママからもらったレシピを見ながら作ったのに、ママのケーキみたいな味が出せない。
子供の頃から食べてるママのケーキ。
許婚の件があって魔法使いの里にしばらく帰ってなかった事もあって、久しぶりに食べたらもうおいしくておいしくて。定期的に食べないと食べたくて仕方なくなる禁断症状が出るようになってしまった。
けれどもママも仕事に家事に忙しくて、そんなにケーキを焼く余裕がある訳ではない。
だからレシピを教えてもらったんだけど……
「……な~んか違うのよね。あたしが作ると」
中にドライフルーツが入ったシンプルなパウンドケーキ。
あたしは料理スキルも持ってるし、楽勝だと思ってたんだけど全然あの味が出せない。
全体的にぺったんこだし、食感もパサパサしているし、ハッキリ言っておいしくない。
「なんでかしら……うーん」
「何やってんだ?」
後ろから声をかけられ振り返ると、買い物に行っていたらしいユイトが戻ってきていた。
「なんだ、ケーキじゃないか。レベッカママがまた持って来たのか?」
「違うわよ、ママにレシピを教えてもらってあたしが作ったの。どういう訳だか、うまくいかないんだけど」
「お前はズボラでガサツだからな。ケーキは繊細なんだよ。分量を正しく量ったり、粉をちゃんとふるったりしねえと」
ユイトの言い分に、カチンとくる。
何よその言い方。確かにあたしはズボラでガサツだけど、そこまで言うことなくない?
「そこまで言うならアンタが作ってみなさいよ。まあどうせ、ママみたいには作れないでしょうけどね」
「別にいいけどよ……。レシピはどれだ?」
「これよ」
あたしはユイトにママのレシピを手渡した。
それを見ながらユイトが、冷蔵魔道具から材料を取り出し始める。
フン! いくら料理上手なコイツとはいえ、あのママのケーキを再現できるわけないわ!
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「できたぞ」
「……見た目はママのケーキね。でも味はどうかしら?」
「ちゃんと味見したから近いと思うぞ。ホラ、食べてみろ」
ママのケーキを食べた事あるユイトが、自信気にあたしにケーキの載った皿を差し出してくる。
あたしはフォークで切り分けて、ひとくち口に運んだ。
まあどうせ、似てるけど違う……
「……」
「どうだ?」
「……」
「オイ、味はどうなんだ? 割といい出来だと思うんだけど」
「……」
「……オ~イ、レベッカー。どうしたんだ?」
「……」
「口に合わなかったのか? おかしいな? レベッカママのケーキを再現できたと……」
「結婚して下さい!」
「土下座!?」
ママのケーキを完璧に再現したユイトに、あたしは土下座で求婚する。
何コイツ! 完璧じゃない!
完璧にママのケーキ作れてるじゃない!
こりゃもう結婚してもらうしかないわ!
「結婚してちょうだい! そしてこのケーキをあたしに作って!」
「オ、オイ落ち着け! たかがケーキくらいで……」
「たかがケーキじゃないのよ! ママのケーキがないともうあたしは生きられないのよ! 結婚して! お願い!」
「ケーキにそんな中毒性あるか!? まあ確かにウマいけどよ……」
「どこでも触りたい所触っていいから! あたしの事毎晩バインドでもなんでも好きにしていいから! 結婚して!!!」
「お、おおお落ち着け! やめろ! 脱ごうとするな! ……脱がせって意味でもねえよ!? 『バインド』!!!」
……錯乱してしまったあたしは後ろ手に拘束され、足も拘束され猿ぐつわも噛まされ落ち着くまで放置された。
その後定期的にケーキを作ってもらうって事で話は落ち着いたのだけど、それはまた別のお話である。




