17話 買い物
玄関の扉を開ける。
家の前には、巨大な馬が二頭とそれに繋がれた馬車が止まっていた。
馬車の裏から大人三人の声が聞こえてくる。ヴェルト達が談笑しているようだ。
けれど、俺の興味は目の前のバカデカい馬に惹かれていた。
デカい。デカすぎる。
前足の先から頭まで3mはあるだろうか。
前世の動物園で見た馬が小さく思えてくるサイズ感だ。
二頭とも、着けている革の防具に葉や木の枝が付着している。
この巨体で森の中を強引に突っ切ってきたのだろう。
こんな森中にどうやって行商が来るのか疑問だったが、あまりに脳筋すぎる回答だ。
馬車の方もデカい。
このモンスター馬が二頭も必要なことが納得できるほどには巨大だ。
軽く2tトラックくらいの大きさだろうか。
基本材質は木材に見えるが、所々金属の補強が施されている。
「ユートを呼んでくる。ちょっと待っててくれ。」
声と同時に馬車の裏からヴェルトが出てくる。
「ってユート。出てきてたのか。」
「はい。馬車の音がしたので。」
「呼びに行く手間が省けたな。こっちにおいで。紹介してやろう。」
ヴェルトに手招きされて、馬車の裏手に回る。
「おぉ。君が噂のユート君かい。初めまして。僕はクセス・レイコール。行商人をやらせてもらってるよ。以後よろしくね。」
ダボダボな裾をした緑のコートを身にまとい、葉っぱが絡みついたボサボサな茶髪を揺らしながら、快活な顔付きの好青年が自己紹介をしてくる。
「こ、こんにちは。俺はユート・ヴァクネリアです。よ、よろしくお願いします。」
どもってしまったが、なんとか自己紹介を返す。
「ほー。出来た子だねぇ。君本当に三歳かい?」
「そうだろう。そうだろう。天才なんだユートは。」
ヴェルトが自慢気に頷く。
「それに本当に金髪じゃないか。それもこんなに鮮やかな、、、」
「、、?金髪がどうかしたんですか?」
今更だが、俺の髪は綺麗な金色だ。
生みの親の両方が金髪だから当たり前ではあるのだが、もしかしたらこの世界では金髪は珍しいのだろうか。
「そ、それより早く店を開けてくれないか?ゆっくり吟味したいんだ。」
ヴェルトが焦ったように話を変える。
まぁ確かに、ヴェルトもセリナも髪色は金色じゃない。
俺が、二人となぜ髪色が違うのか?なんて聞いてくると都合が悪いのだろう。
俺は拾い子だと二人から聞かされていない。
もちろん俺は自分が拾い子だとは知っているが、二人は血のつながった子供として扱いたいようだから、言わないようにしている。
まぁ彼らなりのやさしさなのだろう。
というより、金髪の話をクセスが知っていたということは、二人はクセスには俺が拾い子であることを伝えていたのだろうか。
クセスがヴェルトのことを『先輩』と呼んでいることも気になる。
色々気になることはあるが、今はこっちの方が大事だ。
「それじゃあ早速、新たな客を歓迎しようかな。」
クセスが馬車後方の扉の鍵を開ける。
「さぁさぁどうぞ。見ていってください。我が『商店』を!」
馬車の扉が開くと同時に、中から折り畳み式の階段が飛び出してくる。
ちょっとワクワクしてきたぞ、、
馬車の中は、俺の部屋と同じくらいの広さはあった。
商品が所狭しと敷き詰められているので、実際の広さはもっとかもしれない。
部屋の真ん中列に置かれた棚と、両壁に沿って置かれた棚。
計三つの棚に様々なものが陳列されている。
コンビニを分割して持って来たようなイメージだ。
天井からは、乾燥した薬草が、繁茂しているかのように吊るされている。
見たことのない道具や、食べ物、宝石のようなものも陳列されている。
あっちにはデカい頭骨が飾ってある!
テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ。
「とりあえず、このリストにあるものをまとめてほしいんだけど。」
そういいながら、セリナが紙をクセスに渡す。
「了解です。いつものですね~。パパっと詰めちゃいます。」
クセスが流れるような動きで棚から商品を取り出していく。
すべての商品の位置を覚えているのだろうか、、、
その動きには迷いが無い。
「あ、良さげな砥石は仕入れてねぇか?出来れば魔石付きだと助かるんだが、、」
「ありますよ!先輩のためにわざわざ仕入れておきました。これも詰めときますね!」
ヴェルトとセリナは棚を見ながら次々と欲しいものを伝えていく。
それを聞いたクセスがどんどん商品を棚から抜いていく。
「あ、クセスさん岩鳥の卵をあるだけください。ユートが卵好きみたいで、、」
「了解です。全部詰めちゃいます。」
両親が順調に買い物にいそしむ中、俺は一人蚊帳の外だ。
せっかくなのだから、なにかおねだりがしたいところだ。
しかし、困った。知らないものだらけなので、何が欲しいのかわからない、、、
そもそも値札が付いていないのだ。
値段を見ずに買い物だなんて、この世界ではこれが常識なのだろうか。
というかそもそもこの世界の通貨を知らない。
そんな俺を見かねたのか、クセスが手は止めずに話しかけてくる。
「ユート君。欲しいものが思いつかないかい?何でも言ってごらん。ここに無いものは王都に行っても無いくらいさ。」
「えーと、値段が分かんないから、怖くて、、」
「おぉ!なんて家計思いのいい子なんだ!」
クセスが指をデコに当てる。何かを考えているのだろうか。
「そうだ。じゃあ君が欲しい!と思ったものを一つ選んでごらん。その商品が何であれ、タダで君に譲ってあげよう!僕から君への三歳祝いだと思ってくれ!」
まじかよ。兄さん太っ腹ぁ!
「マジかよ!クセス!」
俺より先にヴェルトが反応する。
「よっしゃ、なら、どうせなら一番高いものを選ぼうぜユート。えーと、一番高そうなのは、、」
「ちょっと先輩!それはダメですよ。ユート君の欲しい!と直感したもの限定です。大人からの助言は禁止にします。」
ヴェルトが残念そうな顔をする。
「だそうよ。ユート。お金のことはいったん忘れて、あなたの欲しいものを選んでみなさい。」
そう言われても、俺だってどうせなら高いものを貰いたい気持ちはある。
だが、直観か、、、
俺は店内を練り歩く。
俺の身長で見える範囲には、食品や雑貨ばかりであまり高そうなものは無い。
高そうなのは、上の方か、、動物の頭骨もたくさん飾ってあるしな。
「すいません父さん。僕を持ち上げてもらってもいいですか?上の方も見たいんです。」
「おお。任せろユート。」
ヴェルトに担いでもらって棚の上まで見渡す。
時計、靴、カバン、魔石って呼ばれてた石、剣や杖に、、
くそっ。高そうで、且つ俺の好奇心をそそる物が山ほどある。
さっきよりも選べなくなってしまった。
そんな俺の目に、棚の端から飛び出ている棒が目に入る。
釣り竿、、か?
見た目は釣り竿に似ている。
だが、その構造の複雑さが並ではない。
竿の部分から糸の先端の金具。すべての部分において高度な細工が見て取れる。
絶対高い。
俺は自分の直感を信じて指をさす。
「これにします!」




