第13話 送信済み
スマホの中を、順番に調べる。刑事みたいに。自分のスマホなのに。
写真。あの日の写真は、一枚もない。当然だ。カレンダー。あの日の予定は、空白。メモ。何もない。位置情報の履歴はオフにしてあった。僕はいつからオフにしてたんだっけ。
調べながら、ずっと変な感覚がある。引き出しを開ける前から、中身を知っている感覚。ページをめくる前から、次の行が読める感覚。僕は自分のスマホを調べているんじゃない。答え合わせを、している。
最後に、もう一度トーク画面を開く。
「雨なら来ないで」
その吹き出しを、長押しする。コピー、転送、通知の設定。指がすべって、その下のメッセージの詳細が開く。
その下の、メッセージ。
「雨なら来ないで」の下に、吹き出しがもうひとつある。右側に。僕の側に。
「行く」
二文字。送信時刻、十八時四分。既読。
指が、画面の上で止まったまま動かない。エアコンの音だけがしている。「行く」。ひらがな二文字。僕の打ちそうな文面だ。僕は昔から、長い文章が打てない。ハルにはそれで何度も「冷たい」と言われた。冷たいんじゃなくて、こわいんだよ、とは言えなかった。言葉にすると、決まってしまうから。
僕は、これを送っていない。送った覚えがない。ゆうべ見たときは、なかった。送信欄は空白で、僕の返信はどこにもなくて、だから僕は――ゆうべ? 違う、あれは何日前だ。この画面を最後に見たのは、いつだ。
確かなことがひとつだけある。この「行く」は、僕のアカウントから、あの日の十八時四分に送られている。事故の、四十三分前に。
そして、ハルはそれを読んでいる。
来ないで、と言った人が。「行く」を読んで、それでも駅へ向かった。あるいは――駅から、離れようとした。
読んだハルが、どんな顔をしたのか。スタンプも、返事も、ない。既読だけが残っている。既読というのは、読んだという事実だけを運んで、気持ちをぜんぶ向こうに置いてくる。だから、こわい。
スマホを置く。手が冷たい。自分の指紋がついた画面が、少し他人のものに見える。
夜中、通知が一件、画面を光らせる。
差出人の名前は、ない。アイコンも、ない。本文だけがある。
「次は、選んでね」
通知は、画面の上でしばらく光って、消える。消えても、部屋の暗さがさっきまでと違う。誰かが僕の選択を、数えている。たぶん、ノートのときからずっと。
数えられながら、僕は考える。選ばなければ、どうなるんだろう。たぶん、それも「選ばなかった」として、数えられるのだ。
通知を開くなら、第20話へ。
開かずに、ミナにすべて見せるなら、第16話へ。




