6話 レパレとミラパレ
春が来た。
完全に春だ。おそらくもう少ししたら、俺も生誕一周年を迎えるだろう。
まぁ正確な日付は数えてないから、この正確な誕生日はもう分からないのだが、、、
王宮からはじき出されなけば、戸籍とかも保存してあっただろうに。
こんなことになるなら、某Dr.ST〇NEみたいに秒数をずっと数えておくんだった。
いや、普通に寝ちゃってたから無理か。
「おはよう!」
もう脳内で完璧に翻訳されるようになった挨拶が聞こえる。
「おはよう!」
俺も負けじと答える。もちろん異世界語で。
今日は夫婦お揃いで会いに来たようだ。
「~~~。~~~~。」
あー駄目だ。わからない単語の連続だと何も聞き取れない。
何を言っているのかはわからないが、ともかく嬉しそうだ。
二人は俺を抱きかかえて、暖炉の前の食卓まで運ぶ。
最近は俺の体もしっかりしてきたので、食卓で一緒に食事をとることが多くなった。
俺は、いつもの俺用赤ちゃん椅子に座らせられる。
ご主人は木工が得意で、この俺用赤ちゃん椅子も彼のお手製だ。
安定感のある椅子から、食卓を一望する。
今日はなんだか食卓が豪華だ。
俺の目の前に置かれたいつもの離乳食も、三角形に切り抜かれたニンジンのようなものが添えられて彩りがある。
何かのお祝いだろうか。
二人が俺の両脇に座る。
近いって。広い食卓を半分しか使っていないのだが。
そして、二人は大きく息を吸って、、
「「ユート!タンミラー!」」
と言った。
何故か鮮明に聞き取れた。意味は分からないが。
しかし、『タン』は感謝を意味する単語だ。
何かしら感謝しているのだろうか。
今日は収穫感謝祭的な日なのかな。
二人が、目を丸くしている俺を指さして「ユート」と繰り返して言う。
なんですか?『ユート』って。どこかで聞いたことがある響きではあるが、、、
そうだ。
俺の今世での名前が『ユートロウス」だった。
もしかして、『ユート』ってのは俺のことを指しているのか?
でもなんで俺の名前を、、
ご主人が懐から、おもむろに何かを取り出す。
青色の布。
それを俺の首にかける。
スカーフ、、だろうか。赤ん坊の俺には少しぶかぶかすぎるが。
それにどうも懐かしい感じがする。
そういえば、青色の布なんて久々に見たな。
王宮にいた時はずっと見ていたのに。
あぁ。なるほど。
すべての点と点が繋がる。
このスカーフは、俺が乗ってきた籠に一緒に入っていた物なのだろう。
籠に入っていた物を二人が持っている。
ということは、あの雨の日に、母親が俺の乗る籠に詰めていた紙等も受け取ったのだろう。
恐らくそこに、俺の名前とかが書いてあったのだろう。
だが、『ユート』か。何故か短縮されているが、妙にしっくりくる。
どういう意図で二人が俺を短縮した名前で呼ぶのか分からないが、
まあ一旦は『ユート』と名乗っていこう。
「ユート。」
自分を指さして言う。
二人は俺の頭を強くワシャワシャする。
そして次に、ご主人が自分を指して、
「ヴァルト・ヴァクネリア」
間髪入れずに、奥さんが自分を指して、
「セリナ・ヴァクネリア」
と言った。いや、名乗った。
じゃあ以前名乗っていた『レパレ』と『ミラパレ』は何だったんだ?
まぁともかく、名前が分かったのだ、
命の恩人には言わなくてはいけないことがある。
「ヴェルト、セリナ、タン!」
ここに来てから半年間の感謝も込めた。
二人の目が大きく見開かれる。
次の瞬間、俺は二人に強く抱きしめられた。
通じた、、のだろう。
良かった。
命の恩人に、ずっと感謝も言えなかったのは嫌だったからな。
二人は、優しく俺の頭をなでる。
そして、奥さんが俺を指さして言う。
「ユート・ヴァクネリア」
そして、続けてご主人が自分を指さして言う。
「ヴェルト・ヴァクネリアネリア ズ レパレ。」
奥さんも自分を指さして言う。
「セリナ・ヴァクネリア ズ ミラパレ。」
そういうことか。
俺は、やっと『レパレ』と『ミラパレ』の意味を理解する。
『父』と『母』。
「レパレ。ミラパレ。」
そう二人を呼んだとき、
二人はこれまでで一番嬉しそうな笑顔を見せた。
こうして俺は、ヴァクネリア家の息子になった。




