044 旦那様(本物に昇格!)の溺愛はどう見ても本物で、全く止まる気配がございません!
あれから暫く。グリーンバンブー(実家)を出て、旦那様(本物)とお屋敷に住むことになったのだけれど、毎夜毎夜毎夜毎夜、愛されて困っています。
贅沢な悩みらしいですが、身体が持ちません。毎日ヨロヨロです。はい。
結婚式がちゃんと終わって新婚旅行にも行ったら、実家のみんながお屋敷に泊りを兼ねて遊びに来る予定になっている。結婚式はもうすぐだ。
そして今は、そんな結婚式を間近に控えた平日の朝。キングサイズのベット内で目を覚まし、ぎゅうぎゅう抱きしめられている旦那様(本物)の腕の中から起きようとしている所だけれど、離してもらえなくて困っている。これも毎朝の日課になってしまった。
「一矢、そろそろ起きなきゃ」
「私を置いて行くのか」
「いや、だから・・・・仕事に行く時間だから、起きなきゃいけないでしょ? 置いて行くんじゃないって。大体私の方が出勤時間遅いし、見送るのは私じゃない」
「そういう問題ではない。今、寝室を出る話をしている」
めんどくせーなぁ、もう。
拗らせ眼鏡男子だよ、うちの旦那様(本物)は。
「時に伊織。もう仕事はしなくとも、私は今まで十分稼いだぞ。遊んでいても、しっかり暮らしていける故、後は中松に任せておけばいいのではないか」
毎日これだ。仕事へ行きたくないと言い張って、ベッドから起きようとしない。
「そういう訳にはいかないでしょ! スピーチで『全責任を負う』って他の会社に明言したでしょ! 有言実行しなきゃ、示しつかないわよ!」
「そうだ、スピーチで思い出したぞ。父が本家に帰って来いと再三うるさくてな。ほとほと困っているのだ。あ、あの二人は無事に追い出したから、伊織が本家に行きたいというなら考えてやってもいいが」
「絶対行きたくない」
ここより広いお屋敷なんて、とんでもない。家で迷子になるわ、きっと。
「だろうな。だから私も行かないのだ。中松に断らせている」
「嫌な事は、全部中松にさせるのね」
「それがあの男の仕事だ」一矢は不敵に笑った。「中松は私の事が大好きだからな」
「ひどい雇い主だこと」
「で? その中松と美緒はどうなったのだ」
「知らない。美緒に聞いても教えてくれないもん。中松に休みあげるようにイチ君に言っておいて、って美緒が怒ってたよ」
「そんな事をいう位だから、あの二人も上手く行っているのではないか?」一矢は嬉しそうだ。「いっそ美緒もここへ越して来たらどうだ。部屋は沢山ある。なんなら二人の為に家を建ててやってもいいぞ。伊織もグリーンバンブーは辞めて、ずっと屋敷にいればいい。欲しいものは何でも買ってやるし、仕事は他の者にやらせておけばいいだろう」
「なにそのダメ男発言。最低。私の旦那様はそんな無責任な男だったんだ。ショック」
悲しそうな顔を見せると、途端に一矢が焦りだした。
「何を言うか! 今のは冗談に決まっているだろう」
冗談に聞こえなかったんだけど。
話の内容は違うけど、毎日このパターン。起きるのをとにかく嫌がる。私と離れたくないだけだという事に、最近気が付いた。というのも、中松情報だけどね。
そうそう。中松と美緒の恋の行方は、ちょっと私にも解らない。中松に聞いても絶対に教えてくれないし、しれーっとしている。素の中松に触れ、核心部分に迫れたのはあのパーティーの時だけだった。
普段は分厚い羊松だ。鬼になる事は減ったが、一矢が仕事をさぼろうとすると、羊じゃ無くなって、鬼の角が生えてくる。
ついこの間、一矢が黙って会社を抜け出してグリーンバンブーに来た時(私に会いに来たらしい)も、先回りして強制連行していったくらいだし。本当によくできた羊(というのはニセで中身は鬼)だと思う。
「伊織」
旦那様に柔らかく包み込まれた。「抱いてもいいか?」
「あのさ、時計見てる?」
現在、朝の六時四十五分。一矢は会社に八時半には出勤しなくちゃならない。そろそろ用意をして朝食を取らないと、出勤に差し障る。
「心配しなくてもいい。すぐ済ませるから」
「そういう問題じゃなくて!」
言うが早いかキスされたので、甘い声が口をつく。
昨夜も溺愛されたから、二人とも一糸まとわぬ姿である。事を致すにはおあつらえ向きといえようが、明るい日差しが差し込む寝室で、平日の朝からちょっと待ってよおぉ――っ!
「あっ、いち――」
派手に旦那様の名を叫びそうになった時、やや乱暴にコンコン、とノックが掛かった。
『一矢様、そろそろご準備頂かないと、ご出勤が遅れてしまいます』
中松の声だ!
やああああ――っ、今の絶対聞かれたぁあぁ――っ!!
恥ずかし過ぎる――っ!!
チッ、と舌打ちして、一矢はしぶしぶ私から離れ、ベッドの下へ脱ぎ捨てた下着を身に着け、扉を開けに行った。
「中松、私はもう起きているぞ。解っているだろう。朝からいちいち夫婦の邪魔をするな」
「しかし一矢様、このままではご出勤に差し障ります。伊織様と仲良くされるのは大変喜ばしい事ではございますが、ほどほどにしておいて頂かないと困ります」
ひいいー。聞こえてくるぅー。いやあー。
きっと目の笑っていない笑顔で言っているに違いない嫌味があああー。心にグサグサ刺さるよぉー。
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