18話 魔力駆動式鉤縄
「お。決まったみたいだね。どれどれ、、」
クセスが棚の裏から姿を現した。
その視線は俺の指先を辿り、やがて俺が指し示す棒の先で止まる。
次の瞬間、クセスの目が大きく見開かれた。
「あちゃぁあ。いい目をしてるねユート君。それはこの店でもトップクラスに高い品だよ。」
やっぱりか。
「えっそうなのか?高価な品にしては隅に置かれているが、、」
俺を抱き上げてくれているヴェルトが訝しむ。
「高い品物ではあるんだけど、買い手が中々付かなくてね。まあ簡単に言えば需要が無いんだよ。」
ということは、価値は高いが、処分に困っていた品。ということだろうか。
となると少し損した気分になるな、、
「子供が持つには少し高価すぎるけど、約束は約束だ。よし。君にこれをプレゼントしよう!」
クセスはわざとらしく釣り竿を両手で持ち上げ、宝でも献上するかのように、恭しく俺の前へ差し出してきた。
「ありがとうございますッ?!」
重い!
貰った瞬間腕が持っていかれる。
「大丈夫か?」
ヴェルトが直ぐにカバーしてくれたおかげで落とさずには済んだ。
「あぁごめんよ。確かに三歳児が持つには少し重かったかも。」
「い、いえ、、、見た目で軽そうに思っていたので、、」
というか三歳児の腕力を甘く見ていたのは俺の方だ。
ダメだな。もう三年も幼児をやっているのに、まだ男子高校生の頃の感覚が抜けていない。
「父さん。おろしてもらってもいいですか?」
「あ、ああ。」
ヴェルトに下ろしてもらってから、再度釣り竿をもう一度持ち直す。
しっかり腰を入れれば、一応持てないこともない。
三歳児でも持てるレベルなのだから、そんなに重くはないのかもしれない。
手に持ってまじまじと観察する。
釣り竿。と思ったが、少し短い。1mくらいだろうか。床に垂直に立てれば俺の身長と同じくらいだ。
竿部分は重厚な木材。持ち手部分には革が巻かれていて握り易そうだ。
今の俺の手では、まだ握りきれない太さだな、、
そして、一番目を引くのがリール部分。
魔石と呼ばれていた宝石が下側に付いている。
というか、中世くらいの釣り竿にリールは付いているものなのだろうか。
リールから伸びる細い糸は、今は一メートルほど垂れている。その先端には、矢じりのような金具が付いていた。
「ユート君はどうしてそれを選んだんだい?」
クセスが聞いてくる。
高そうだったから、、なんて言う訳にはいけない。
「えっと。近くの川で釣りがしてみたくて。」
嘘ではない。
実際、前世の頃から釣りは結構やっていたし、魚で食卓を彩ることに貢献できればと思ったのも事実だ。
「釣り?アハハハハ。もしかして釣り竿だと思っちゃったのか。」
「え?」
「そうだったのか。やけにクセの強いものを選ぶから、何かしら意図があるかと。ユートのことだし、、」
「???」
「ごめんごめん。説明不足だったね。よし。じゃあこの道具について説明をしよう。これにするかどうかは説明を聞いてからでも決めればいいさ。」
これは釣り竿では無かったらしい。
いや、どう見ても釣り竿じゃないか?
まぁ確かに釣り竿にしては複雑な仕組みが内包されているように見えるけど、、
目を点にしている俺にクセスが解説を聞かせてくれる。
「これの正式名称は魔力駆動式ワルロシャク。斥候を生業にしてる人向けの道具だね。」
魔力駆動式?ワルロシャク?
前者は響きで意味を察せるが、後者は初めて聞く単語だ。
「ワルロシャクっていうのは、、、?」
「そう聞かれると思ったよ。ちょっと待ってて。」
そう言ってクセスは裏の棚を漁る。
「これこれ。これが一般的なワルロシャクさ。」
クセスの手には、熊手と縄と棒をそのまま直列繋ぎしたような道具が握られていた。
「これはね。斥候の人たちが、高い壁や木の上なんかに登るときに使う道具なんだ。この鉄の部分を投げて、引っかかったら縄を手繰って登っていく。って言ったらわかるかな?」
あーーー。
これあれだ。
名前は出てこないけど、忍者が使うヤツ。
城の壁に引っかけて、乗り越える時に使うヤツ。
ダメだ。名前が出てこない。
あ!『鉤縄』だ。
あースッキリした。
つまりコレは
『魔力駆動式鉤縄』ってことだ。
ワルロシャク。シャといよりサャって感じか。
結構好きな響きだ。
いや、そう言われてもコレは釣り竿にしか見えないぞ?
鉤縄要素どこだよ。
熊手じゃなくて矢じりだし。
縄じゃなくて糸だし。
鉤縄と一致してるのは、棒部分だけだよ。
「ハハハ。『これが鉤縄、、?』て感じの顔してるね。」
顔に出ていたか。
「それはとある発明家が作った一点物でね。理論上は、『俊敏に使いまわせる鉤縄』らしいんだ。」
「?使いまわせるというのは?」
「うーん。こればっかりは実際に使って見せたほうが分かり易いかもね。よし、じゃあ実際に使ってみせようか!それを貸してくれる?」
クセスが俺から『魔力駆動式鉤縄』を受け取ると、ノリノリで外へ出ていく。
偉く世話を焼いてくれるな、、
「ったくクセスのやつ。ずっと抱えてた不良在庫がやっと日の目を浴びるからってテンション上がってないか?」
不良在庫、、、外れを選んじゃったかな、、
まぁ変えてもいいって言ってるし実演次第でそこの剣に変えてもらうか、、
クセス商店、もとい、馬車から、降りる。
買い物を始めた時はまだ昼過ぎだったはずだが、もう日が傾きかけている。
「ユート君見ててよ~。こいつの凄さを!」
クセスが魔力駆動式鉤縄を高く掲げる。
「てやぁーーー。」
叫びながらクセスが竿を振る。
しかし何も起こらなかった。
「あれぇ?、、って魔力切れじゃん。ずっと放置してたから、、」
魔力切れ。
なんとなく予想は付いていだが、あのリール下部に付いている魔石が、電機における電池のような役割を果たしているのだろう。
あそこに溜まった魔力で駆動するから、『魔力駆動式』なんだろうな。
「先輩。奥さんに魔力補給頼みたいんですけど、どこに行かれました?」
「あー、買った品を中で整理してくるって言ってた気がするな。呼ぶよ。 セリナーー!」
ヴェルトの呼びかけが聞こえたのか、家からセリナが出てくる。
「何かあったんですか?」
「あ、セリナさん実は。。。」
クセスが事の顛末を一から話す。
「あらそうでしたか。分かりました、最低限使えるくらいには貯めてみます。」
セリナがクセスから魔力駆動式鉤縄を受け取り、魔石部分に手を当てる。
チャージを開始したようだが、特に魔石が光るとかは無いようだ。
1分ほど経った。
「一応お試しで使えるくらいは溜まったと思います。」
セリナがクセスに魔力駆動式鉤縄を渡す。
「ありがとうございます。今思えば、もっと森の奥の方が本領発揮できるな。よし。ちょっと僕についてきてください。」
クセスは森の中へ入っていく。
ヴェルトの管理が行き届いている範囲なので木はまばらだ。
「よし。ここらでいいでしょう。」
クセスが歩みを止める。
そして、魔力駆動式鉤縄を掲げる。
「てやぁーーーーー!」
シュロロロロロ
クセスが竿を振ると、細い糸が鋭い音を立てて伸びていく。
絵面は完全に海釣りの遠投だが、ここは森だ。
先端の矢じりが、背の高い針葉樹の枝に差し掛かる。
「ユート君!僕の手元にも注目!」
クセスに言われて、彼の手元にも目を向ける。
持ち手に巻かれていた革がほどかれている。
代わりに、タイプライターのキーのような部品が持ち手から二つ飛び出している。
クセスがその一方を押した。
バシュ
糸の先で、何かが弾けるような音がした。
糸の先に視線を戻す。
先端にあった矢じりが左右へ割れ、代わりに十字型の金具が展開する。
十字の金具が木の枝に引っかかる。いや、『刺さる』といった方が適切だろうか。
ダッッッ
今度はクセスの方から地面を蹴りつける音がする。
目を向けた時には、そこにはクセスいなかった。
跳んでいた。
いや、飛んでいた。
クセスは空に浮かんだ体の重みすべてを糸にゆだねる。
木の枝に刺さった十字の金具を支点に、空を滑走する。
まるでターザンロープだ。しかもスタイリッシュな。
思わず俺は拍手をする。
「おいおい。拍手にはまだ早いよユート君!ここからが本番ッ。」
本番?
糸の張りが限界に達し、あとはこちらへ揺り戻ってくるだけだと思った。
しかし、その瞬間。
木の枝に刺さっていた十字引っ込み、再び矢じりの形に戻る。
そして、糸はリールによって素早く竿に巻き戻る。
「そら、もう一回!」
クセスが滞空したまま、竿を更に奥の木に向けて振る。
シュロロロロロ
また、鋭い音を立てて、糸が伸びていく。
先ほど陸でやった動きを空に浮かんだまま行っている。
木の枝に糸の先端が差し掛かる、、
「ここだ!」
バシュ
遠くから辛うじて聞こえたその音と共に、矢じりが再び十字に展開される。
木の枝に糸先が固定される。
それを支点にまたクセスが空を滑空する。
すごい。まるで、立体〇動装置だ!
こうやって、次から次に木を渡っていけるのか!
「これが魔力駆動式鉤縄の実力だぁぁあああああ。」
ドスン
「「あ」」
滑走していたはずのクセスはその勢いのまま地面に鋭く切り込んでいった。
おそらく、糸が長すぎたんだろう、、
***
「本当に大丈夫ですか、、クセスさん、、、」
「平気ですよ。骨は折れてませんでしたし、次の客を待たせてますから。」
地面に突き刺さったクセスはうちで応急処置を受けて早々に馬車へ乗り込んでいた。
どう考えても、骨を折ってそうな勢いだったが、無事だった。
ヴァムとやらを使っていたのだろう。
「それでは先輩、また半年後に来ますんで。」
「おう。いつもありがとうな。後、これも。」
ヴェルトが俺の持っているワルロシャクを顎で指す。
「いえいえ、尊敬する先輩のお子さんの三歳祝いになら安いんもんですよ。」
「そうか。それでもありがとうな。」
「ありがとうございましたクセスさん。」
俺もちゃんとお礼を述べる。
「ハハハ。本当に出来た子だ。ソレ、大事に使ってくれよ。」
クセスが巨大馬に鞭を入れる。
大きな馬車が豪快に動き出す。
「それでは、みなさん!お元気でぇ!」
快活な彼の声は森の奥へ消えていった。
・魔力駆動式鉤縄を手に入れた!new




