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7話 二羽のカラス


一年が経った。

俺がこの家に拾われてから二度目の春だ。



「ユート。二歳の誕生日おめでとう!」

豪勢な食卓を前に、ヴェルトとセリナが祝いの言葉をかけてくれる。



俺は二歳になった。

去年は赤ちゃん椅子に座っていたが、今年は両親と同じ大きさの椅子に座っている。

背が足りないので、座布団的なものを敷いているが。



「ありがとう。父さん。母さん。」

この一年で体に染みついてきた異世界語で返す。



スピーキングの方はまだ慣れないので、簡単な文しか喋れない。

リスニングの方は、日常会話ならほとんど支障のないレベルまで到達していると思う。


この世界の言語を文法もなんとなく掴めてきた。


基本的に単語を三つ並べた時は



主語―目的語―動詞。の順だ。



皆が席につき、机上の小瓶に指を浸しながら言う。

「「「ミテル ライファム マケト。」」」



これは、

『私は 食べ物を 食べます。』

の意味だ。


まぁ日本語で言う、いただきます。だ。


この机上にある小瓶に指を浸す動作は、

いただきます。においての手を合わせる行為のようなものだ。


小瓶には水が入っていて、食事の前は指先を水に浸すのがルールだ。

濡らした指は、一緒に置いてある布巾で拭く。

前世でもフィンガーボールという文化を聞いたことがあるので、似たようなものなのだろう。



「ユートも、もう二歳か、、リ(・)ク(・)ロ(・)が飛ぶのは早いな。」



おっと、知らない単語が出てきたぞ。

こういう時はすぐに聞くのが学習のコツだ。


「父さん。リ(・)ク(・)ロ(・)って何?」



「リクロはな リ―するクロ って意味だ。」



なるほど。

そのまんまだな、、


異世界語はこういうパターンが多い。

なにかしらの意味を持つ基本単語が混合して、一つの単語になっている。


『リ』は『光』や『明るい』を意味していたはずだ。



そして、以前家の玄関前にいたカラスっぽい鳥を、「クロ」と教えてもらったっけな。

色は黒くなかったけど、、



つまり、『リ クロ』というのは光るカラスと解釈してよいだろう。



「光るカラスなんているの?」



「一応いるにはいるぞ。ほとんど神話の存在ではあるが、父さんは一度見たことがある。」



光るカラスか。ファンタジーモンスターにしてはインパクトが薄いな、、



ともかく、、『リクロ』は『ヒカリカラス』で脳内辞書に登録だ。

こうして、少しずつ語彙の幅を広げていくのが言語学習では大事なのだ。

前世で英語の成績2だったけど、、



新しい単語の意味を学んだところで続きを聞く。



「父さん。それで、ヒカリカラス(リクロ)が飛ぶのは早いってどういう意味?」



「ユートは本当に知りたがりだな。うーん。これの意味を理解するにはあの神話ごと教えないとな、、

よし、よく聞けよ。」



ふむ。また、神話由来か。

異世界語にはしょっちゅう神話を由来にした比喩表現が登場する。

ことわざのようなものだ。

『ヒカリカラスがが飛ぶのは早い』も神話を由来とする比喩表現なのだろう。

俺はヴェルトの語りに耳を傾けた






「昔々、二羽の仲良しなヒカリカラスが交代で地上を照らしていた。


二羽の名前は『ダイ』と『ルヌ』。ダイは昼に、ルヌは夜に飛んでいたんだ。


二羽の光る力は変わらなかったから、昼の明るさと、夜の明るさは、同じくらいだった。だから、昼と夜にそれぞれの時間に暮らす人間が同じ数いた。


人間たちは、照らしてもらうお礼に、光で育った作物の一部を供物としてカラスに捧げていた。カラスたちはその供物から力を得て、また空を飛び、地上を照らした。


ある日、悪魔が二羽に「どちらが早く飛べるんだい?」と聞いた。

二羽は同時に飛んだことが無かったので、一度昼に集まって、競争してみることにした。


競争の日、昼は普段より二倍明るく、夜は光一つない暗闇になったんだ。


競争の次の日、二羽はひどく疲れてしまって、全く飛べなかった。

つまり、昼も夜も真っ暗。


けれど、昼の人たちは競争の日に作物がよく育ったから、ダイにたくさん供物を捧げられた。供物のおかげで、ダイは元気になって、以前よりも強く光れるようになった。そうして、今の昼が出来た。


逆に、夜の人たちは競争の日に作物があまり育たなかった。

ルヌには十分な供物が届かず、ルヌは元気を戻せず、光は少しずつ弱くなった。やがて夜は完全に暗くなり、今の夜が出来た。


暗くなった夜では生活できず、夜に活動していた人たちも、明るい昼へ移っていった。


それでも、今も二羽は昼と夜に飛び続けている。二羽が飛ぶことで、時間が進むんだ。


だからこういう時には『ヒカリカラスが早く飛ぶ。』って言うんだ。」





なるほど。分かったようでわからない。ところどころ初耳の単語もあったし。


分かった範囲で要約すると、昼と夜を司る二羽のカラスがいるってことだな。


だから、

「ヒカリカラスが飛ぶのは早い。」=「時間の流れは早い。」

と解釈しても良いだろう。

また、異世界語の習得が進んだ。



「でもなんでルヌは暗いままでも飛んでるの?供物はもう無いんだよね?」



「あー。言われてみれば。そういうもんだと思って考えたことなかったな、、」



「二人とも、お勉強はいいけど、ごはんが冷めちゃうから食べ終わってからにしてちょうだい。」

語り始めようとした父を母が宥める。



「悪い悪い。ユート、続きは飯の後でな。」



「わかりました父さん。」


視線を食卓に移し、カボチャ?のスープを啜る。

スープは猫舌の俺にはちょうどいい温度になっていた。




「ふー食った食ったー。」

ヴェルトが自分の腹を撫でながら言う。


ヴェルトはものすごい量を食う。

あれだけ毎回食べていて、うちの収入で足りるのだろうかと心配になるほどだ。


うちの収入は恐らく少ない。


ヴェルトは木こりをやっていて、いつも庭で薪を割っている。

セリナは恐らく専業主婦なので、うちは父の収入のみで成り立っていることになる。


周辺に他の家は無い森の中で、木こりをしているだけで生活をしている、、、

考えてみれば、不思議な家庭だ。



食事の片づけを終えたセリナが、俺に近づいてきた。


「はい。これ。」

と懐から金色に輝くメダルのようなものを差し出してきた。

表面には何やら複雑な紋章が刻まれている。



「ちょっと母さん。それはまだ早いんじゃ。」



「でも、私たちが持っているのは違うでしょう?」



「いや、だが、、、」


何やらもめているようだ。

これは、誕生日プレゼントなのだろうか。

しかし、見るからに純金だ。子供のプレゼントには確かに早い気が、、



「これはあなたの物。大事に保管しておきなさい。」



大事に保管って、、俺まだ二歳よ?



「母さん。ユートはまだ二歳だぞ?保管も何も、、」



ヴェルトが俺の思いをそのまま代弁してくれた。



「そもそもユートには保管する場所もないじゃないか。」



「今日保管する場所を用意するわ。」



「「え?」」



「ついてきて。ユート。」


そう言って、まだ入ったことのない部屋に案内される。



「ほら。ここが今日からあなたの部屋よ。」


セリナが扉を開ける。



そこには四畳ほどの部屋に、ベッド、机、棚が置かれていた。

少し狭いが、大きめの窓もあるため窮屈には感じない。



「母さん。いつの間にここを掃除してたんだ?」



「最近コツコツと掃除してたのよ。」



「ここが、、僕の部屋?」



「えぇそうよ。誕生日おめでとう。」

そういいながら、さっきの金メダルを渡してくる。



「これもあなたの物。大事に部屋に置いておきなさい。」



「わ、わかったよ。母さん。」



普段からしっかりしている人ではあるが、今日はやけに強気だ。

手に握りこまされたメダルを俺は深く握りしめる。



「そう。いい子ね。」

母が頭を撫でる。



「まぁ母さんがそうするなら間違いないか。」

父が頭をポリポリ掻きながら諦め顔で言う。



なぜかよくわからないが、プレゼントは嬉しい。



「ありがとう。母さん。」

母はにっこりとほほ笑む。




・私室と金のメダルを手に入れた!new




***




その日の夕暮れ。


俺は自室で初めてのプライベート空間を満喫していた。


いやぁ。なんやかんや言って最高のプレゼントかもしれない。


この世界に来てからプライベートなんてずっとなかったようなものだったしな。

いやぁこの椅子もフカフカで最高!

なんの毛を使ってるんだろうか。



机の上に置いた金のメダルに目をやる。

何とも美しい逸品だ。

売れば、かなりの値段になるだろう。


って駄目だ駄目だ。大事に保管しろって言われたんだから。売るなんてとんでもない。



ところで、このメダルは何なのだろう。

俺の物って強調されていたし、俺の乗っていた籠に一緒に詰められていた物だと推測するのが妥当だろう。



そう思えば、記された紋章もどことなく王宮で見た覚えがあるような気もしてくる。


まあこいつのおかげで私室が手に入ったんだ。記念として大切に保管しておこう。





こつんこつん。

窓を固いものでたたく音がする。



「ん?」


窓を見ると二羽のカラスが、格子状の窓を控えめに叩いている。



いたって普通のカラスだ。ところどころ灰色が混ざっているが、この辺りではこの模様がスタンダードらしい。

今日二羽のカラスの神話をきいたばかりだからな、、少し神聖に感じる。



「ハロー。」

会話を試みる。英語が通じるわけもないが。



こつんこつん。二羽は交互に窓を叩いている。



流石に木で出来た窓を割るほどの力は無さそうだが、我が新居の窓に早々傷がつくのはごめんだ。

神の使いなら申し訳ないが、、追い払わせてもらおう。



椅子から立ち上がり、窓を開けて追い払おうとした。

窓を下から上へ持ち上げて、手を外に伸ばす、、



その刹那。空いた窓から一方のカラスが部屋に潜り込んできた。



「ちょ、待っっ」



そのままそいつは、机に一直線で飛ぶ。

そして、机の上に置いてあった金メダルを咥え、踵を返して窓に戻ってくる。



「そうはさせるかぁ!」



俺はとっさの判断で窓を閉じる。一度この部屋に閉じ込めてしまう算段だ。



しかし。



もう一羽のカラスが体を窓の下に滑らせ、身を張って隙間を確保する。



そして、金のメダルを咥えたカラスはその隙間を華麗に縫って、、



抜けたぁあああ。



相方が抜けたことを確認したもう一方のカラスも身を引いて、逃げた。



二羽の影は夕日へ溶けていった。

夕日が心なしか金色に輝いているように見えた。

これは、、、、セリナには黙っていよう、、





・金メダルを失った!new


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