23話 妹
「オギャァアオギャァア」
赤ん坊の産声で目が覚める。
床に寝落ちしていたのか。
体中が痛い。
ん?産声?
まさか!
痛む体を床から弾くようにして飛び起きる。
産声のする方へと足を縺れさせながら進む。
扉に手をかける。今日の朝、俺の額に激突してきた扉だ。
扉を開けた先には、既に皆揃っていた。
涙を滝のように流しているヴェルト。
達成感に満ちた顔で一息ついているフキルクさん。
そして、ベッドの上のセリナと、
セリナの腕に抱かれている赤ん坊。
「ほら、ユートもこっちおいで。」
放心している俺をセリナが呼び寄せる。
「この子があなたの妹よ。」
そっと腕の中の赤ん坊を見せてくれる。
小さい。
俺の小さな体と比べても、小さな赤ん坊。
いや、赤ん坊はみなこんなサイズ感なのだろうか。
実物の赤ん坊を見るのはこれが初めてだからわからない。
俺の腕よりも細そうな身体だ。顔なんて、両手でそっと包めてしまいそうなくらいしかない。
指先は俺の小指よりも細く、握った手は大福みたいだ。
こんなに小さな体が、あと五年刻めば今の俺と同じサイズになるとは、信じられない。
「ほら、手を握ってみて。」
セリナに言われて手を伸ばす。
「っと、、その前に、手を洗ってきます。さっきまで床に付いていた手なので。」
「偉いわね。そこの水桶の水は綺麗よ。それを使いなさい。」
ベッド横の水桶をセリナが示す。
爪の隙間まで丹念に手を洗い、赤ちゃんに向き直る。
「あっ、そういえば妹の名前は?」
「リフェだ。」
振り向くと、目の下に濃い泣き跡をつけたヴェルト。
「リフェ・ヴァクネリア。それが、お前の妹の名前だよ。」
「リフェ、、、」
彼女の頭には、薄く綺麗な銀色の髪が生えている。セリナ似だろう。
しっかりとした目をしている。ときより瞼を開けた時の目元が、ヴェルトそっくりだ。
「ふぇぁ。」
くしゃくしゃにした紙を靡かせたような声。
これが、俺の妹、、、
そっとリフェに指を差し出す。
俺が差し出した指を、リフェが掴む。
小さく柔らかい指だった。
握られたところから、全身にフワフワが駆け巡った。
猛烈な安心感が身を包む。
天使だ。
そう形容する他無い。
「ふふ。お兄ちゃんの手が気に入ったみたいね。」
リフェはまだ開ききっていない三本の指で、俺の人指し指を掴んでいた。
俺はそこから手を動かせなかった。
何分経っただろう。
妙に湿度の高いはずのこの部屋が、この上なく心地いい。
さっきまで疲れて、立つのもままならなかった足が、震える事なく直立している。
ただひたすら、リファに掴まれた手の座標を動かさない様にしていた。
そんな俺を、セリナとヴェルトはただ微笑を浮かべて見守ってくる。
そのうちリフェは、俺の指を掴んだまま眠った。
俺もつられて眠気が襲ってくる。
このまま倒れたらリフェの手を巻き込んでしまうだろうか。
そう思い、後ろに倒れた。
ベッドから離れるように静かに倒れる。
怪我する心配は無かった。
きっと、後ろ向きに倒れた俺の背中を、ヴェルトの広い手が支えてくれる。
その予想は、きっと的中したんだろう。
確認する前に、俺の意識は夢の中へと沈んでいった。




