27話 王都?
誕生日翌日の昼下がり。
俺はヴェルトと二人、キッチンで皿洗いをしながら話し合っていた。
「駄目だ」
ヴェルトは、きっぱりと言い切る。
今俺が相談しているのは、俺が王都に向かいたいという話だ。
正直、断られるとは想定していなかったので、面食らっている。
「どうしてもですか?」
「ああ。駄目だ」
いつもならどんな話でも親身に聞いてくれるヴェルトが、この件に関してだけは、頑として首を縦に振らなかった。
「理由を聞かせてください。」
ヴェルトは皿を洗う手を止め、こちらを向く。
「単純に、お前はまだ五歳だ。王都の治安はあまり良いわけじゃない。少なくとも、
ここよりかは悪い。だから行かせられない。」
ここというのはこの辺りの森の中、ということだろうか。
「ここだって、危ない魔物が出たりするじゃないですか。王都の治安が悪いといっても、出くわすのが魔物から人間に変わるだけじゃないですか。」
「いや、、お前は賢いからわかるだろ?魔物よりも人間の方が危険だ。」
分かっている。
分かっているが、正論に対してはとにかく反論したくなってしまうのだ。
これは、俺の前世からの悪癖だ。
「それでも、俺は王都に行きたいんです。」
「そもそも、王都に行って何をするつもりだ?子供のお前が王都に行っても、楽しいものはあまりないぞ?」
異世界から帰る方法を調べたい。と言う訳にはいかない。
何と答えたものか、、、
「えーと、、あっ、友達!友達が欲しいんです。同年代の。」
「ふむ。友達か、、確かに、お前が利口だから気にしてなかったが、友達と遊びたい年頃か、、」
一番手ごたえのある反応を得られた。
よし、もう一押しだ。
「お願いします父さん。俺もう一人遊びしてるのは寂しいんです。本で読んだんです。街の子供たちは皆で玉蹴りして遊んでるって。俺もやりたいんです玉蹴り。」
畳みかけるように情に訴えかける。
「うーーーーーん。」
「父さん、、、」
俺は最高にキュートでうるうるな目をヴェルトに向けてやる。
「よし。分かった。」
「やった!」
よし。目標を一つ達成だ。
「じゃあユート。お前、頭から絵具を被る覚悟はあるか?」
「はい?」
***
次の日。
俺はヴェルトに手を引かれ、これまで足を踏み入れたことのないほどの森の奥まで来た。
昼下がりだというのに、重なった枝葉が陽を遮り、足元がよく見えない。
それでも、ヴェルトは迷いなく進んでいく。
いつ魔物が出るかと気が気ではないが、俺の意識はあまりそこには無かった。
痒い。
髪がカピカピして、頭皮が滅茶苦茶痒い、、
昨日の夜、ヴェルトに頭から茶黒い液体をぶっかけられたからだ。
髪を染めたかったらしいが、専用の染髪液なんてあるはずもない。使われたのは、と大鋸屑の粉末と『ノへドフル』という木の実をすり潰した汁を混ぜた液体だった。
『ノへド』は脳、『フル』は実。つまり「脳の実」だ。ずいぶん物騒な名前だが、見た目は完全にクルミだった。しかし、浸した水が真っ黒に染まっていた。この世界のクルミは、実の中にイカ墨でも溜め込んでいるのだろうか。
その汁を頭に浴びたせいで、俺の輝く金髪はヴェルトの茶髪の明度を下げたかのような色合いになってしまった。
「父さん。頭が痒いです、、これ本当に必要なことだったんですか?」
「あぁ必要だ。お前の金髪は目立つからな、人に会うなら染めていかないとダメなんだ。」
言いたいことは分かる。
俺とヴェルトの髪色は違いすぎる。親子であることを怪しまれないようにしたかったのかもしれないが、他にやり方は無かったのか。
「そもそも、クセスさんとフキルクさんに会う時は別に染めなかったじゃないですか。」
「クセスは特別だ。フキルクさんに関しては、そもそも色の見分けがあまり付かないんだ。」
「え?そうだったんですか?」
「あぁ。まぁあんま気にすんな。頭が痒いのは、、そのうち慣れる。」
色々濁した返答をされるが、まぁ我儘を聞いてもらったのはこちら側だ。頭の痒みくらい我慢してみせよう。
「よし、そろそろ着くぞ。あと一息だ。頑張れ。」
「はい!?もうですか?」
まだ、家を出てから1時間も歩いていない。途中で休憩も挟んだ。
王都は、こんなに近かったのか?徒歩圏内じゃないか。
そもそも俺は、徒歩で森から出て、外で馬車に乗ることを想定していたのだが。
しかし、周りの木々の間隔は少しずつ疎らになってきている。頭上からも光が地面まで届いている。
本当にもう着くのか?
やがて、明らかに『道』と認識できるものに合流した。
獣道ではない。踏み固められただけにも見えるが、わずかに石のタイルが敷かれている。明らかに人の手で舗装されている。
「よし、ここを右だ。」
森の獣道でもない所を歩いてきたからか、舗装された道の歩きやすさに驚愕する。
でもそうか、、俺、ようやくこの世界の『街』を見れるんだな、、、
この世界に来てから五年経つのに、ずっと閉鎖された環境にしかいなかったもんな。
ようやく、、、この異世界の世界観を感じられる!
正直ワクワクが止まらない。帰りたい気持ちはあるが、別に異世界が嫌いなわけではないのだ。
「さぁ見えてきたぞ。」
その声を聴くと同時に最高潮に達した俺のワクワクは、木造の櫓が視界に入ると同時に困惑に変わった。
「ユート。あれがウィパス村だ。あそこならきっと、同年代友達が見つかるぞ。」




