28話 vsガキチンピラ
三メートルも無い粗末な櫓が脇に添えられた門を通過する。
そこには、急な木板屋根の家が十軒ほど寄り集まっていた。太い丸太を積み上げただけの壁は雨で黒ずみ苔むしている。家から突き出る煙突からは細い煙がまっすぐ空へ昇っていく。家々の背後には、トウヒや松の深い緑が壁のように迫っていた。
道は石畳ではなく、何度も踏み固められた泥道。泥道は広場と呼ぶには狭い空き地に収束している。広場周辺には丸太を削っただけの灯柱が疎らに生えてはいるが、火はともっていない。寂れている。そう感じるのに十分な見た目だったが、子供の楽し気な声が陰鬱な空気を吹き飛ばしていた。
少なくとも、王都では無い。ちくしょう、ぬか喜びした。たしかに、ヴェルトは王都に連れていくとは言っていない。子供と遊ぶのが目的なら、ここでも十分に果たせることだろう。
「今日の日暮れまではここで遊んでもいいぞ。たくさん友達を作ってこい。」
そう言って、ヴェルトはどこかへ行ってしまった。
何か用事があるのだろうか。
しかし、困った。こんな小さな村で情報収集も何もあったもんじゃない。
まぁ、俺のお願いの仕方が悪かったんだ。切り替えて、ここでも得られる物を探そう。
***
しばらく村を回ってみて、ひとつ気づいたことがある。
成人男性の姿が、異様に少ないのだ。おそらくヴェルトのように、昼間は森の中で仕事をしているのだろう。
そして、当然ながら図書館のような施設もなかった。
となると、この村で書物を探すなら村長の家か。村に伝えある伝承の書物なんかが置いてあっても、おかしくはない。おそらくあの奥にある大きな家が村長の家だろう。
訪ねてみるか。
そう思い、一歩踏み出したところだった。
「おい。」
後方から聞こえた。誰かが会話しているのだろう。
俺には関係無いと判断して、歩みを戻す。
「おい!聞こえてんのか。お前だよガキ。」
「え、俺?」
振り返ると、俺より少し背の高い小太りのガキが、俺に木の棒を向けていた。
「人に尖った物を向けちゃだめだよ。下ろしなさい。」
「はぁ?何、説教してんだよ。俺より年下だろお前。で、お前誰なんだよ。よそものか?」
「人に名乗って欲しいときは自分から名乗るべきじゃないか?」
「くっ。てめぇ俺のこと舐めてんなぁ。おい、トルー、キーマ、こいつ、俺のこと舐めてるよなぁ?」
「舐めてると思います。許せないっすね。」
「、、、僕もそう思う。」
声がしたかと思えば、よく見れば小太りのガキの後ろに取り巻きのようなガキが二人いた。ヒョロいのと、チビのだ。どちらも小太りのガキよりは幼そうだ、年齢的には俺の方が近いだろう。
「だよなぁ。よそもののガキが、ワッパ様のことを舐めてるよぁ?」
なるほど。これはチンピラに絡まれるという、異世界あるあるシチュエーションだ。
しかし、相手がこんなガキではあまりテンションも上がらない。
「どうする?今すぐ謝れば許してやるよ。ま、この剣の鋭利さを思い知りたいなら別だけどなぁ?」
困ったな、、、
こういう時は素直に大人を呼ぶべきだろうか。
しかし、呼んでから大人が来るまでに数秒はかかる。その間、このガキから逃げ惑うのも癪だな。
仕方が無い。ガキ同士、仲良くケンカしますか。
「いいよ。拳で語り合おうか。ただし、お前が武器を使うんだ。俺も使わせてもらうぞ。」
俺は、背中に巻いてきたワルロシャクを抜く。
こういう時のために、毎日必死に扱いを練習してきた。イメトレもだ。
対人戦は初だが、きっとやれるはずだ。
「あぁ?本気かよお前。弱いものイジメはしたくないんだが、生意気なガキは一回痛い目を見たほうがいいかもなぁ!!」
小太りが棒を振り回しながら向かってくる。
「痛い目見るのはお前だぜガキんちょぉお!」
迫ってくる小太りに背を向け、全力で地面を蹴る。
「ってお前、逃げんなあ!」
一時的に距離は取れたが、流石に歩幅が違いすぎる。追いつかれるのは時間の問題だ。だが、、、
「AGGREGATE WATER!」
手の中に水の玉が生まれたのを確認し、振り返って小太りの足元に向けてアンダースローする。
「なっ、魔法ッ、」
ここは踏み固まっただけ泥道、局所的に水を被れば、、
ツルッ
「うわぇあ。」
ドスン
転ぶのは必至!
「からのぉ!AGGREGATE WATER!」
今度は、地面擦れ擦れで水を生成する。すると、出来た水玉に地面の土が巻き込まれ、泥水玉が出来上がる。これを相手の顔面目掛けてオーバースロー!
バシャンッ
「目、目がぁ!」
「ワ、ワッパ!」
「てめぇ、良くも兄貴を!」
ヒョロいのが向かってくる。
転んでいた小太りも、目を擦りながらも立ち上がりこちらに向かってくる。
よし、この距離ならいける。
ワルロシャクを脇に生えている灯柱のランプ部分に向かって伸ばす。
そして、針が伸びきったところで展開!
バシュ
十字の爪が金具部分に引っかかり固定される。軽く引っ張り、固定が確認出来たら、迫ってくるガキ達から遠ざかるようにバックジャンプする。
後ろに下がると同時に、俺の体は宙に浮く。ブランコで後ろに下がる時と同じ要領だ。
そしてそのまま右足を前に突き出す。
後ろへの勢いが止まった時、振り子の原理で勢いは前方向へと変わり、敵に向けて滑っていく。
つまりブランコアタックだ。
「くらえぇ!ラ〇ダーーーーキッッック!!」
ドスッッ
「うぼべぇ!」
小太りの泥だらけの顔面に俺の足がぶっ刺さる。
「えっちょっ、」
ゴツン
吹っ飛ばされた小太りが後ろのヒョロと激突する。
二人は折り重なって泥道に倒れる。見事ツーダウン。
俺は少しよろめきながらも着地を成功させ、後ろで突っ立ているだけのチビに問いかける。
「さて、君は向かってこなくて良いの?」
「えっあっっと、僕は、、見学ってことでぇ、、」
「うんうん。それがいいと思うよ。」
こうして、俺の異世界での初陣は見事な勝利で飾った。




