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26話 帰るために


五歳の誕生日を迎えた。

朝から二人に「おめでとう」と言われた。

しかし、それ以外は特に何も無く一日を終えた。

今は暗い自室で松明を頼りに机と向き合っている。


まあ理由は、昨日やった『リフェ誕生おめでとう,フキルクさんお元気でパーティ』にて、どうせなら一緒にやってしまおうと一括りにされてしまったからだろう。

まぁ、パーティをするなら大人数の方が嬉しいし、誤差一日なので、何も不満は無いのだが、五歳の誕生日があまり節目として扱われていない事に、カルチャーショックを受けているという感じだ。

前世では五歳となると『七五三』のような節目として扱われていたが、こっちの世界ではそうではないらしい。


この世界(もしくはここの地域?)での重要な区切りは、いつ死ぬかわからない赤ん坊時期を過ぎる3歳、子供を作れるようになり大人として認められる13歳、そして、家長を名乗ることが許される23歳、の三つ。

なんとも言えない区切り方だが、これも 賢(・)者(・)レ(・)ナ(・) とかいう人物の知識に由来するものらしい。



そう賢者レナ。俺が転生者では無いかと睨んでいる人間だ。

彼女について調べられれば前世に帰る方法もわかるやもしれない。


しかし、ここ最近、、、というかこの家に流れ着いてから、平穏な日常に溶かされすぎて、前世に帰るための方法の模索をだいぶ怠っていたように感じる。

つい先日も、妹が大人になるまで見届ける。なんて決心をしてしまったが、見届けるも何もこのまま行ったらこの家で一生を終えてしまいそうな勢いである。



そこで、一度己を見直し、帰るための道筋を打ち立て直そうというのが本日の議題だ。


机に紙を広げ、ペンにインクを付ける。このインクは近場でとれる真っ黒な木の実を潰して作ったお手製インクだ。いやぁ、我ながら良い色のインクを作るな、、、


って違う違う。ちゃんとしろ俺。


思考を研ぎ澄ませ、紙にでかでかと書き連ねる。



大目標


中目標


小目標



俺は前世から、目標をこの三分類に分ける習慣がある。まぁ小さいころに見た漫画の真似なんだが。

これを、こっちの世界に来たばかりの時にもいくつか打ち立てた覚えがある。

今覚えてるのは、



大目標

・前世に帰る


中目標

・リフェが大人になるまで見届ける



小目標

・?



だ。

ハッキリ言ってほとんど覚えてない。

紙に書いていないのだから当たり前といえば当たり前だ。

別に俺は記憶力が良い方ではないしな。暗記系の小テストは月1で追試だったし。



なので、今一度整理してこの紙に書き記しておこう。

まず大目標、これに関しては異論無いだろう。

・前世に帰る

これしか考えられない。

正直、ここでの生活は悪くない。

暖かい家庭、美味い飯、澄んだ空気。

日本のサラリーマンが欲する物すべて揃っていると言っても過言では無いだろう。


しかし、、だ。

それは、元の世界を諦める事とは等価値では無い。

例え、窮屈で、生きにくいそんな世界でも、俺を信じてくれる友達が今も待っているかもしれない。待っていなくとも、俺はアイツらに何かを返してやると決めたんだ。


決めたことは曲げない。恩は必ず返す。それが漢というものだろう。

俺はアイツらと漫画の主人公達からそう学んだ。


それに、続きが気になる作品が両手両足で数えてもギリ足らないくらいある。

好きな作品の続きを見ない。というのは、一介のオタクとして許されざる事だろう。



漢として、オタクとして、俺は意地でも帰らないといけない。

だからこそ、大目標はこれだ。



そう強い思いを記すため、書道でもするかのように、大きく、丁寧に大目標を書き記した。



大目標

・前世に帰る!



さて、次は中目標だ。

これは大目標に繋がるための道筋を書いておきたい。

王宮にいた頃は、たしか権力を使って、、、のようなことを考えていたような気がするが、今となってはもうできない。

地道に調べていくしかないだろう。


そのためにまずは都市に向かいたい。

現状、俺はこの森を出た事が無い。

だが、間違いなくこの世界には大きな都市が存在している。

何を調べるにも、都市に行かねば話にならないだろう。

文献にしろ、知識人にしろ、結局集まるのは都市なのだから。


そして、恐らくここから一番近い都市は、王都フォロスカリアだろう。

正確な地図は持っていない。が、クセスから買った大雑把な地図には、この森から南南東にフォロスカ王国の王都が存在していることが分かっている。

直近の中目標はここに向かう事だろう。とはいえ、一人では行けまい。大人の誰か同伴してもらわなければ厳しいだろう。ヴェルトとセリナは、リフェが産まれたばかりで家を空けたくないだろうし、頼むならクセスだろう。

そして、森を出るにはヴェルトとセリナからの許可もいるだろうし、クセスも首を縦に振ってくれるとは決まっていない。

それらを小目標に据えるべきだろう。


いいぞ。少しずつ俺のやるべきことが見えてきた。


それと、いい加減魔法も使いこなせるようになりたい。

そういえば、ヴァム(身体強化魔法)とやらのやり方も教えて貰わないと。

ワルロシャクももっとクールに使いこなしたい。

『リフェが大人になるまで見届ける』も中目標として書き留めておきたい。


頭に思いついたことをどんどん紙に書き連ねていく。

頭の中の文字を、紙に書くと同時に脳が整理されていく感覚。アウトプットの重要性をしみじみと感じる。

一通り書き終える頃には、真っ白の紙は日本語で埋まっていた。



中目標

・王都フォロスカリアに向かう

・無詠唱魔法を使えるようになる

・ヴァムを教えて貰う

・ワルロシャクを使いこなせるようになる

・リフェが大人になるまで見届ける。


小目標

・ヴェルトとセリナに森を出る事の許可を取る

・クセスに王都まで連れて行ってもらうよう頼み込む

・魔法の練習を毎日欠かさず行う

・ヴァムについてヴェルトに聞く

・ワルロシャクの練習を毎日欠かさず行う

・兄としての振る舞いを模索する



気づけば、時計は0時を示してた。何時ごろ始めたかは覚えていないが、いつも寝る時間は20時とかなので、超夜更かしだ。

書き終えた目標紙を八つ折りにし、枕の下に置く。

壁に貼っておいてもいいが、日本語で書いてあるから見られた時の説明が面倒そうだ。



凝った首を回し、大きく伸びをする。



「ちょっと長いことデスクワークしすぎたな、、」



眠気が襲ってきたので、寝る前のトイレに行く。

トイレの帰り、リビングのベビーベッドでリフェが寝ていた。

見ると、毛布が体からずれてしまっている。

4月とはいえ、夜は冷える。

風邪をひいては大変だ。

ベビーベッドに近づいて、そっと毛布を掛け直してあげる。

リフェは変わらず静かな寝息を立てている。



「おやすみ。」



小さく呟くようにそう言い。俺は自室へと戻った。

・兄としての振る舞いを模索する

目標を早速達成できたかもしれない。


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