045 鬼執事に休暇をあげちゃうと、三成家が回らなくなると思うざます。
「お前も美緒とヨロシクしたいだろう。今日から暇をやるから、美緒に会いに行けばどうだ?」
「おや。一矢様、よろしいのですか?」
「ああ、構わん。中松の代わりは誰か他の者にさせる。お前も羽を伸ばして来い」
「引継ぎも無しで、本当にお困りになりませんね?」
「ちょっと待ったぁ――!」
大急ぎで着替えた私は、下着姿の一矢と朝からビシっとスーツで決めている中松の間に割って入った。「一矢が訳の分からない事を言ってごめんなさい。中松がいないと困るわ。暇は取らないで?」
ごめん、美緒。中松が休み取ったら、この屋敷回らなくなる!!
というか、一矢を律する人がいなくなったら、三成家、潰れる!!
「伊織様がそうおっしゃるなら」中松が笑った。相変わらず目が笑っていない。
「一矢ったら、最近よくサボろうとするの。全力で見張っておいてね、中松」
「仰せのままに」
中松が私に一礼してくれた。
「こら、中松の主人は私だぞ」その様子を見て、一矢が文句を言った。
「嫁だって同じ事よ。中松は私にも主従関係を結んでくれたわ。ね?」
「おっしゃる通りでございます。ただ、お暇を頂けるという話、俺としては大変光栄で御座いますが」
「だめよ、だめだめ! 三成家が潰れちゃう!!」
「そうですね。俺もそう思いますよ」中松が相変わらず目の笑っていない笑顔を見せた。「伊織様と婚約をしてからの一矢様は、それはもう仕事に身が入らず、困った主人に成り下がっておりますので、この辺りでお灸を据えようかと思っておりました」
わあー。中松のお灸、キツそうー!
それ、ちょっと見てみたいけど、今日の所は私が。
「一矢」
中松の言葉を聞いて、ニッコリ笑って言った。
「今度仕事を疎かにする発言をしたら、今後一切、私に指一本触れさせないからね! グリーンバンブー(実家)に帰らせていただきますわよっ!!」
一発、ピシャーンと雷を落としてやった。
「着替えてらっしゃい」
下着姿のままの一矢を、寝室に押しやって乱暴に扉を閉めた。
その様子を見ていた中松が、くくく、と笑いを漏らした。あ、これ、素。
「中松」
「何だよ」
わ。羊無し松。素だ、素。
「仕事中の一矢って、そんなに酷いの?」ちょっと聞いてみた。
「いいや、ちょっと腑抜け具合あるけど、まだ許容範囲だ。一矢様も単純だし、行くところは全部お前の所だから、行動パターン読めていいけど。困ってるのは、接待を一切してくれなくなった事かな。前までは人づきあいを良くされていたのに、伊織と婚約してからは、全部予定が埋まってると言って、真っすぐ帰りやんの。よっぽどお前に会ってイチャイチャしたいんだな。ほどほどにしておいてくれよ。一矢様を、お前が止めてくれ」
「あ・・・・ははは」
恥ずかしいなあ。もう。真っすぐ帰って来て溺愛してくれるのは嬉しいが、仕事を疎かにする行動に賛同するのは複雑だ。それに、旦那様(本物)の溺愛ぶりは相当なもので、止められそうにない。
「だったら、接待受けなきゃ実家帰るって言った方がいい?」
「別にいい。俺が何とかする。ようやく一矢様もお前を手に入れたんだ。手放したくなくて、一緒にいたくてしょうがないんだろ。可愛いじゃないか」
一矢を想う優しい中松の顔を見た。彼がそばに居たら、一矢は大丈夫ね。安心だわ。
「あの・・・・それより、美緒とはどうなっているの?」
「守秘義務というものを知らないのか? お前に応える義務は無い」
「これでも一応、姉なんだけど」
「そんなに気になるなら」顔を覗き込まれた。「本人に聞け」
「はやああー!」
パニックになり焦って変な声を出してしまった。
「何を騒いでいる」
すっかりきちんと着替えた一矢が、むすっとした顔で現れた。「中松、食事の用意はどうなっているのだ」
「もう出来上がっておりますが」
「・・・・フン」
なにそれ、『フン』って拗ねちゃって可愛い!
「伊織、何を笑っているのだ。行くぞ」
「はぁい、旦那様(本物)」
腕を組んで歩き出したら、一矢が嬉しそうにはにかみ、私の腕をしっかり掴んだ。
それから朝食を終えて支度を整え、お見送りの時間。
「行ってらっしゃい、旦那様(本物)!」
今までは『ニセ』って付いていたけれど、正式に婚約もしたし夫婦の・・・・キャーもしちゃったし『本物』って謳えるのが嬉しいわ!
「ああ、仕事が終わったらすぐに帰るから。いい子にして待っているのだぞ」
「今日はグリーンバンブーで遅番の仕事があるよ」
「休め」
不機嫌な顔で言われた。社会人としての発言とは思えない。
「えーっ、今日は無理だよぉ。ギンさんがいないんだもん」
「伊織の代わりに、中松を行かせればいいだろう」
そんな無茶な。でも中松だったらテキパキやりそうだけど。
「中松になんでもやらせすぎよ。ダメ。仕事は仕事。私、グリーンバンブーの料理人になるのがもうひとつの私の夢だって言ったでしょ。ひとつめの夢は叶ったから、ふたつめの夢を実現すべく、頑張っている所なの。応援してよ」
「しかし家に帰ってお前がいないと、淋しいではないか」
ふぁあー! 何その可愛い理由!!
旦那様(本物)が愛しすぎるっ!
「解った。休めないなら私がお前に会いに行く。グリーンバンブーへ食事に行く」
「特別扱いはしないからね。忙しいし、ちゃんと行列に並んでくれる?」
「構わん。我が妻(本物)の姿を見に行くのだから、苦にはならん。中松も付き添わせる」
どこまで中松を連れて歩くのよー!
でも、中松も一緒にグリーンバンブーに来てくれたら、美緒が喜ぶかも!
「解った。じゃあ、待っているね、旦那様(本物)」
やああーん。やっぱり本物って堂々と言えるのが嬉しいー!
婚約している身だけれど、できれば早く正式に結婚したいー。
来週には式を挙げて入籍もするの。いよいよ『緑竹伊織』から、『三成伊織』になるのよ。
前日からホテルも予約してあるし、エステも予約して貰っている。最高のコンディションで、一矢の本当のお嫁さんになれるなんて、夢みたいだ。
「伊織。行ってらっしゃいのキスを忘れているぞ」
「中松が見ているわよ」
「気にするな。見せつけてやればいい」
強引に腕を取られ、しっかり唇を重ねた後、それで行ってくる、と一矢がキリッとしたかっこいい顔で微笑み、手を振った。
ああっ。私の旦那様(本物)は、世界一カッコイイ!
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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