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兄はわたしの頭から手を離すと、少し遠い目をした。
「姉さんもそれしか自分にないって…のもあったけど…。でも一番の理由は、きっと…作品を褒めてくれる…好きだって言ってくれる人がいたから、だと思う」
「今の職に就いた理由?」
「うん…。姉さんもオレも、作品作りがまだヘタだった頃に…それでも家族や周りの人に、『上手』だって、『好きだ』って…言われたから、頑張れた。だから今のオレ達がいるんだと…思う」
それはわたしも心当たりがあった。
はじめて手芸をしたのは、小学一年生の時。
田舎に住む祖母が手芸の得意な人で、冬休みに遊びがてら、家族で泊まりに行った時にはじめてかぎ針編みを教えてもらった。
最初に作ったのは、ボサボサのマフラーだった。
でもできた時はスッゴク嬉しくて、喜んでいたっけ。
…今思い出すと、イタイ思い出だな。
それでも家族は『上手』だって、満面の笑顔で褒めてくれた。
特に祖母が喜んでくれて、だからできたマフラーは祖母にあげた。
今でも冬になると、そのマフラーをしてくれる。
それがとても嬉しくて、家族にもマフラーを編んであげた。
そして喜ばれて、もっと喜んでほしくて編み物の腕をあげて、いろいろと作れるようになった。
高校にあがる頃に、父からネットで販売してみないかと言われて、売り始めた。
時々、購入した人から感謝のメールをもらうこともある。
優しく、心温かい言葉に嬉しくなって、ヤル気が出る。
だから今でもネット販売を続けている。




