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16話 行商人



目が覚める。

寝起きで重い瞼を、夏の強い日差しが強引に開けさせてくる。



身体がかなりだるい。昨日の魔力切れのせいだろうか。


そういえば、セリナに謝らなければ。

と思い、ベッドの横を見るが、セリナの姿はなかった。

代わりに、部屋の外から、何やら香ばしい匂いが漂ってくる。



匂いに釣られて自室を出る。


ジューーー


キッチンから何かを焼いている音が聞こえる。


珍しい。

基本的に朝ごはんはパンと干し肉と野草で、火は使わないはずだが、、



リビングに出ると、キッチンで料理をしているセリナと目が合った。


「ユート!大丈夫?体に異常はない?」


料理の手を止めて、こちらに近づいてくる。

そして、俺を抱き上げて、デコに手を当てる。


ち、ちかい、、、



「熱は無さそうね。ごめんね。私が魔力切れを甘く見ていたみたい。」



「い、いや、俺が調子乗って魔法を使いすぎたのが悪いんです。心配をかけてすいませんでした。」



「いいえ。違うわ。これは私の責任。自分の上っ面だけの知識を過信しすぎていたわ。」



セリナの声が聞こえたのか、玄関からヴェルトも駆け寄ってくる。

上裸で汗をかいている。外で日課のトレーニング中だったのだろう。




「ユート。大丈夫だったか。倒れたって聞いて気が気じゃなかったぞ。」



「父さんにも心配を掛けました。」



「全く、気絶するまで魔法を使うって、、好奇心が強すぎるのも問題だな。」



「ははは、、ご迷惑をおかけします。」



「ごめんね。私がもっとちゃんとしていれば、、、」



セリナが珍しく弱気なままだ。よほど、自分の責任を感じているのだろう。

悪いのは調子乗った俺なのだから、あまり気負わないでほしいのだが、、



「そ、そもそも一日二回と言われてたのに、九発も打ってしまった俺がバカなんです。自分を責めないでください母さん。」



「え?お前九発も『水玉』を打ったのか?」



あ、あの魔法そんな安直な名前だったんだ。

ってか『水の玉』って、、俺風に訳すればウォーターボールか。

いいね。異世界って感じの魔法の名前だ。



「ええ。私は桶の水量を見たから知っているわ。びっくりしたわ。普通の男子の三倍くらいの魔力量があるみたいね。」



「すげぇなユート。男なのに魔法使いを目指せるんじゃないか?」



やった。自分には才能があるみたいだ。

これはこの異世界最強伝説待ったなしかもしれない。



「うーん。成人男性と成人女性の魔力量の差が大体十倍だから、魔法使いを目指すには少し厳しいかもしれないわね。」



はい。儚い夢でしたっと。



確かに魔法は女性の方が適性はあるとは聞いていたが、

そこまで男女格差があるなんて聞いてない。



しょんぼりしている俺に気付いたのかセリナが口を開く。

「あ、ごめんねユート。でも、間違いなく才能があるのは間違いないわ。でも、これからは無茶しちゃダメよ?」



「わかりました母さん。」



セリナが少しは調子を取り戻してくれたみたいだ。良かった。




「ん?なんか焦げ臭くないか?」



「あっ!いけない。焦がしちゃう!」



セリナが慌ててキッチンに戻る。



そういえば、料理中だったな、、、




***




家族みんなで食卓を囲む。

いつもと変わらない光景だが、今日は少し違う。


お皿に卵焼きが乗っているのだ。

卵焼き、というよりスクランブルエッグの方が違いだろうか。

いや、セリナが焦がしかけたから卵そぼろのほうが近いかもしれない。


まあなんにしても本当に久々の卵料理だ。


去年の冬に食べた以来だろうか、、

この家では家畜を飼っていないので、こういう畜産物は珍しい。



卵そぼろを干し肉と一緒に口に放り込む。

前世のベーコンエッグオマージュだ。




美味い。干し肉の塩気と卵がちょうどよい。


毎日の朝ごはんにほしくなってくるな、、



「卵美味しいです。毎日でも食べたいくらいです。」



「それは良かったわ。卵は栄養豊富だから、魔力切れに効くかと思って、、」



「なるほど。だから今日卵を使ったのか。でももう在庫ないだろ?」



「大丈夫よ。今日はクセスさんが来る日ですから。多めに補充しましょう。」



「あーそういえばそうだったな。」



「?クセスさん?誰ですか?」



「行商人の方だよ。うちの日用品は大体その人が持ってきてくれたやつなんだ。」



行商人か。こんな森の中でどうやって様々な日用品を揃えているか不思議だったが、そういう人が来てくれていたのか、、、二年近く住んでいたのに初耳だぞ。


「俺は会うの初めてですよね?」



「あーそういえばそうだな。あいつは夜に来ることが多いから、お前はこれまで顔合わせできてなかったもんな。」



「そうだったかしら?なんとなく一度くらいは会っている気がしてたわ。」



「まぁいい機会だ。今日は俺も家にいるから、みんなで買い物をしようか。」





***





日が上りきった。

ヴェルトとセリナは、クセスさんに売るための薪を蔵から運び出すために朝から働いている。


一方俺は、安静にしていろと言われ、自室に軟禁されている。


仕方ないので、魔獣図鑑を読みふけることにした。




それにしても、客人か、、



今思えば、この世界に転生してからまともに話せた人間はヴェルトとセリナの二人だけなので、実質三人目の異世界人との邂逅だ。



そう思うと、緊張してくる。

ちゃんと話せるだろうか。


前世は、そこそこ人見知りではあったので心配だ。



今のうちにあいさつの練習をしておこう。



「ダイタン。」



違うな。もっと丁寧に、、



「ダイタン。」



いやもっと元気に、、



「ダイタン!」



と一人、部屋であいさつ練習をしていると、



ガタン。ガタン。ガタン。



と、規則的なリズムが森の奥から音が聞こえてくる。



ガタン。ガタン。



そのリズムが家の前で止まる。


「ヴェルト先輩!セリナさん!お久しぶりです!」

快活で朗らかな男性の声。



どうやら行商人のクセスさんが来たようだ。



俺は、自室の扉を開け、この世界での記念すべき三人目に会うための身嗜みを整えながら玄関へと歩いた。


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