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晴れたら、駅の反対側で  作者: みき


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第7話 既読

 午前二時。眠れないまま、僕はハルとのトーク画面を遡っている。


 上へ、上へ。時間を逆に泳いでいく。ハルの「おはよ」。ハルの「見て、虹」。ピントの合っていない空の写真。テスト前の「もうむり」。僕の「がんばれ」。ハルの「他人事だと思って」。


 画面の中では、ハルはまだ生きている。この画面の中でだけは。


 スクロールする指が、ときどき止まる。去年の冬の、初詣の写真。おみくじの写真。ハルは大吉で、僕は末吉だった。「待ち人、来ず、だって」と僕が読み上げたら、ハルは笑って、自分のみくじは見せなかった。あれには、何が書いてあったんだろう。


 気づくと、送信欄に文字を打っていた。


「どこにいるの」


 ばかみたいだ。消そうとして、指がすべる。


 送信、と画面が言う。


 雨の音が、少しだけ強くなる。四階の窓に当たる雨は、地上より角度が浅くて、砂を投げるような音がする。ハルに教わったことだ。雨の音の聞き分けかたなんて、ハル以外の誰からも、教わる機会がなかった。


 吹き出しがひとつ、画面のいちばん下に増える。取り消せばいい。わかっているのに、僕はそうしない。死んだ人に送ったメッセージは、どこへ行くんだろう。どこへも行かない。ただ永遠に、未読のまま。


 そのはず、だった。


 数分後。画面から目を離しかけたとき、吹き出しの横に、小さな二文字が現れる。


 既読。


 音はしない。通知も鳴らない。ただ静かに、読まれた、という事実だけがそこにある。


 僕は動けない。部屋の空気が、一段階冷える。窓の外は雨。カーテンは閉まっている。それなのに、どこかから見られている気がして、僕はスマホを裏返して置く。


 誰かがハルのスマホを直して、使っている。いちばん現実的な説明だ。じゃあ、その誰かは、なぜ真夜中に、死んだ子のトーク画面を開いているんだ。現実的な説明は、現実的なまま、じゅうぶんにこわい。


 ハルのスマホは、事故のとき壊れたはずだ。画面が割れて、電源が入らなくなったと、誰かに聞いた。誰に聞いたんだっけ。警察か。ミナか。それとも――誰にも聞いていないのに、僕はなぜそれを知っているんだろう。


 裏返したスマホが、机の上で一度だけ、短く震える。


 僕は見ない。見ないまま、ベッドの上で膝を抱えて、雨音を数える。ハルの言うとおりだった。数えていると、たしかに音楽になる。なったとたん、目の奥が熱くなりかけて、僕は数えるのをやめる。


 確かめられないまま、朝になる。


 朝の光の中で見たトーク画面には、僕の「どこにいるの」と、その横の小さな既読が、ちゃんと残っている。夢では、なかった。

警察に相談するなら、第9話へ。


ノートに何か書かれていないか確かめるなら、第10話へ。

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