046 姉は妹の恋を全力で応援します!
旦那様(本物)を見送り、グリーンバンブーへ出勤して働いた。実家に出勤ってなんか変な感じだけどね。最近は焼き場だけじゃなくて、揚場にも少し立たせてもらえるようになった。まだまだサポートという形だけれど、初めてとんかつ定食を作らせて貰った時は緊張した。常連様が美味しいよって声を掛けてくれた日は、嬉しくて一矢に早速報告したの!
一生懸命話をする私に、うんうん、と嬉しそうに相槌を打ってくれた後、ご褒美だからってまた溺愛されたり・・・・。
最近はコロッケを揚げるのに挑戦している。クリームコロッケは火加減を間違えると中のクリームがすぐ爆発したり、コゲたりするから厄介だ。だからとても難しい。
今日はギンさんがいないから、焼き場をしながら揚場――お父さんのサポートをする。琥太郎が洗い場兼焼き場でお母さんと美緒がホール。
「いらっしゃいませ」
美緒の威勢のいい元気声じゃなくて、女らしく嬉しそうな声がホールの入り口の方から聞こえてきた。現在ディナータイムの七時二十分。ラストオーダー十分前だ。グリーンバンブーは午後八時閉店だから、ラストオーダーは七時半に取る。洋食屋でランチが基本的にメインだから、遅い時間までは開けない。だから通常の飲食店より閉店は早い。まあ、住宅街にある洋食屋なんてこんなものだ。
そう。美緒があんなに可愛い声を出すのだから、一矢と中松が来たのだろう。
ふおおああー。入口が神々しいイケメンの二人で塞がったああー。
今、揚場のサポートに立っているから、正面から入り口の様子が良く見えるの!
やああーん、旦那様(本物)カッコイイ! 神! 大好きいいー。
スーツ姿の一矢って、本当にカッコイイのよおおー。鼻血でそう・・・・。
「頑張っているな」
カウンターの方へ一矢がやって来た。やああーん、旦那様ぁ(本物)。家でも会えるけど、実家で会うのも嬉しいわぁー。
「今日は、ギンさんが初孫誕生で出産に駆け付けてお祝いするからって、急遽休み取ったものだからバタバタしているけど、揚場のサポート、しっかり頑張っているわ!」
「うむ。だったら伊織にクリームコロッケを揚げて貰おうか。何時も弁当で食べるのはそれはそれで美味いが、折角だから揚げたてを食そうか。どうだ、できそうか?」
「あ、う、うん。できる! やるわ! この間から、ソースを仕込んでいるのが私なの。美味しいから是非食べて!」
「よし。中松はどうする?」
「では私は、ビフカツを」
ひゃー。難しいオーダーだわ。ビーフカツレツをレアで揚げるのは、これまたコロッケ同様難しいのよ。火加減もね。
きっと、私の修業の為にわざと注文したんだわ。だって、中松がお弁当で一番好きなのは、てりやきハンバーグなのよ。だからてっきり今日はてりやきハンバーグ定食を食べると思ったのに。
変化に乏しいけれど、てりやきハンバーグの時が一番喜んでいるみたいと、一矢情報だから間違いない。
よーし。おまけしちゃお。きっと喜ぶわ。美緒に持っていかせよう。
カウンターからよく見える、一番テーブルに彼らは座った。他のテーブルに座っている女性客がチラチラ彼らを見ている。スーツでバシっと決まっているし、カッコイイもんねえええ。ああ、絵面がうちの定食屋に似つかわしくないわああー。
お父さんに揚場を譲ってもらって、ランチ用の小さいハンバーグもグリルにかけて焼き、同時に出せるようにした。
ハンバーグはサービスだけれど、中松にだけ持っていったら絶対に今日の夜、旦那様(本物)にお仕置きされちゃうから、二個作ってそれぞれに持っていくように美緒に頼んだ。
平日なので洋食屋の定食で夕飯を食べる人は少ない。一矢と中松のオーダーを作った後、最後にからあげ定食とエビ天定食が入ったので、それも私が作って仕上げた。今日のオーダーはこれで終わりね。
美緒はカウンターの前に立って、一番テーブルをうっとり見つめている。中松が背を向けていて、一矢がこちらを向いているという向かい合わせの絵面。はああー。ため息出るね。
「中松さんて、何であんなにカッコイイのおー」
美緒が両頬に手を当て、ひたすらため息を吐いている。うん、そうだね。カッコイイね、と同調しておいた。私は断然、一矢(旦那様)派ですけどね!
姉妹で好きになった男を取り合うような事にならなくてよかったわ。
「えー、美緒はミチ君の事が好きなんだぁー」
女子トークへお母さんが嬉しそうに割って入ってきた。ていうか、道弘だからミチくん・・・・。その呼び名、中松に結びつかなくて全然ピンと来なくて笑える。
「カッコイイよねえー。イチ君もミチ君も」
「俺の事忘れないでくれよ、美佐江」
お父さんが耳ざとくお母さんの声を聞きつけ、割り込んで来た。
「ん、もう。私が一番好きなのは、パパ(ダーリン)だけよ」
うげー。始まった。この二人、何時までもラブラブなんだから。
「もう、まだお客さんいるんだから、奥でやってよ。片付けしておくから」
裏口から二階へ行くように促し、二人を店内から追い出した。
「二人は相変わらずだな。何とも羨ましい光景だ」
定食を食べ終わったので、一矢がカウンターの方へやって来た。さっきの光景を微笑ましく思ったのか、優しく笑っている。
「恥ずかし過ぎるわよ。所かまわずよ?」
「私もそうでありたいが、いけないか?」
「いや、嬉しいけど、ここでは止めて・・・・。まだお客様がいらっしゃるし、恰好もこんなだし・・・・」
グリーンバンブーのロゴが入った、緑色のエプロンに三角巾と相当所帯じみた恰好なのに、ブリオーニのスーツが決まった旦那様(本物)が傍で迫ってくるとか、このレベル差に私が悲しくなるから止めて欲しい。
嬉しさを噛み締めて喜んでいると、一矢の傍にいた中松が美緒に話しかけた。
「美緒様、先ほどはサービスのハンバーグ、大変美味しゅうございました。ありがとうございました」
「あ、はい! 喜んでいただいて、何よりです」
おーおー。猫被りめ。あ、どっちもか。中松は羊被り。
「伊織様から伺っておりますが、こちらのレタスも大変美味しゅうございましたが、美緒様がお育てになったとか?」
「はい。有機野菜を育てて、店で出せるように研究しております」
「いいですね。もし余裕があれば、三成家の食事にも利用したいので、是非回して頂けませんか」
「は、はい!!」
「可能なら、先日お伝えした連絡先にお知らせください。俺を通して頂ければ、如何様にも致しますので。値段もそちらの言い値で結構です。ご連絡おまちしております」
うわーっと、これはビジネス? それとも・・・・恋が始まる予感・・・・?
何にせよ、よかったね、美緒。
頑張れ美緒! 打倒、中松よ!!
鬼だって、きっと甘い恋には弱い・・・・筈!
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